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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
53/402

第53話「白熱」

 柏木を見据える大滝。狙うは一発――――。

(……ホームラン狙うだなんて馬鹿だなあ……)

柏木が初球のナックルを投げる。揺れる魔球にはやはり対応できない。ファウルとなる。

(お前の兄貴の大滝進一さんなら、ナックルなんて屁でもねえといった様子で打ち返していたぜ。さあ、弟のお前はどうするんだ?)

ファーストの白里一哉が大滝を試すような目で見ている。2球目のナックルは外れてボール。3球目のナックルも外れてボール。

(明らかに制球が乱れている……)

4球目のナックルはカットしてファウル。5球目のナックルは外してボール。フルカウントになる。

(クニヤのボールは軽い……こういうパワーヒッターに叩かれたら長打になる。1点差に縮められたら間違いなくクニヤの調子は狂う)

(ホームラン打てなきゃ大丈夫……。絶対に打たせはしない。ボール、掠ったくらいじゃ飛びやしないさ)

柏木は5球目もナックルを投げる。大滝はカットする。

(馬鹿の一つ覚えみたいに……。俺が打てないとでも思うのかよっ!?)

6球目……柏木が低めにナックルを投げ込んだ。揺れる打球が、低めギリギリのストライクゾーンに入っていく。

(低め、当てられるっ! でも、飛ばせるか!!?)

センターにはレイモンドが構えていて彼の包囲網が敷かれている。どんな当たりであってもおそらくセンター周辺なら捕られるだろう。

(打ち分けなきゃ……なんてこと、考えてられるかっ!)

金属バットの高い音が、ボールとぶつかりあった衝撃で鳴り響いた。

「打ったァ! 打球がぐーんと伸びているっ!」

実況の声――大滝は上を見上げた。今宮も二塁ベースから上を見上げている。センターのレイモンドが走って後退する。

(2アウトならこの打球を捌けば交代……2点差あれば勝てる)

レイモンドがフェンス際まで後退する。しかし――

(あれ……打球、落ちてこない)

スタンドに、深く、深く入り込んだ。

(見事なホームランだ)

フェンスの下のマットに背中をもたれかけさせ、呆れた表情を見せた。


 柏木は血走った目を大きく開いてスタンドを見ていた。たまたま二塁ベースを踏んだところの大滝と目があった。

(このヤロウ……)

柏木は、その細い目から血走った目を大きく開かせたまま、大滝を睨んだ。

(ナメた真似してくれやがったな)

大滝もまた、柏木を睨み返した。


 大滝が本塁へと戻ってきたとき、先に本塁に戻っていた今宮も、古堂も、田中も、みんながベンチから飛び出してきて大滝の周りに集まった。

「っしゃあナイスホームランだぜ!」

「最高だぜ大滝!」

「うりいい!!」

「サンキュー真司っ!」

大滝のホームランに、全員が沸いた。4-4。クロ高、8回2アウトの場面で同点に追いつく。

(ナイスだ大滝……。お前を4番に起用して……良かった)

絹田監督も満足そうに頷く。


 しかし、続く5番、伊奈が打席にたち、1塁線にいい当たりの打球を飛ばすが、ファースト白里一哉のファインプレーに防がれてしまう。

「ナイスカズ」

「ナイスっすカズ先輩!」

4打席連続で凡退に倒れた伊奈。悔しそうな表情を見せる。

(福富戦も、秋江工業戦も打てたのに……練習したのに……チクショウ)

スパイクでグラウンドの砂を踏みつけ、悔しさをにじませる。

「……守備だ。守備」

古堂に言われ、すぐさま切り替えて守備へと向かった。


 8回裏、打席には2番打者の山田律が打席に立つ。

(クニヤ……点入れてやっからな)

山田が打席に立つが、やはり古堂のスローカーブをうまく打ち返せない。引っ掛けた当たりはピッチャーゴロに捌かれる。

「1アウト!」

伊奈が捕球して叫ぶ。

(もう俺が打撃で活躍することはできなさそうだけど、守備ならいくらでも貢献してやれる)

「っしゃ! こっからこっから!」

古堂が叫んで次の打席を見る。次は大槻吉秀。鷹戸から一つヒットを放っている。

「しゃす!」

初球、ギリギリのアウトローにストレートを決める。

(まぐれだけどラッキーだ!)

