第二章 第一話 創造? 否。どうやら契約です
第二章突入しました。予定では裁判に入るはずでしたが、少し寄り道しています。
おじー様の右腕・チェルククシアート氏も最後で登場。
終わり方が中途半端で申し訳ありません。
どうしても入れたい話があるのですが、それを入れると文字数が……。
次話の更新をお待ち頂けると幸いです。(言い訳にしかなってないorz
一般的に精霊の加護は精霊の助力とも言われるありがたい物。
例えば魔術を使う時、魔導を行使する時、塊を創る時。
使い方はその時々ではあるが、助力寄りの加護は己自身で制御する事が可能。
それは精霊にも言える事であり、力を行使する者が示す対価に見合った大きさの力を渡し、後はそのまま放置すればいい。
魔術師や魔導師、そして魔術や魔導を扱える者達が加護を受けし者だと言える。
そして厄介なのが精霊の祝福。己の意思では制御出来ず、精霊達も贈る事を止める事が出来ない。一部の者達は祝福ではなく『呪』だとまで言い出す者もいた。
事実、精霊の祝福を贈られすぎた者は身体、精神の何れか、もしくは両方に異常をきたし、何も手を打たなければやがて緩やかな死へと向かう。
過剰な精霊の祝福を食い止めるのが、一番精霊に愛される者達が苦肉の策として生み出した『守補佐』と呼ばれる存在。彼ら、彼女らは創造主に贈られる祝福を散らし、祝福を与えようとする精霊を制止する役目を持っていた。
現在、一番『守補佐』を使役している者達が竜属。何故か聖属龍よりも魔属竜の方が『守補佐』を必要とする場合が多い。一体のみで散らせる者も居れば、数体の『守補佐』を擁し、ようやく均衡を保てる者等、数多いる。
乱れた息を吐きながら、時折苦しげに呻く仔を静かに見下ろす潤んだ黄金の瞳。その瞳には己の不甲斐なさや至らなさが宿っては消えていた。
「父上……。フィスは」
数日前にようやく目覚めた待望の我が仔。その小さな体には父母が想像する以上の力が眠っている。
それが精霊に愛され過ぎる要因。ただでさえ精霊は力を持つ魔属竜を愛している。その条件に一致してしまったが為に寵愛も過ぎる。
「祝福を散らし切れて居らぬ。シィーエイが就いて居るが、荷が重すぎたようだな」
谷に居る間は常に四体の『守補佐』が傍に控えているが、帝都ではそれ程精霊の数が多くない為、ウィーファ一体と己の持つ龍力で散らすのは事足りる。
精霊の祝福の殆どがフィリスティアロスに傾いていると言う事も、リフィルロギュナーに贈られる祝福の数が少ない理由であった。
「これは早々に『守補佐』を創らねば、危険か……」
生まれて数日。こんなにも早く症状が出るとは思ってもいなかったというのが偽りの無い本音。精霊が数多居る谷では無いと言う事が油断を招いていた。
「目覚めて間もない仔が、『守補佐』を創り出す事は可能なのですか?」
リフィルロギュナーであっても、生まれてから数ヶ月の猶予があった。その数ヶ月の間に『守補佐』の役目と扱い方を学び、習得し終えた所で補助的に就けられていた父の『守補佐』から己自身の『守補佐』へと『守』を変えた経緯がある。
手順さえ間違わなければ危険はそれ程無い。だが、『守補佐』を持たないリスティーナにとっては未知の世界。問う声が震えるのは仕方がない。
「創りだす事自体はそれほど難しくは無い。だが、体力の落ちている今の状態で創り出せるかどうか……」
「……そんな」
悪意があっての事ではない為、竜属の間では天災と同じ扱いをされている。しかし、まだ何も知らない仔にとってはたまったものではなかった。
昨夜から上がりだした熱は高熱の域にまで達している。リスティーナが氷を創り出し、フィリスティアロスの額に置かれた布の上に置いても、すぐに水へと変わって行く。そんな事を繰り返して数時間。熱は確実に体力も奪っていた。
「はは……うえ……」
悲しみを含んだ声音に誘われたのか、熱に潤んだ黄金の瞳が微かに開かれる。
「フィス!」
持ち上げられた手を慌てて取り、片手で額に浮かんだ汗を拭う。
「わたし……は、だいじょうぶ……です。ははうえ」
「フィス……」
