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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
33/402

第33話「8強」

 帰路を辿る黒鉄大哉。もう試合は終わっただろうか、と携帯電話を見たところ、後輩投手の宮城から連絡が来た。

(え、マジかよ)

新着メッセージを開く。

『クロ高が9-8で勝ちました。延長13回までの粘り勝ちです』

(へえ……やるじゃんあの一年投手)

黒鉄は嬉しそうに携帯電話をポケットの中に入れると、球場へ踵を返すのだった。


 クロ高辛勝のニュースは、瞬く間に県内に響き渡った。そして、黒光高校全体でも、大ニュースとなった。

「野球部すごかったね!! 最後の……えっとぉ」

「大滝くんホームランカッコよかった!!」

登校したての大滝の元に、クラスメイトの女子が集まってきた。わざわざ球場まで見に来ていたのだろうか、と思うとなんだかとても嬉しい大滝は笑顔だ。近くでは、伊奈、林里、古堂の三人が話している。

「……俺だって……最後まで投げ抜いたのになあ」

悪態をつく古堂。林里は苦笑いしている。

「そんなこと言ったら、俺だってヒット打ったのによ」

伊奈はそう言っているが、クラスメイトたちは全く自分たちの周りによってこない。

「……まあそんなこともあるって。ベスト8になったんだし、テレビ中継されたらまた知名度もあがるはず」

唯一試合に出ていない林里がそう言って伊奈や古堂を励ました。しかし、古堂はそれでも、スタンドからの観客の歓声を思い出して悦に浸る。

「……でも、大坂を三振にしたときのあの歓声は、思い出すだけで嬉しいよな」

「……あ、確かに。あのときのコドーは凄かった……」

伊奈も思い出す。あの鬼気迫る表情――今もこうして話しているのが不思議なくらいだ。

(こいつ、なんやかんやで、打者と戦っているときは鷹戸に似てるんだよなあ)


 二年生もより沸き立っていた。何より、3年生の先輩がわざわざ二年校舎に乗り込んでくる始末だ。

「おい新田ァ!! どういう様だコラァ!!」

「おつかれさん~」

「お前ら、よく頑張ったな」

やってきたのは郷田と閑谷と大滝(兄)。今宮、新田、田中の三人が、そこに居合わせていた。

「ど、どもっす郷田さん」

「おらおらー、大坂に打たれたらしいな!! そんなんじゃ先発務まらねえぞ」

「……まぁでも、監督の方針が継投作戦だったみたいだし、それがハマって良かったんじゃないのか? 伊東や鷹戸、コドーもよく投げられていたらしいじゃないか」

閑谷が郷田を宥める。

「勝てば良いんだ。なっ今宮」

「うっす」

大滝進一に言われ、今宮は頷く。新旧キャプテンの会話だ。

「それより、今日再抽選だろ? どこと当たるか決まるわけだが……」

「はい。俺らが戦ってる間に、ほかの球場ではもうベスト8が決まっていたんですよね」

現に、第一ブロック覇者は黒光高校だが、第二ブロック覇者は鶴工業高校。第三ブロック覇者は鉄日高校、第四ブロックは初巾高校、第五ブロックは三浜高校、第六ブロックは武里高校、第七ブロックには福富商業高校と、夏のベスト8とほぼほぼ変わらない面々となっている。しかし、8強の壁を破ってきた高校が一つ、第八ブロック覇者の藤崎高校である。明成高校がシードとして構えていたが、今回、そこを破って勝ち上がってきたチームだ。

「どこと当たっても強いのは間違いない。気を引き締めていけ」

郷田に喝を入れられ、今宮は笑う。

「うっす。ありがとうございます!」

こうして、三年生たちは去っていく。

(夏俺たちが勝った分、かかるプレッシャーは何十倍にもなるだろう。頑張れよ……みんな)

大滝(兄)はそう思いながら、三階への階段をのぼっていく。



 昼休み、今宮は監督に連れられて抽選会場に来ていた。8強が既に揃っている。

「うおお……二週間ぶりのやつらばっかりだ」

「おおっ、クロ高の今宮やんけ~」

間延び口調で話しかけてきたのは、明らかに見たことがないユニフォーム。丸刈り頭をみるからに、明らかに野球部員なのだが――

「俺は藤崎高校の道中桔平みちなか きっぺいや。よろしくな~」

「藤崎って……あの明成高校破ったっていう……」

「せやで。いやまあしかし、よう延長13回まで粘ったなぁ」

藤崎高校のキャプテン、道中桔平。彼こそが藤崎高校をベスト8に導いたエースで4番。今年から注目を浴びており、すっかり白銀世代の仲間入りを果たした男だ。

「まぁ、そんなわけで……試合でぶつかったらよろしくなあ」

緩い様子で踵を返していく道中桔平。


 今宮が抽選を終わらせた。引いたのは、1番、トーナメント一番左端。第一試合をすることになる。

(おおっ……まだ誰が相手かはわからないか)

