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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
6.GW
155/402

第155話「速球打ち」

 インローに投げ込まれる松下のストレート。佐々木はこれをギリギリのところで打ち返す――が、打球はホームベースを強く跳ね、左打席側へと飛んでいく。


(タイミング的にはあってきたか?)


 しかし、早くも追い込まれる。変化球などが来れば、間違いなく三振になる自信しかなかった。


(だったら……速球一点張りするしかないか……)


 相手は自分を舐めてきている。それだけが今佐々木にとっての唯一のアドバンテージであった。



(松下サンの今のストレートなら、合わせられたとして、凡打にしかならない。ましてやウチの内野陣はなかなかの守備力の高さを持っている――大丈夫だろう)


キャッチャー村松は、アウトローに指示を出す。


(ここに一番の球を……!)


 松下は構えて投げる――凄まじいフォーシームの回転が、佐々木の手元でノビる。


(ちょい甘いか!?)


 村松がそう思う頃には、佐々木はもうバットを振っていた。金属音が鳴り響く。


「(当たっ――)ライト!」


 右中間に飛んでいく打球。しかし、打球は弱弱しくライト方向へと流れていく。センター中島が打球を猛スピードで追う。


「中島さん! 切れるッ! 原に任して!!」


 村松がホームから叫ぶも、聞こえていない中島。


「俺がいくっ!!」


 打球に対して滑り込む中島。しかし、あと一歩のところで届かず、後ろから入った原がカバーする。


「ナイスカバー!! 原!!」

「惜しかったぞ中島!!」


 外野手を讃える桐陽。しかし、それよりも沸いていたのは、クロ高ベンチだった。


「さ、佐々木が打ったぞ!!」

「うおおおおお!!」

「あの最速投手から!!」

「すげえ!!」


 ファーストベースに嬉しそうに佇む佐々木を、全力のエールで讃えるクロ高ベンチ。当人もまんざらではない様子で、ガッツポーズで応えた。



(さあ、切り替えよう)


 一人いち早く切り替えているのは、投手の松下。


(5回に一回くらいは打たれんねん。仕方ない仕方ない……)


「代打です!」


 ここで、代打の林里を起用するクロ高。林里は小走りで打席に向かう。


(……佐々木が出られなかったらとにかく転がして内野安打を狙う。出たなら送るぐらいに気持ちで転がす。2アウト二塁はオッケー。今宮さんがどうせ控えてる――)


 絹田監督に吹き込まれたことを頭の中で繰り返す林里。


(大丈夫……バッティング練習でこれぐらいのスピードの球の練習はしてる)


(ほぉん……あの調子の“良さげ”やった左のアイツ下げるくらいのバッターか……。線は細めやし、長打はなさそうやな)


 塚岸はバッターを観察しながら、守備位置を若干前に変更する。逆に武月は警戒して深めの守備位置を取る。


 松下のストレート――初球から転がす林里。


(うおっ!?)


 ファースト側にうまく転がす林里。打球を飛び越えて一気に走り出す。


村松は腰を浮かせて打球を追う。しかしファースト武月のほうが速い。


(松下ァ! カバー急いでくれ!)

「こっち!」

 松下がカバーに走りながら送球を呼ぶ。武月がすぐさま投げる――


「セーフ!」


 林里の方が一歩早くベースに着く――文句なしの内野安打である。


(練習しといてよかったぁ!!)



 一番バッター、今宮が打席に立つ。


(佐々木が打って、林里が繋いで……1アウト1.2塁。ほんっと、すげえチームになったよなあ)


 今宮は打席に立ち、いつものようにバットを二回、素振りして、右足の内ももと膝にぐっと力を込める。一度目線を胸元の高さまで下げ、自分のストライクゾーンを見渡しつつ松下を見据える。じんわりとバッティンググローブの中に感じる汗。


(ゲッツーだけは本当に無し。最低でも進塁打。ただ、俺はキャプテンだろ。“最低”やってたら務まらねえ)


 松下はストレートを投げる。初球から長打を狙う今宮。珍しくフルスイングする彼の姿に、全員が目を丸くする。


(今宮さんがフルスイング?)


 金条はブルペンで古堂の球を受けながら首を傾げた。


(ほう……)


 塚岸はあえて前に守備位置を置く。


(次セーフティってか? 駆け引き上手め)


 ショートの浦部も、彼の動きに合わせて少し三塁よりにポジションを置く。


(よしっ……センターヒットゾーンが広がったか……)


 ファーストストライクを大きく空振りするのは、守備をする者たちにとっての選択肢を増やすためであった今宮。今は落ち着いた様子で松下を見ている。


(ああ、このバッターは冷静だな)


 村松は外角の変化球のサインを変更し、振らせる選択肢を諦め、インコースにストレートを要求した。松下は首を振る。


(このバッターにそれは怖い。長打を隠し持っていてはいなくても、クリーンヒットされてもおかしくはないだろう)


