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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
1.秋大会
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14/408

第14話「いつも通り」

 秋の県大会二回戦第一試合、先攻、白銀世代の猿渡を擁する鶴高校VS後攻、夏優勝した強豪黒光高校が対戦している。先攻の鶴高校は、内野安打で出塁した猿渡が盗塁、送りバント、犠牲フライを経て一点をもぎ取るも、後続が続かず、一回目の攻撃を終了したところだった。そしてクロ高。打席に立つのは一番、ショート田中。

「遊さん! お願いします!!」「まずは打ってこう!」

一点を追う立場となる黒光高校。しかし、異常なまでに落ち着いている二年生たち。こればかりは、経験の差がものを言っていた。

(ドロップカーブ投げるやつとか俺見たことないんだよなあ。パワプロくんとプロ野球でぐらいしか……)

頭の中で悠々とそんなことを考えながら、平田によって投げられたストレートを初球からライトへ運び、ヒットとなる。

(ストレートは130kmぐらいか……こりゃ直球絞るほうがいいよな)

一塁ベースで深く腰を落とす田中。ピッチャー平田を凝視する。

「……リード取らないの?」

鶴高校のファーストに話しかけられる。田中は答える。

「だってあいつめっちゃこっち見てくるもん……」

田中の言う通り、平田は一塁ランナーをちらちらとみてくる。牽制する気満々だ。

(猿渡みたいにそんなバンバン走らねえって……だってうちには、送りバントの達人がいるからな)

田中が一瞬だけ打席に目をやる。そこの右打席に立つのは、今宮陽兵。バットを持つ右手と左手が少々離れている。バントする気満々だ。

(しっかしあのピッチャー遊ばっかり気にしてるじゃねえか。俺と勝負する気ねえな)

バントの構えをしているのだから仕方ないだろう、とは思いつつも、平田はそれでもなお投げない。

(今宮って白銀世代の『いぶし銀』と呼ばれた男……送りバント、およびスクイズ成功率100%の化けモンだよなあ……)

やっと今宮と勝負する気になった平田。眉尻が下がっている。投げた一球目。決め球のドロップカーブ。大きく山なりを描いて外角低めへと逃げていくが、今宮は難なくバットに当てる。

(うわあ……)

ピッチャー平田は走って転がる打球を拾い、ファーストへと投げる。その間にも一塁ランナー田中は二塁ベースへ。

「今宮さんナイスバント」

古堂の言葉に今宮も笑って答える。続いては三番、センター山口。

「寿は打つぜ。あのアベレージヒッター具合はやべえ」

「あいつのバッティングの安定感は度を抜いてる。パワーはねえけど、まさに安打マシーンって感じだな」

(ああ、こいつ地味だけど打つパターンのバッターじゃん。しゃーねえ。初球からドロップカーブ使うか)

平田は初球からドロップカーブを投げる。キャッチャーは落ちるボールを捕球する。外にはずれたボールとなる。

(落ちるなあ)

冷静に一球見た山口はドロップカーブの変化量をじっくり観察していた。

(ストレートは遊が余裕で打ってたし、僕が打てない球じゃないはず。このドロップカーブをどう打つかだなあ……)

そして二球目。ストレート。一塁線方向に流し打ちするが切れてファウルとなる。三球目の低めのストレートはボール。そして四球目。

(ドロップカーブ!)