金条も手応えがあったらしく大きく頷く。運も味方しているらしい。2球目のシュートは外れてボール。3球目のスローカーブもボール。

(くっ……今の外したのは痛いな……。次はシュートを……内角ギリギリに入ってくるようなのを頼む)

古堂は頷く。シュートを投げた古堂。その変化に目を見張った大槻。バットを振るがそのキレに間に合わない。空振りして2ストライク2ボールとなる。

(次の打席にはレイモンド……ランナーは出したくない。大槻さんだって、白里さんだって怖いバッターだからこそ……ここはしっかり抑えなくちゃ)

金条が3球目に要求したのは、スローカーブ。制球こそ難しいが、決まれば球速差による空振りも、予想以上の変化量による打ち崩しも、遅い球による反発性の無さによる打ち転がしも期待できる。さらに古堂のスローカーブは、サウスポーカーブによる独特の変化を行うため、変化量を見極めるのが比較的容易になるぶん、タイミングを合わせるのが殊更難しくなる。しかし、大槻とて白銀世代。このまま黙ってはいられない。

(さっき投げただろうがっ!)

大槻がバットを強く振った。しかし……

「ストライク! バッターアウト!」



 2アウトとなった。悔しそうに去る大槻。レイモンドとすれ違う。

「4-4.9回表、クロ高は下位打線。クニヤはまだ投げられる。俺がホームランを打てば勝ったも同然。クニヤは頑張って投げていた。俺も答えてやろう」

レイモンドの言葉……大槻はしっかりと頷いた。

「頼むぜレイモンド……俺はできなかったけど、お前なら……」

「ああ」

打席に立つレイモンド。ベンチの奥で息を整えている柏木。

「きっと、レイモンドさんなら打てるって」

「そーっすよね大槻先輩!」

一年生の錨と権田は大槻に同意を求めてくる。きっと柏木を励ましたいのだろう。同点の本塁打を打たれたダメージというのは、想像しただけでも恐ろしい。たった一回で、4点分追いつかれてしまった状況など、自分が投手ならば想像したくもない。

「クニヤ……レイモンドが、点とってやるってよ」

「……」

柏木は黙っていた。そこに、根古屋監督が話しかける。

「……クニヤ。あと一回、投げられるか?」

「……」

なおも黙っている柏木。阿佐間が駆け寄ってくる。

「……クニヤ、どうする? 俺ならもう投げられ――――」

「るせー」

柏木が静かに呟いた声を、阿佐間は聞き逃さなかった。

「……うるせー……です。ショウジ先輩。打たれたまま下がれません。二安打されたら、交代してください」

柏木の言葉に、リリーフの阿佐間庄司は笑った。

「そうか。じゃあ頼むぞ」

「頼むぜクニヤ」「絶対に抑え抜いてくれよ」「俺も打つからさ!」

白里虎次郎、錨、権田の一年生三人も柏木に託す。


 レイモンドVS古堂は白熱していた。初球の内角厳しめのシュートをしっかりミートさせ、外野まで飛ばすが、ギリギリのところでファウルとなる。2球目の外角低めのストレートは後ろのフェンスに勢いよくぶつかっていく。早くも2ストライクと追い込んでいるが、3球目にスローカーブを投げようと金条が指示を出すが、古堂は首を振る。

(絶対にスローカーブって読まれているよ。次はシュート外に外そう)

(それがいいかもな……外にシュート。ボール球を)

金条が改めて出したサインに古堂も頷き、3球目を投げた。レイモンドはしっかりと見逃してボール。

(よし、じゃあ次は内角にスローカーブ。低めに外せばいい。浮くのは厳禁)

金条の要求に応え、古堂はスローカーブを投げる。少し高めに浮いた打球を見逃さないレイモンド。流し打ち方向に打ち返すが三塁線を切れていく。

(あ、あぶねえ……)

