第59話「投手戦」
先攻:鉄日高校オーダー
1番センター、四方。2番ショート、本田。3番ライト、木口。4番ファースト、地村。5番レフト、泉中。6番セカンド、斑鳩。7番サード、島田。8番キャッチャー、迫田。9番ピッチャー、黒鉄(先発)。
後攻:黒光高校オーダー
1番ショート、田中。2番セカンド、今宮。3番センター、山口。4番サード、大滝。5番ファースト、伊奈。6番キャッチャー、金条。7番ライト、小林。8番レフト、佐々木。9番ピッチャー、新田(先発)。
「さあ始まりました秋季県大会決勝戦! 一塁側ベンチに鉄日高校。監督は、戦術論で知られる名将、乾健太郎監督。37歳と若いですが、その手腕に期待がかかります。夏は惜しくも甲子園出場を逃していますが、エース黒鉄大哉くんを軸に、一年生右腕の宮城臨くんの好投、4番地村洋くんを中心とした強力打線の活躍もあり、今大会は一昨年からの秋季三連覇に期待がかかります。そして、三塁側ベンチに黒光高校。監督は、絹田幸二郎監督。夏甲子園に導いた実績があります。エース新田静くんの変化球はおそらく全国的に見てもトップレベル。上位打線を中心とした繋ぐバッティングで、一年生もしっかりと活躍の場を見せており、投手陣もジャイロボールを巧みに扱う鷹戸遥斗くん、スローカーブとシュートを使う左腕、古堂黎樹くんなども同様に一年生。活躍が期待されます。実況は、わたくし、増田が務めさせていただきます。解説席には、かつては大学野球界屈指の名将、強豪で知られる明鏡大学の元監督、加賀美伸一郎さんにお越しいただいております」
「どうも、加賀美です。試合の話がしたいです。いいですか話しても」
「え、ええどうぞ……」
「黒鉄くんと新田くんは、私が監督だったら、絶対に欲しい投手ですね。二枚看板で無敵を誇れたでしょう」
「は、はあ……。しかしまあ、黒鉄くんと新田くんは、同じシニアチームの出身だそうですね」
「……投手の投げ合いにも注目したいところですが、この試合は、暗黒世代と呼ばれている一年生にもぜひとも注目していただきたいと思います。絹田、乾両監督は、それぞれ、一年生の育成を怠ることなく、紛いもない『戦力』として磨き上げてきました。彼らの活躍にも期待がかかります」
「それではプレイボール!」
実況席の声と共に、けたたましいサイレンが鳴り響く。
「っしゃす!」
早速マウンドに向かう新田静。ホームに金条を座らせる。打席に立つ先頭打者、四方和也を見据える。
(1番センター、四方和也。万能型バッター。足は1番バッターにしてはそこまでだが、盗塁のタイミングがやたら上手く、安打力がずば抜けている。流し打ち方向の安打も優れているから怖いバッターではある。紛いもない白銀世代って感じ)
金条は頭の中に調べた情報を羅列させる。
(敢えて打ち頃の球を投げ、外野へのライナーにする。うちの外野手頼りになるのは申し訳ないが、ウチの外野の守備は、正直巧い)
左打席に立つ四方。新田は初球、外角から内角へと入り込んでくるシュートを投げた。当然、四方にとって打てない球ではなく、平然と打ち返す。しかし――
「打てると思ったが……予想以上にキレる……詰まらされた……」
初球からセンターフライに打ち取る。まずは1アウト。
(次は2番ショート、本田清行。バントが巧いし、バットをボールに当てるのが巧い。でも、新田さんの変化球で狙いを絞らせなければ、もはや脅威じゃない)
初球スライダーを見逃してストライク。2球目のカーブもエリアのギリギリにいれて2ストライクと追い込む。
(げ……出た精密コントロール。追い込まれたらバットを短く持って……カット!)
3球目、新田の左手から放たれた揺れる魔球――柏木のモノに比べれば全然たいしたことないのだが、それでも、追い込まれたバッターを動揺させる上で十分すぎる武器だった。
(な、ナックル――こんな序盤からっ!?)
本田を三振に切り、2アウト。新田はさわやかな笑顔を金条に向ける。
(くっそぉ……イケメンだな……。変化球王子か……四方さんやられたのは意外だったけど、さすが白銀世代だな)
3番打者木口諒真が打席に立つ。
(一年にしてテッ高の3番打者。打撃力、走力、守備力……おまけに肩の力も総合的に見て非常に高い優れた選手だ。県外から来ただけのことはある。白銀世代を除けば、県内トップレベルのバッター。でも、どんなボールでもストライクゾーンに入っていると思えば迷わず振ってくる。初球ナックルで様子見してから、ギリギリ外れたボールで空振りを誘っていけばいい)
初球のナックルを要求。投げる新田。空振りする木口。捕球する金条。
「金条ナックルしっかり捕球してるじゃん……」
「ハッ高のキャッチャーに感化されたんだろう。鉄日相手に新田さんの出し惜しみをしたくなかったんだね」
古堂と林里がベンチで話す。
「リョウちゃん! 無理にナックル振るんじゃねえ馬鹿!」
斑鳩がベンチから叫ぶ。乾監督はそれを制する。
「やめとけ……木口は正直なスイングをしている。見送ることができない馬鹿だが……新田にプレッシャーをかけるには十分だ」
(むやみにスイングしてるが、当たると飛びそうで怖いな。しかも、それなりに良いところに……)
新田は少し警戒した様子で、2球目、内角に切り込むスライダーを投げる。
「ぐっ……!」
ボール球を空振りする木口。3球目のカーブ。ボール球を振り抜くが、球速差にやられ、三塁線をボテボテと転がる。
(目の前のことに、全力を注ぐ!)