山なりを描いて飛んでくる投球。手元で落ちていく。バットを振り抜いた山口。打球は一二塁間を抜けてヒットとなる。1アウトランナー一三塁。なおも続くチャンスに、ネクストバッターは四番大滝。

「お願いします」

ヘルメットを深くかぶり、平田を見据え構える大滝。

(今気づいたけど遊さんも山口さんもショート猿渡のいない方向に流し打ちしてるんだよなあ……)

ちらっと一二塁間、そして右翼手の位置を確認した大滝。再び平田に視線を戻す。

(こいつは打ち分けが苦手だ……秋江工業戦ではそのせいで守備がしっかりついてるところばかりに打ってしまっていた――でも甘い球投げたら余裕で外野に運ばれるし、厳しめのドロップカーブだ)

初球は見送ってストライク。内角へと入ってきたカーブに、少し体が引けている大滝。

(兄はあの『不動の一番』と呼ばれた黄金世代大滝進一。しかし兄ほどの技術はこいつにはない……)

二球目。次は外角へと逃げるカーブ。空振りする。ツーストライクと追い込んだ。

(こいつなら……凡才の俺でも打ち取れる!)

(――とか思ってるんだろうな)

三球目。内角厳しめのところへとえぐりこむように投げられたストレート。大滝はしっかりと半歩下がって踏み込み、バットを振り抜いた。鋭い打球が二遊間の頭上遥か高くを超えた。

「センター!!」

深めに守っていた外野手がワンバウンドで捕球。しかし、その間にすでに三塁ランナー田中は帰還しており、一塁ランナー山口も二塁へと進んでいた。

「ヒットだぜ大滝!!」「ナイスバッチ!!」

同点に追いつき、なおもチャンスが続くクロ高。

(ああ、だめだな……深く守っていたセンターナイスだわ)

平田がぼんやりと次のバッターを見る。5番、ファースト伊奈だ。

「お願いします!!」

(こういうやつは……ストレートを高めに投げて釣らせよう)

初球のストレートを振り抜いた伊奈。打球は鋭く、サードの左横へと飛んでいく。鶴高校のサードは全く打球のスピードに反応できない。しかし、ショート猿渡が深めに守っており、この打球をダイビングキャッチした。

「すげえ!!」

またも沸き立つ観客。伊奈は悔しそうにベンチへと帰っていく。

(くっそぉ……あれはヒットだろ)

「どんまい伊奈! あれは猿渡が上手いところ守ってたから仕方ない」

「……わりぃけどこの一言に尽きるな……」

夏、猿渡のプレイを見たことがある二年生たちは口を揃えてそういう。

(でもみんな猿渡さんに封じられないようにしっかりと打ち分けてたよな……)

続いてのバッターは金条。練習試合では一年生で一番打率が高かった彼だが、ドロップカーブを打ち返すも、ショート猿渡に軽快に捌かれてアウトとなる。チェンジだ。


 「チャンスは活かせなかったが、同点に戻しただけでも十分だ。鶴高校の一点は言わば猿渡一人の力による紛い物。呑まれるなよ」

ベンチで監督に言われた言葉をそのままチームメイト全員に伝えるキャプテン今宮。正直、彼もそう思っていた。

(野球ってのはいつも通りをそう簡単にやらせちゃくれねえ。だからこそいつも通りできるってことは強みなんだ)

二回表。5番バッターをライトフライに抑え込み、1アウトランナー無しで迎えた6番バッター。一球目はストレートを空振りし、ストライク。二球目はシュートを低めに投げファウル。

「……なあ恒ちゃん、新田速球増えたよな?」

猿渡が新田の投球を見てつぶやいた。平田も頷く。

「僕もそう思うよ。夏はむしろ変化球しか投げてなかったぐらいでしょ。ツーシーム一回くらいだったよ」

キャッチャーが変わることによって配球が変わり、ピッチャーの投球も変わることはよくある。しかし、この配球の理由が、『捕球に難があるため』という消極的な理由だとは知る由もなかった。

三球目は低めのスライダー。左腕から投げられたボールが右打者の手元で一気に内側へと入っていく。外れてボール。

(あ、あぶねえ……)

キャッチャーの金条春利は少し焦った顔をしていた。とりこぼすところだったのだ。四球目。カーブを投げた新田。球速差に全くついていけず、空振りをする六番バッター。しかし――