 松下は今宮を警戒している。それが村松にとっては納得いかなかった。


(何でだ……松下さんの球は、一番速いんだ。もっとストレートに自信を持ってくれ――





 村松吉乃――彼が一年生で初めて桐陽学園の野球部に入ったとき、一番目立っていたのは、黄金世代の三年生を差し置いて、二年生の松下だった。


『2年の先輩に153出した人いるらしいで』

国友先輩エースより速いんちゃうの?』


 桐陽に入部する一年生など、全員が鳴り物入り。捕手としての器量の自信も少なからずあった村松は、松下を一目見ておこうと、入部直後の練習でブルペンへとまっすぐに向かっていった。


 ブルペンには、捕手を座らせて投げる松下の姿。ストレートの回転はまっすぐで伸び上がるような球筋。一瞬でストレートの良さに気付いた村松は、彼の球に心を奪われていた。


(ああ……この人の球を捕りたい)


 練習に誰よりも精を出し、ようやく勝ち取ったレギュラー。しかし、そこでようやく知ったのは、松下のメンタリティである。


『今日も3失点か』

『松下サンはもっと力押ししてください、うたせなくていいんです』

『球が乱れたら試合も作られへん。それじゃあエースにはなられへん』

『良いんです。松下サンの武器はストレートなんや。一番速い球ホっとったら誰も打てませんって』


 松下は――エースとしての自覚があった。それゆえ、村松の求める理想像とは少し違ったのであった。





(もっと……唸るを通り越してうごめくようなストレートを……多少外れたっていい。そのパワーを前面に押し出せば――相手はビビる)


 村松は松下にもう一度ストレートを求める。首を振る松下。


(打たれないんだッ……もっと自信を持って)


 松下はストレートを投げる。しかし、低めに外れたショートバウンドの球になる。村松はボディを入れてしっかりと止める。


(あかん……打たれることを意識したらあかんのや。どんなに甘く入ろうと、松下サンが本気で投げたらええんや)


 高めに外れるストレートを見逃す今宮。ヘルメットと額の間に一筋の汗が滴る。


(目線を動かそうとしてくる……非常にまずい)


 2ボール1ストライクのカウント。4球目――変化球を投げる松下。しかしカットする今宮。


「おおっ! 打てそうですよ先輩!!」


(タイミングをずらしてくるなあ……最速のくせに、ストレートばかりに強いこだわりがない所も怖いところではある……)


 5球目はアウトコースに外れる球。


(……)


 松下の集中力は極限まで達していた。今宮も同様である。


(村松の構えたところにしっかりと投げなければ……ただ、こいつは甘い所に構えすぎだ)

(どこ投げられても打ってやる……ただ、タイミングだけ気をつければ打てない球じゃあない)



(打たれる――まずい……)


 松下が投げた球は、アウトハイに外れボールになる。フォアボールになり、出塁する今宮。


(あっぶねえ)


 息を大きく吐いて、一塁ベースに小走りで向かう今宮。


(さあ、あとは頼んだぞ、後続)


 1アウト満塁。このチャンスで打席には小林。


「満塁なんだからかち飛ばすしかねえぞ。三振オーライッ!」

田中がネクストから叫ぶ。


「下手なゴロでゲッツーが一番だめだからね!!」

山口もベンチから声をかける。


「しっかり見ろ! 相手もしんどいはずだ」

冷静に声をかけるのは、一塁ベースから今宮。


「おまえの二年とちょっと見せてやれよ!」

ベンチから伊東も鼓舞する。


(俺は白銀世代じゃないから……ここで結果を出さないといつ、だれにポジションを取られてもおかしくない。せめて、次につながりそうなプレイを!!)


 ストレートを空振りする小林。


(ナイスボールとは程遠い……力配分してるのか?)

村松はちょっと強めに返球する。


(1アウトか……打たせて取るのもいいかな……)


 突如として投げられる変化球にタイミングを外す小林。


(やっぱり、全国クラスに及ばない相手なら、松下サンの性格的にこうやって組み立てた方が良い)



 三球目はインコースにストレート。


(せめて――次につながるようにッ!!)


 フルスイングでバットを振りぬいた小林。かすめるような高い音が響くが、ボールは一糸乱れることなく村松のミットへ。


「ストライークッ! アウト!!」

「よし、ナイピです」


 村松は松下に返球する。松下は手応えありげだ。


(やっぱりそうだ。変化球も織り交ぜて組み立てると、ストレートが活きる。伸び伸び投げられる)


 手応えを感じる彼を見ながら、田中は深呼吸を一つ。


(小林のスイングはフルスイングだったが、余計な力が抜けていて綺麗だった。俺も……速球打ちだからって言って身構えるんじゃなくて……もっと、真っすぐ返す意識で……)


 そして、松下が投げた初球――アウトコースのストレートを打ち返す田中。逆方向に綺麗に打球が飛んでいく。


(おっ……)


ライト原の前に打球が落ちる。ヒットである。佐々木がホームを踏み、クロ高に一点が入った――


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