自己防衛のためか、時折塊が創られる。熱に魘されてなお自己を保ち続ける強靭さに、ただ感心するしかなかった。
「フィス。このままでは危険だと言う認識はあるか?」
直球過ぎる問い。今は言葉を選ぶ時間すら惜しい。
「……はい。…………お爺様」
目を開けているのが辛いのか、黄金の瞳が隠される。
「ならば、『守補佐』を……創造するか……」
リフィルロギュナーが従えている後二体の『守補佐』を出せば、正直事態は収束する。だが、それは一時的な収束に過ぎない。リフィルロギュナーが帝都を離れ、『守補佐』がフィリスティアロスの傍から離れれば、また同じ事が繰り返される。
防ぐ為にはフィリスティアロスの力で『守補佐』を創り出すしかなかった。
「ここで……ですか……?」
荒い息の元、何とか言葉を紡ぐ。
「否……。此処では暴走した時に厄介。
…………リス。暫く、……良いな?」
片時も傍から離れようとしないリスティーナに、言い聞かせるように尋ねる。
「はい。父上」
心配そうに見下ろすが、悔しい事に己に出来る事は何も無い。
「何、『守補佐』を一体でも創り出せば安定しよう。案ずる事は無い」
『守補佐』を得ている者の大半は魔属竜としての『役目』を担っている者である。名の通り、堕竜や穢龍を狩る際の補佐となり付き従う。
攻撃に特化した者や防御に特化した者、補助に特化した者等、癖のある者が揃っていた。
「フィス。我が後継。どのような者に従って貰いたいのか想像せよ。そして想え。それが龍力を得て具現化し、『守補佐』となる」
熱を孕んだ小さな体を軽々と抱き上げる。しがみ付く力も無いのか、抱き上げられたまま乱れた呼吸を繰り返していた。
「事が終わり次第戻る。審議にはこの仔も出るのであろう?」
今回の騒動を引き起こした者達を裁く場。皇族は基本的に全員参加し、話し合いの上で刑を確定させる。未だ意思疎通の出来ない嬰児であれば審議の場に出る事は無いが、これまでの対話からフィリスティアロスには善悪の区別がつくと判断されている。
「はい。列席させると、皇が……」
ロスティグクスの決定は帝国内では絶対。その事にリフィルロギュナーが口を挟むことは無い。
「解った。この状態であれば二日もあれば充分だろう。
……仔が心配だろうが、追っては来るな」
今回、リフィルロギュナーに着いて来たのはウィーファとシィーエイの二体。ウィーファは本来の役目を担い、シィーエイは仔を護る役目を担っていた。仔を産んだリスティーナにも時折過剰な祝福が贈られている。それを気付かれないように散らしてもいるのだ。これ以上の負担は背負い切れない。
「解りました。私も皇の手伝いに戻ります」
現在進行形で今回の騒動に関わった者の洗い出しが行われている。想像を遥かに超えた人数の為、『真偽華』一つでは回らない。
竜属が巻き込まれながら帝国内の法で裁けと言う寛大な処置。『真偽華』まで託された事には驚きを隠せなかった。魔属竜皇か聖属龍皇のみが創りだす事が出来るといわれる物。
裏を返せば二人しか創れないという事になる。そんな貴重な物を容易くねだる事など出来なかった。
「…………子は、親に我侭を言うものよ」
フィリスティアロスを守世膜で覆いながら、呆れたように呟く。
「はい?」
真意が解らず、思わず首を傾げた。
「足りぬのだろう」
溜息と共に新たに二個の『真偽華』が現れる。
「第二皇子と第一皇女には絶対に触れさせるな。一つ目の『真偽華』は構わぬが、その二つには細工をしておらん」
「細工……、まさか!」
「一つ目の物は皇族には反応せぬ。だが、今は他の物に余り力を割きたくない。故に細工は無い。心せよ。万が一、それが反応した時はいくら我とて庇えぬぞ」
無色透明の『真偽華』二つを受け取る。渡せるのはルクルケツァクルとナラフラレクト。
「心得ました」
父の言葉が重く圧し掛かる。そして、どれ程皇族を想ってくれたのか、痛いほど伝わってくる。リスティーナが皇子、皇女を大切にしていると知っている。そして、皇子、皇女もリスティーナを慕っていると解っている。竜属の柵があった筈だが、それよりも娘である己の事を慮ってくれた事が何よりも嬉しかった。