続いて第二ブロックの鶴工業高校がくじを引く。そして第三ブロックの鉄日高校もくじを引いた。

「第3ブロック代表、鉄日高校……6番です」

鉄日高校は反対側のトーナメントだ。黒鉄が悔しそうな顔をして今宮の元にやってくる。

「あーあ、決勝戦までお預けかぁ……早く夏のリベンジやりたかったってのによぉ」

「……せいぜい負けんなよ、黒鉄」

「こっちのセリフだ、今宮」

互いに煽りあって、そして去っていく黒鉄。今宮は息を呑む。


 全校が抽選を終え、結果が発表された。

1番、黒光高校。主将、今宮陽兵。

2番、福富商業高校。主将、高月広嗣。

3番、藤崎高校。主将、道中桔平。

4番、初巾高校。主将、白里一哉。

5番、鶴工業高校。主将、長田楽。

6番、鉄日高校。主将、黒鉄大哉。

7番、三浜高校。主将、芝川辰次。

8番、武里高校。主将、橋本瑛吾朗。




 この抽選結果を持って、今宮と絹田監督はすぐにミーティングを開いた。時間は既に放課後、部活が始まっていた。

「準々決勝の相手は、福富商業だ」

「おお……夏4強、いきなりか」

今宮の言葉に、まず田中が反応する。早速ビデオを持ってくるマネージャー小泉。

「こちらでいいですか、福富商業」

「サンキュ」

今宮がビデオを受け取り、すぐに起動した。全員が輪を描いてビデオをみる。試合を録画していた、ベンチ入りしていない一年生から福富商業についての詳しい説明を受ける。

「まずは、試合のスタイルから。主要選手を軸にガンガン点を稼いでいくスタイルです。そして、守備。こちらは、投手を二人、右打者、左打者にわけてスイッチしてくるのが特徴でしょう。続いて、主要選手――白銀世代がこのチーム、4人と多いのでそこから」


 まず紹介されたのは、キャプテンでエース、4番ピッチャーの高月広嗣たかつき ひろづぐ。通称、『金に最も近い男』で、豪腕豪打の怪物投手である。

「まさに、打たせれば長打、投げさせれば完封……攻守本格派と言われた秋江工業の江戸川さんよりもえげつない選手だと見えます」

「黄金世代と並ぶと評されるのも頷けるな……」

「でも、そんな凄い投手がいて、どうしてスイッチ戦法を取るんだ……ですか?」

古堂が問う。解説係の一年生が続けた。

「これは……一年の左投手、寺田礼二てらだ れいじの加入が大きいでしょう。中学時代の実績もあるし、何にせよ左打者に強い。スクリューを投げる投手で、レフトも守れるから高月同様、常にスタメン入りしています」

「左打者に強いくせに、スクリュー投げるあたりが微妙に厄介だな。スクリューは右打者にとっては左側に逃げていく球。捉えるのは難しい」

新田がそう言って笑った。一年左投手、という言葉に反応する古堂。やはりライバル視したいところはあるらしい。


 続いて紹介されたのは、1番ショート、荒牧鉄平あらまき てっぺい。基本的に器用な選手で、シングルヒットから長打までなんでもこなす。盗塁も上手いことから『リードオフマン』としての称号をしっかりとものにしている。

「瞬足堅守、おまけに巧打……そしてイケメン。嫌いだわーこいつ」

田中が笑う。同じ1番ショートなので、対抗心も強いようだ。


 続いては3番センター、仙田竜平せんだ りゅうへい。低めのボールに強いことから、低め中心の慎重配球をする金条のやり方で攻めていくとドツボにハマると思われる。

「高月が後ろに控えていることを考えたら、シングルヒットでも嫌だよな」

「配球を変えることも考えないといけませんね」と金条。


 そして最後の白銀世代、5番キャッチャー、後藤陸ごとう りく。県内唯一の白銀世代のキャッチャーである。その名前に真っ先に反応したのは古堂だった。

「ご、後藤先輩だ……」

「ん? 古堂同じ中学なのか? ってことは坂本も」

「まあね、あいつは俺とコドーと同じ陽明中出身だ」

坂本の言葉に全員が驚く。

「ええっ!!? じゃあ後藤さんってどんなキャッチャーだったんだ! コドー!!」

真っ先に食らいついたのは金条。古堂に食ってかかる。

「一言で言うと、洗練されたリード力、打者の集中力を切らすささやき、バランスのとれた打撃力……強肩。つまりは天才キャッチャー」

「一言じゃねえじゃんかよ」

新田が笑う。しかし、目は笑っていない。

「……白銀世代のキャッチャーがいるっていうのはデカイ。鉄日にも、初巾にもいない存在が、福富にはいるってことだからな」

「どっちにしろこれまでの相手とは格が違うんだからよ。元々鉄日を倒すつもりの俺らにとっちゃあそこまで警戒すべき相手じゃない」

今宮が言い切った。田中や山口、新田の顔に緊張感が走る。

「そ、そうだよな……鉄日を……黒鉄を倒さなきゃならねえんだしな。高月や後藤をびびっているわけにはいかねえよな」

大滝や伊奈などの一年の顔も引き締まる。

「っしゃ、来週の土日は連戦だ。ついでに初巾と藤崎の研究もするぜぇ!!」

古堂が大きな声で叫んだ。どっちみち今日はこのミーティングだけで練習を終えるつもりだったので、絹田も同意した。

「よし、じゃあこのままほかの高校の研究もしようか。明日からの練習は、福富、初巾あたりを意識した練習もしていくぞ」

「はい!!」

こうして、クロ高ナインは、秋大会準々決勝に向けて練習を始めるのだった。

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