捕球した大滝。一塁伊奈に送球。伊奈も捕球してアウト。
「たった7球で一回の投球を終えています新田静!」
実況席も、そのピッチングに沸く。
「……良いですね新田くん。初回からキレキレですよ」
嬉しそうな解説席。
「っしナイスピッチ新田!」
「サンキュー今宮!」
「調子イイんじゃねえの?」
「おかげさまでな」
二遊間の二人に声をかけられ笑う新田。
「バッティング、黒鉄、気をつけろよ」
「ああ、わかってる」
笑顔から目の色を変えた二人。センターの山口もやってきて新田に言った。
「あの日の言葉、覚えてるでしょ? 絶対に打ってやろうよ。俺たちクロ高が弱くないってこと、証明しようよ」
「ああ!」
新田も、田中も、今宮も強く頷いた。
一回裏、マウンドに立つ黒鉄大哉。線が一本すっと入っているかのような精悍な顔。鬼気迫る表情は、絶対的エースの風格を漂わせている。また、その一見細身ながらも、しっかりと鍛えられた肉体は、今日のこの決戦の舞台に合わせ、調子を合わせてきたことを窺わせる。
「さあ、締まってこうぜ」
マウンド上で呟く黒鉄。球場は沸いている。打席には、1番ショート田中。
(打つ。出塁する。打つ!)
黒鉄の初球ストレートど真ん中。タイミングを合わせて、練習通り振り抜けばいい。しかし――
「ストライク!」
(い、今、手元で加速したように感じた……)
そのノビに優れたストレートが、田中の手元で唸る猛獣の如く突き進んできたのだ。2球目は、内角の外れた箇所から入り込んでくる高速スライダー。ボール球だと思って見逃した田中を追い込む2ストライク目。
(……予想以上にキレやがる。球速重視のくせに……)
3球目は外にまっすぐ。田中は振り抜くが、少しバットが低めに空を切った。
「ストライク! バッターアウト!」
「くっ……(嘘だろ……こんなに……こんなに打てないモノなのか?)」
田中は悔恨残る表情で打席を去る。黒鉄は嬉しそうに笑うと、ずれた帽子をかぶり直した。
(黒鉄さんのノビは完璧。ここ数日で1番良い。配球も上手く嵌ってくれてよかった)
キャッチャー迫田は、一年生ながらに良配球を見せている。続く2番バッター、今宮を見た。
(前進シフト!)
迫田のサインを受け、黒鉄が腰に回した右手で内野手及び外野手を手招きした。それに合わせ、全員が極端に前に出たシフトを取る。
(なんだこいつら……俺がそんなしょぼい内野安打しかできねえと思ってんのか?)
今宮は大きくスイングをする。
(はっ……魅せるだけのスイングなんか、したって意味ねえよ今宮……)
黒鉄は笑うと、初球ストレートを低めに投げた。
(の、伸びるな)
見逃した今宮。そのノビに戦慄を覚える。2球目は、高速スライダーを外に外す。3球目は逆に、内角に切り込ませた高速シュート。
「ふん!」
打ち返した今宮。打球は黒鉄の左手側を飛んでいく。ミットに収まらない打球。強い打球が、前進守備の二遊間を抜けると思われた。しかし――
「おーらよっと!」
セカンド斑鳩が打球に即座に反応。軽快に捌き、今宮をアウトにした。
「おおっと! 前進守備にしてこの反応速度! 白銀世代の二塁手、斑鳩、恐るべし!」
「マジかよ……」
今宮は奥歯をぐっと噛んでベンチに戻った。高い笑い声を上げてまた深めの守備位置に戻っていく斑鳩。
「まっ、この程度なら捌いたげるから安心して投げなよ、ダイヤくんよ」
「ははっ、わりぃ、んじゃ頼むわ」
黒鉄は笑って、次の打席を見つめる。3番打者山口。細い糸目は、何を考えているのかわからない。
(まあいいや……こいつは力押しで……と)
初球高めのストレート。空振りする山口。
(寿が空振り……そんだけ伸びているのか……?)
ベンチでは、いつも山口とバッティング練習をしている小林が目を見開く。2球目は外ギリギリに滑り込む高速スライダー。見逃して2ストライク。
(入っているのかよ……コントロール、新田ほどじゃないけど十分良すぎる……)
(これでトドメだっ!)
3球目、投げた低めに外れるストレート。しかし、これに手が出てしまった山口。空振り三振となってしまう。
「三振! チェンジです! 鉄日高校黒鉄も負けじと9球で一回の投球を終えています! 両校共に無得点! 安打すら出させません!」
そして来る二回表――瞬く間に過ぎた1回を儚い表情で見ていたひとりの男。
「4番、ファースト、地村くん」
黄金世代の閑谷明からヒットを打った男、地村洋が左打席に立ち、新田を無表情のまま見つめるのだった。
「……(来い、新田静)」