「我らは暫く離れる」
片腕で仔を抱き、テラスへと続く窓を開け放つ。吹きぬける風がカーテンをはためかせた。テラスへと出ると一つ息を吸込み、吐き出すと同時にテラスの手摺を踏み越えれば、背中には立派な竜翼が一対、風を孕んでいた。
一度羽ばたく度に城から遠ざかる。追いかけたい気持ちは強い。だが、成さねばならない事がある。これから己が仔を無事に成長させる為に避けては通れぬ道。
「ありがとうございます。……父上」
『真偽華』二つを腕に抱き、城から離れて行くリフィルロギュナーに向かって頭を下げる。対価を求めず、娘を案じる親として二つの『真偽華』を委ねてくれた。これで事の進みも多少は早まる筈である。
暫く飛ぶ姿を眺めていたが、己がしなければいけない事を思い出し、開け放たれた窓を閉じると、関係者の洗い出しを続けている皇帝の下へと戻っていった。
▽ ◇ △ ◇ △
仔を守世膜で包んだまま飛び続ける事数時間。
馬だと三日か四日程掛かる場所にようやく降り立つ。
なだらかな丘と何処までも続く平原。近くには泉もあり、『守補佐』の創造に適していると判断した。
「……お爺様」
汗で額に張り付いた髪を優しく払うとゆっくりと立たせる。地に足を付けた瞬間に多少ふらついたが、リフィルロギュナーの腕に掴まり倒れこむ事は無かった。
「口にすべき言葉は、解っているか?」
『守補佐』を創る権利は潜在的に備わっている。その言葉が紡げるか否かが、力の大きさに関係していると言ってもいい。
「解ります」
漠然と頭に浮かんで来る言葉。それが『守補佐』を創り出す為の言葉だと本能的に理解する。本来ならばもっと事前の説明があって然るべきなのだが、言うなれば今は緊急事態。事後説明となってしまっても仕方がない状況だった。
「ならばフィス。己が『守』、創り出せ」
「はい」
手を貸す事は出来ない。手を貸せば安全なはずの創造が危険なものになりかねない。
『守補佐』とは創造者のみを守る者。そこに他者の介入は許されていなかった。
熱を孕んだ体から手を離して少し距離を取る。辺りに不可入結界を展開させると、軽く頷いた。それを合図に言葉が発せられた。
――私は求むる。其の存在を
言葉に龍力が乗っている。普段は隠され、その殆どが封印されている力。
――『役目』を助くる者となるが為に、私の前に其の姿現せ
ぼんやりと浮かび上がる影。フィリスティアロスが望む姿が一瞬投影された。その影にリフィルロギュナーは息を呑む。一瞬だったが映し出されたのは人型ではなかった。それを見逃すはずが無い。
――汝は私を護る刃にして盾成り
一体目で人型ではない者を創りだそうとするとは思わなかった。一度言葉を紡ぎ始めた以上、それを阻む事は出来ない。下手に介入すれば紡がれた言の葉が暴走する可能性が高かった。
事を急いた為に、今の状況が悔やまれる。願うのは無事に仔が『守補佐』を得られる事だけである。
――汝が持つは気高き魂
紡ぐ言葉が影を徐々に濃くして行く。
「……まさか……」
あり得ない可能性に思わず息を呑む。
――私の言葉に応え、現れ出でよ
後は名を付ければ終わる。フィリスティアロスはリフィルロギュナーの苦々しい表情に気付く様子も無い。そして、創り出されようとする存在もその言葉に抗う様子は一切見せない。それが仔の底知れなさを示していた。
――風雷を司りし私の『守補佐』・琥瞬
一番に創る『守補佐』は己が最も得意とするだろう風、雷を操る者だと言う事は想像が出来た。だが、仔の龍力を糧に現れたのは想像を超える者。
「何故、……何故応じた……。風を司る者よ!」
姿が定められると同時に仔の体が崩れ落ち、姿を現した者に受け止められる。そして響き渡る怒号。その声を聞き、予め予測していたのか、覚悟していたのか、瞳には申し訳なさそうな光がありありと宿っていた。
「我が問いに答えよ!」
リフィルロギュナーが詰問するのは、白銀の毛並に翡翠の瞳を持った虎。仔は創造と同時に意識を失ったのか、身動ぎ一つしない。その様子を見て纏う龍力が一気に膨れ上がる。意図して纏うものではなく、一種の暴走状態。
〔怒りを収めてくれると嬉しいんだが……〕
