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ファラの血族  作者: iReSH
第三章 それぞれの思惑
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それぞれの思惑(10)

「何事ですか?今大事なところです。傍聴人は規則を遵守なさい。」



 審問官が分かりやすく不快感を露わにするも、私は恐れずファラの元へと駆け出しました。



「いい加減になさい!憲兵、その者を退場させなさい!」



 柵を越えようとする私を見て、焦ったように審問官が憲兵の方々に命令しましたが、気にせず私はファラの元へ走りました。



「何で――!?」



 焦ったように立ち上がってこちらに振り返るファラを見て、私は安堵すると同時にその腕をしっかりと掴みました。




〝 取り返しがつかなそうと思った時は、迷わずその人の手を掴みなさい。絶対に離しては駄目よ。でないと、その人とは二度と一緒にいられなくなってしまうから―― 〟




 あの時――ドウケツの洞穴で見つかりそうになった時、私は諦めて手を離してしまった。


 掴まなかった。


 私はそれを後悔しました。

 お母さまの教えがあったのに、私はそれを守れなかった。




 でも、だからこそ――。



「今度は離しません!」



 両手で掴んだファラの腕を私は自分の体にギュッと抱き寄せました。



「どうして……何で出てきたんだ!?これじゃあ君まで――」


「先に約束を破ったのは貴方の方です。」


「約束?」



 ファラは戸惑いを隠せず瞳孔を震わせていました。



「『誰にも見つからないで』って約束したのに、貴方は自分から見つかりに行きました。」


「いや、あれは君を守るために――」


「関係ありません。約束は約束ですから。先に破ったのはファラなんですから、これでお相子です。」



 したり顔で胸を張る私に、ファラは根負けしたように溜息をつきました。



「参ったな。」



 それでもお互い顔を見合わせてみれば、思わず失笑していました。


 何が可笑しい訳ではありませんが、この感じ何だか久々な気がします。



 ファラが横にいるだけで安心できる。

 ずっと一緒にいたい。



 そんな気持ちが心の底から溢れてきます。



「そこまでだ!」



 再会に浸る間もなく、気づけば私達は憲兵さん達に取り囲まれていました。



「ファラ。」


「ああ。君に任せるよ。」



 もう一度顔を見合わせると、有無を言うまでもなくファラはこちらの意図を理解してくれていました。


 ファラに頷いてから私は一歩前に出ると、裁判官席と対峙しました。



「私は今年の最優秀淑女に選ばれたユナウ・レスクレイズ=アルバートンと申します。皆さまどうか私の話を聞いて下さい。」



 ここに立ってみて初めて分かる――。



 傍聴席からは感じなかった裁判官席からの重圧に思わず気圧されそうになります。



「待ちなさい!貴女は今自分が何をしているのか分かっているのですか!?」



 私の登場に加え、主教様の荒げる声に場は益々混乱に陥っていました。


 最早傍聴席のざわつきも抑えは効かないでしょう。

 でも、だからこそ今この場で私が発言することに意味があります。


 普通の学生だったなら、この場で何を発言しても無意味だったでしょう。

 でも、最優秀淑女と発表され認知された今の私なら、一つ一つの発言の重み、その影響力は多大なものとなるでしょう。



 【最優秀淑女】――その称号には何の興味もありませんでしたが、今日まで努力し続けて良かった、と今は心の底から思います。



「先程ファラの話に出てきた、上界で出会った女の子というのは私です。」



 そのたった一言だけで、これまで以上に傍聴席の騒々しさが増しました。


 学院外に於いての最優秀の称号というのは、どうやら私が思っていたよりもずっと影響力の強いもののようです。


 でも、それなら一層都合がいい。



「彼の話にもあった通り、私は行き倒れていた彼を助けました。それは、人として人命救助は当たり前だからです。勿論、その時は彼が下界人だったなんて知りませんでした。彼の口から下界から来たのだと聞いた時は耳を疑いましたし、六年も掛けてあの穴を昇って来たなんて今でも正直信じられません。けれど、逆に言えばそれは上界人との区別がつかないという事でもあります。」



 気づけば憲兵の矛先がすぐそこまで迫っていたが、ファラは〝今は彼女の言葉を聞け〟と憲兵達に目配せをした。


 憲兵達は苦い顔をしながらも、その矛先を直ぐには突き出さなかった。

 それは偏に、憲兵達の心の中にも国に対して疑念が湧いていたからに他ならなかった。



「彼とこの一年弱話をして、私は下界に関する多くのことを学びました。そして聞けば聞く程私達と然して変わらない、下界人も私達と同じ普通の人間なのだと分かりました。」


「そこまでです!今の発言は陛下を、いいえ、この国を否定する言葉ですよ!」



 声こそ荒げてはいますが、主教様の顔はあの時――下界落ちを始めて見た時に見せていた表情と同じものでした。



 怖い――。



 思わず足が震えます。

 けれど、ここで恐怖に負けて引いたら一生後悔します。


 ファラが傍にいることを思い出し、私は自身の心を奮いたたせました。



「いいえ、主教様。下界人は私達と変わらない人間です。同じ血が混ざっていても、そうでなかったとしても、下界人も同じ一人の人間なんです。だから、上界人だからと、下界人だからと、差別する必要なんてないんです!」


「ユナウ……。」



 ファラが心配そうに呟くのを聞いて、私は最後のダメ押しと言わんばかりにファラの腕に抱き着きました。



「私は、ここにいる彼が、ファラが好きです!例え彼が下界人であっても、私は彼のことが好きです!」



 ファラの目を一心に見つめると、顔を真っ赤にしながらもファラは頷き返してくれました。



「俺もユナウのことが好きだ!」


「上界人と下界人でも分かり合える。愛し合える。私達の関係が何よりの証拠です!」



 その言葉は、ここにいる何人かを除いては、それまでの固定観念を吹き飛ばす程人々の心を震撼させた。



「馬鹿なことを……。」



 主教様は顔を青褪めては気分悪そうにバタンッと音を立てて座りました。


 他も、元老院長は両手に顔を埋め、王妃殿下は固唾を呑んで先行きを窺っているように見えます。


 審問官はガベルを持つ手を震わせて迷っている様子でした。



「ニコラス!」



 しかし、国王陛下の怒声に審問官は焦ったようにガベルを何度も強く叩いて無理矢理場を鎮め、間を置くことなく口を開きました。



「は、判決。被告人ファラ=レクロリクスは死刑とします!」


「そんな!?」


「くそっ……!!」




 一考する余地はある――。




 そう思う者が少なくなかっただけに、傍聴席からあわや暴動が起きるのではと思う程の罵詈雑言が裁判官席に向かって浴びせられました。


 その所為か、憲兵さん達の半分以上が私達をそっちのけで傍聴席を押さえに掛かっていました。



「静粛に!この件に関しては一切の反論を認めない!以上、閉廷とする!」



 傍聴人達が憲兵さん達によって部屋の外に押し出される中、国王陛下は反対側から去ろうとしていました。



「待てよ!」



 ファラは陛下に向かって叫びましたが、陛下はこちらに振り返ることなくそのまま掃けていってしまいました。



「ファラ!!」


「ユナウ!?」



 ユナウの叫びにファラは瞬時に反応するも、時既に遅く、ユナウは憲兵達に腕を掴まれていた。



「お前ら、その子を離せ!」



 そう叫ぶと同時に、頭に固い感触を覚えた。



「ファラ――!!」




 ユナウの泣き叫ぶ声が聞こえる――。



 それを最後に、ファラの意識は途絶えた。

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