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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
41/402

第41話「クロ高の一員」

 『福富商業高校、シフトの変更をお知らせします。ピッチャー、高月くんがレフトに。レフト、寺田くんがピッチャー』

福富はここに来て投手のスイッチをしてきた。無論のことながら、本日高月からの打率が最も高いのは、白銀世代の二番打者今宮に並んで、今打席に立っている四番、大滝真司だからである。

(初球気をつけろ……低めに外したパームだ)

ゆっくりと下方向に変化していくパームボールを見逃す大滝。ボールとなる。

(次は外にスクリュー)

甘めのところに投げさせた後藤。大滝は寺田の左腕から投げられたスクリューをひっかけ、ファウルにする。


 「慎重な配球だな」

ベンチでは、坂本と芝と古堂が話していた。

「1点を追う状況だし」

「……そういえば、芝さんって、左投手強かったですよね?」

「ああ、それがどうした?」

「いえ、監督と伊奈が何か深く話し込んでいるんですよ」

古堂にそう言われ、芝が目を向ける――

「伊奈、代打を出すぞ」

「……はい(今日一発も当てれてないし、もし大滝がアウトになりゃ2アウトだし、まあ仕方ないか)」

そして、絹田監督は、同じ一塁手の二年生、芝豪介の方をみた。

「スイングは足腰から――覚えているな?」

「……はい!!」


 内角に入り込むストレートを空振りする大滝。

(くっ……)

大滝はぐっと歯を食いしばる。後藤はにやりと笑った。

「どうした? 当たりそうもないか?」

彼の言葉に、大滝は不敵に笑ってみせた。

「まさか」


 しかし、4球目、高めの釣り玉だと思って見送ろうとしたところ、ボールは下に落ちてくる。

(ぱ、パームかよっ!!)

空振りした。三振となる。2アウトだ。


 (っしゃ、行くゾ)

芝豪介が打席に向かう。伊奈はベンチに戻ってくる。

「おつかれ伊奈」

「あーどうも……」

「今日は二年生、すごく気合入っていたからね」

「だな……」

打席に立つ芝。代打である。後藤が話しかける。

「一年生にスタメン取られていた感想は?」

「……」

芝は黙っている。そう、彼も黄金世代に憧れて入部したクチ。同年代の白銀世代、今宮や田中らとポジションのかぶらない一塁手として、試合に出られるようバッティング、筋力を磨いてきたわけだが、二年の夏、一塁手の一年生、伊奈聖也が台頭してきたことにより、レギュラーを取られてしまった。


 (伊奈はよ……こういう場面で打てないからな。だったら俺が一発かっ飛ばしてやるってよ)

芝は初球のスクリューを見逃す。

(パワーありそうだから甘いところは叩かれるぞ)

しかし2球目、パームボールを打ち返した。

「えっ」

(寺田のやつ……油断して甘いところに投げやがったかっ!!)

打球はライト宮口の前に落ちる。

「俺だって、クロ高の選手なんだ!!」

一塁ベースの上で、芝が叫ぶ。現在2アウト1.2塁。ここで打席に立つのは、金条春利。

(3-3の同点、長打が出れば勝ち越し)

金条は息を大きく吐く。打席に向かう前、絹田監督に呼び止められていた。


 ――意識しすぎるな。お前が負けても、チームが勝てばいい。

監督の言葉を胸に引き下げ、マウンドに立つ寺田に目線を向けていた。

(絶対に繋ぐ)

金条のこの言葉は、追い込まれても尚、胸の中にあった。例え後藤からどんな言葉をささやかれようと、どんなに厳しいところに投げ込まれようと、何とか食らいついてみせた。


 そして、8球目、寺田が投げた。

(高めのストレート!!)

金条は何とか反応し打ち返す。サード射場の左側へ。

「フェア!」

転がる打球をレフト高月が捕球。鋭いレーザービームがホームへと還り、三塁を蹴ろうとした今宮も踏みとどまる。

(う、うわあ、あぶねえ)


 この満塁の場面で、打席に立つのは7番ライト小林翔馬。今日は一度も安打できていない。

「寺田スイッチするか」

少し雨が収まったところで後藤がタイムを取り、寺田に提案した。彼も渋々頷く。

(やっぱ一年生にこの場面持たせるのは早かったな……申し訳ないことをしてしまった)

寺田がレフトに向かうと同時に、高月がレフトから戻ってくる。マウンドに再び立つ白銀世代のピッチャー。

「だから言ったろ後藤。俺の方が場数積んでるんだって……」

「……そうだな。それに、今のレーザービームでお前のやる気も伝わった。絶対に抑えられるよな?」

「任せろ」




 小林は練習の日々を思い出していた。ここで打てないのは、白銀世代にではないにしろ、クロ高の二年生としてどうなのだ――と。

「高月のボール、ずっと当てられてないみたいだけど」

「球早いくせに変化球持ってるからタチが悪いんだよ」

後藤の言葉に、小林が返した。初球ど真ん中にストレートが走る。ミットの音から、その球威を感じ取る小林。

(このチャンス、絶対逃したくない。勝つために!! 芝だって代打なのにしっかり打ったんだ。俺だって打つぞ。俺だって、俺だって……クロ高のレギュラーなんだよ!!)


 2球目のシュートはギリギリ外れている。危うく手を出すところだった小林。

(ちっ……顔が強ばってるからここで手出してくると思ったんだがなあ)

3球目のストレートをファウルにする小林。ベンチからも声が飛ぶ。

「タイミングあってますよ小林先輩!」

「積極的に振っていきましょー!!」

「翔馬っ! ビビるなよ!!」

4球目、カーブは低めに外れていく。ここは後藤も計算外だったらしく、悔しそうな表情を見せる。

(ここでコントロールは外して欲しくなかったな)

後藤の目の訴えに、高月も頷く。

(わりぃ、手が滑っちまった)

5球目のシュートを打ち返す小林だが、これもファウルに。

「……粘るじゃん」

「……ここで打てなきゃ、負ける気がするんだ」

後藤の言葉に、小林が返した。

(そうかよ……察しがいいじゃん)

後藤が要求したのは内角ギリギリに入っていくカーブ。本日1番にキレたいいボールだった。小林は目を大きく開いてボールを見る。バットを振り、打ち返した。快音が雨音の中を駆け巡る。

 「センター!!」

打たれた高月の言葉と共に、打球も見ずに走り出すランナー四人。


 打球を追うセンター仙田。ボールの落下地点を予測して佇む。

「落ちろーっ!」

叫ぶクロ高ベンチ。打球――もとい曇天を見上げた仙田。雨で視界がはっきりしない。

(雨のせいで、ぼ、ぼやける……)

落下地点よりも少し遠くに伸びていた打球。それに気づいた仙田は急いで後退するが、僅かに間に合わない。

今宮がホームイン。続いて二塁ランナー芝も三塁ベースを蹴ってホームを狙う。

(調子乗るんじゃねえよっ!!)

仙田竜平のレーザービームがまっすぐキャッチャー後藤のもとへ飛んでいく。

「っしゃ!」

キャッチャー後藤が捕球。ブロックの体制に入る。芝は体当たりの体制だ。

(俺が何のためにずっと鍛えてきたと思っているんだっ!! ただ打球を飛ばすためだけじゃねえ!!)

後藤の左腕をかわしてホームに突っ込む。力押しされた後藤はブロックがうまくできなかった――

「セーフ!!」

主審の声が、雨音鳴り止まぬ曇天の中、観客全員に聞こえる声で響き渡るのだった。

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