「キャッチャーとりこぼした!」

「振り逃げだ!!」

低く落ちていくカーブを取り切れずに、後ろに逸らしてしまった金条。すでに走り出した六番バッター。ボールを拾い上げ一塁ベースへと投げるが、セーフとなる。

(や、やばい)

頭が真っ白になる金条。のどの奥から一気に乾いてくる。

「わりぃ金条! コントロールミスっちまった!!」

(新田さんがコントロールミス? あるわけない……今のはただ俺が変化量を見誤って……ああどうしよう)

「おい! 金条! 1アウトだぞ1アウト! さっさと切り替えていこうぜ!!」

古堂がベンチから叫ぶ。金条はゆっくりと頷く。

「お前は俺のノーコンボール取れるんだから安心しろって! 新田さんは俺よりずっとコントロールいいんだから萎縮すんじゃねえ!!!」

(時々、お前のそのメンタルの強さがうらやましく思うよ……)

新田は苦笑いをした。そして古堂の言葉に続ける。

「そうだ金条! お前が気にしてどーする! どーせ俺が抑えるんだ!」

金条は唇をぐっとかみしめ座り込んだ。続く7番バッターは冷ややかな目で新田を見ている。そして金条に話しかける。

「……お前のミスのせいで今日二度目の出塁を許してしまいました。ちなみに一度目の出塁は誰も悪くない――でもアウトにできなかった内野安打。さあ、今の投手の気持ちはどうでしょう」

(逆ささやき戦術かよ……)

金条は眉間にしわを寄せバッターを睨む。背番号は2。どうやらこいつもキャッチャーだ。少々苛立ちを見せた様子で、高めにシュートを要求する金条。新田が投げる。スイングするバッター。ボールは転がり、キャッチャー金条が右手でそのまま拾い、ファースト伊奈の元へ送球する。ランナーは二塁へと進塁するが、ツーアウトとなる。続く8番バッターはセカンド今宮がゴロを軽快に捌き、3アウトチェンジとなった。

 しかし続く二回裏、下位打線は完全に抑えられ、三者凡退に終わってしまう。


 一塁側、鶴高校ベンチ。

「綻びが見えてきたな」「ああ」

平田が笑う。

「ここは付け入る隙となりそうだな。有能な変化球主体のピッチャー、新田を攻略する一つのカギかもしれない」

彼が言うのは、金条の捕球力の乏しさについてだ。彼は今、新田の変化球の変化量に目が慣れておらず、グラブがついついはずれたところへ行ってしまう状態になっていた。

「新田が速球中心になっていたのはあのキャッチャーが、まだ完璧に彼の変化球を捕球できないからだろう」

「まああのスライダーとかカーブとか、初見じゃまず取れないな」

「クロ高打線で危険なのは1番田中、2番今宮、3番山口、4番大滝。んでおまけ程度に5番伊奈を警戒しておけば大丈夫やろ。夏に比べたら打撃力は著しく落ちてると聞くし」

猿渡のこの言葉に、平田が続ける。

「まあ下位打線が打てないのはうちも同じだし、まだ気をつけなければならないよなあ。次の回、二人目が猿だ。ストレート狙いでしっかり得点していこう。いつも通りね」

いつも通りを強調していった平田。猿渡の方を見ている。

 そして、三回表、9番バッターを速球中心に三振に抑えると、打順は一巡し、一番バッター、猿渡の番へと回ってくる。

「おねがいっしゃっす!」

猿渡が不敵な笑みで新田を見据えるのであった。


振り逃げ……2ストライク以降、ストライクとなった投球をキャッチャーが捕球できなかった場合、打者は本来三振でアウトになるが、この場合に限り一塁ベースまで走塁してもいい。でも送球までに間に合わなかったらアウト。

ささやき戦術……キャッチャーが打者に話しかけて打席に集中できなくする。ここでいう『逆ささやき戦術』は、打者からキャッチャーに話しかけているのでそう言ってます。

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