古堂は肝を冷やす気分になる。ランナーがいないとは言え、彼は俊足。後続のバッターのことも考えると、絶対に出塁させたくはない。


 江戸川が大坂に話しかける。

「大坂は……ウィニングボールにスローカーブを使われたよな」

「まあな……俺は球速差に弱いってこと、あいつらに見抜かれてたからなあ」

大坂は古堂に三振にを取られたことを思い返してぐっと歯を食いしばる。

「……あのとき打ててりゃ、あそこで戦っているのが俺たちだった可能性もあるんだよな」

「気にしても仕方ないよ」

「……レイモンドはスローカーブに対応してやがる。どう抑えるのか見物だが……クロ高は次の回下位打線。1点ここで取られるだけで次の回がぐっと辛くなる」

冷静にクロ高バッテリーを見つめる大坂。それは、福富商業の後藤も同じだった。

「本格派ピッチャーは、キャッチャーの技量に左右されやすい。逆に言えば、キャッチャーの実力が高ければ高いほど、ピッチャーの実力を引き出せるということだ」

良配球をしているにも関わらず、中学のときからずっと速球派とバッテリー。そのためその配球の良さを存分に活かせたわけでも、配球の良さを生かせるはずの軟投派の変化球を上手く受け取ることもできなかった金条。しかし、古堂黎樹のような本格派――とバッテリーを組むことによって、金条は真価を発揮していた。金条が古堂の実力を引き出していたように、また古堂も、金条の実力を引き出していたということだ。


 (この慎重派の男なら、ここまで上手く決まっているスローカーブを外角低めに投げ込ませるはず。あと1球分あるからきっと厳しいところに投げ込ませるだろう)

レイモンドの読み通り、古堂は次に投げようと思っていたのは外角低めのスローカーブ。しかし、金条はその古堂の投球を否定した。

(ダメだ。ここは、お前が1番得意な、ど真ん中のストレートでいい。高めに浮こうと構わない。全力投球で、指先一点に、全神経、全体重をかけろ!)

古堂が投げるモーションに入ったとき、レイモンドはベースギリギリに強く踏み込み、外角に備える。

(俺の……全力投球! 受け取れ白銀世代の、レイモンド!!)

古堂の全力投球。レイモンドは初めから外角狙いだったらしく、その直球に目を見張った。

(俺の読み通り)

金条がにやりと笑った。レイモンド=アルバードに向かってまっすぐ伸びていく直球。少し後ろに踏み込みなおすレイモンド。

(直球勝負とは、興味深いな)

しっかり踏み込んで、下半身の力をぐっと込める。骨盤のひねりをスイングに加え、力強くスイングした。

(た、タイミングがっ!)

予想を外されたレイモンド。予想以上のノビ、球威に……打球が少し詰まらされた。それでも、打球を力強く引っ張っていくレイモンド。

「打った!!」

強く飛んでいく打球。詰まらされたとはいえ、全く勢いの落ちる様子がない打球。

(う、嘘だろ……まさか入っていくのか?)

古堂も金条も上を見上げて目を見張った。

「ふざけんなっ!」

走って後退するレフト佐々木。レイモンドの打球は勢いは全く落ちていない。

(始めは打ち上げた当たりかと思ったが、そんなことはねえな。レイモンドさんのパワーなら楽々入れちまうってのか?)

ベンチの柏木らも興奮した様子で見ていた。しかし――

「フェンス際落ちるぞ!」

センター山口の声。佐々木は、残り数メートルを全力でかけ抜いた。

「入れ!」「捕れ!」

各ベンチから大声で後押しする。結果は――――


 「あ、アウト!!」

フェンスに体当たりして空中で打球を取った佐々木。その打球の収まったミットを高々と掲げ、叫んだ。

「取ったぁ!」

「っしゃあ!!」

選手も、ベンチも、観客も大声で叫び、その好投を、好守備を、全員が讃えるのだった。


 8回裏、三者凡退により、初巾高校は攻撃を終えた。そして、9回が始まる――

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