意識を失った仔を受け止めたまま怒り狂う魔属竜皇を前に、下手に身動き出来ない虎が申し訳なさそうに声を発する。
「何故我が怒って居るのか、解らぬような残念な頭をしている訳ではあるまい。
神獣種・白虎族の者よ」
冷ややかな声に、白銀の毛皮を持つ者が視線を彷徨わせた。
〔いや、次期魔属竜皇の事は霊界でも結構話題になってて、『守補佐』付けるなら良いチャンス? みたいな……〕
「あ?」
押し殺したような低い恫喝に、声にならない悲鳴が上がる。喉が渇いて仕方が無い。
神獣種とは霊界に棲む種族の一つ。精霊も種の一つであり、他にも霊獣種と言った種があった。
精霊とは違い個々の能力が高い為に普段は霊界に引っ込んでおり、契約に基づいて人が召喚し、それに応じて霊界から出て来る。それが神獣種や霊獣種。言っておくが、決して『守補佐』を創造する術で出て来るような存在ではない。
それがフィリスティアロスの求めに応じ、霊界から一目散に出て来た。そして仔が示した龍力を吸収し、契約は完了。『守補佐』として側に侍る事になった。
もちろん、今回の事は前代未聞。仔が行ったのは創造ではなく、それより上位の契約。
神獣を従えた葬竜族。次期魔属竜皇。考えただけで頭痛がする。
ただでさえ魔属竜の力は強大。その上、従える者が神獣など笑い話にもならない。
〔次は、麒麟か、蒼龍か、鳳凰か、玄武かだから、多分、覚悟した方が……〕
半暴走状態の魔属竜皇に待ち受けている未来を語るのは自殺行為に等しいが、言って置かなければならない事でもある。
「五神獣を従えると?」
絶対零度の声音に、リスティーナお得意のブリザード。血の繋がりが垣間見える瞬間だった。
〔その可能性があるのは確かだぜ。風雷が操りやすいからって、一番に俺が出たけどな〕
白虎族は攻撃、防御、補助と何でも器用にこなす。一番使い勝手の良い神獣種ではある。それが『守補佐』になれば心強いものは無いが、操る者が一歩間違えればそれは想像を絶する脅威になる。
「皇よ。怒りは理解出来るが、創造の者が後継を抑える事はおそらく不可能ではないかと思うのだが、どうだろうか?」
突如として掛けられた第三者の声音。それはリフィルロギュナーが最も信頼している者の声だった。
「お前は仔の『守』に神獣が適任だと思うのか? チェル」
魔属竜皇が出奔してはその被害を最も受けているチェルククシアートが谷から出て来たのだった。信頼出来る人物の登場に、荒れ狂っていた龍力が一応凪ぐ。
その事に全身で警戒を示していた白虎が、強張っていた体の力を抜いた。
「次代の持つ力は膨大。それは創造した『守補佐』では荷が重いだろう。元々確固たる存在を持ち、絶対的な契約を交わした神獣を『守補佐』につける方が後々の憂いは少なくて済むと私は考えている」
冷静な言葉に、リフィルロギュナーは瞳を閉じ、草原の上に座り込む。
「それは何か。我が後継は特殊な『守補佐』でなければならぬと言う事か」
「と言うよりも、神獣達が放っておかなかったと言うのが大前提にあるかと」
視線で殺す事が出来るのならば、白虎は既にこの世に居ない。霊界に逃げ帰る事も出来ず、竜属の力で無に帰している可能性があった。
竜属が召喚を使う事は殆ど無い。純粋な力比べをすれば、おそらく竜属に軍配が上がる確率が極めて高い。それほどまでに強大な力を秘めた存在。
「なるほど……、時間はある。今現在、霊界がどうなっているのか、話を聞くには十分だな」
白虎の内心は逃げたい思いで一杯だが、魔属竜皇とその右腕、更には己が受け止めた主の所為でまともに動く事もままならない。
引き攣った笑みを浮かべ、己の命だけは助かるようにと、願わずには居られなかった。
フィスの『守補佐』・白虎の琥瞬君。
白虎族の一員なので個別の名前はありますが、『守補佐』として動く為、名前は一時封印。フィスに貰った名前で動きます。
ふるもっふる。癒されそうです……。
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亀……より遅い進行ですが、お付き合い頂けると幸いです。




