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30.打倒、デスベアー

 再び、走り始めた車の中で、私は雨が激しく打ち付けるフロントガラスを見つめていた。

 後ろの座席には、町長とエリナ、さらに後ろの座席には、知美がうつむきながら乗っていた。

 そうしていると、後ろから、町長の心配そうな声が聞こえてきた。


「知美さん、鈴子さんのこと、もうだいじょうぶかね」


「……だいじょうぶになることは、多分、ありません。でも、”かみ”に、”バシレイア”に、仕返しがしたいんです。そのために一緒に来ました」


 ルームミラーに映った知美は、私が聞いたこともないような、大人びた声でつぶやいた。

 町長は、どう返していいのかわからなかったのだろう。


「そうか……」


とだけ、返事をした。


 それから車内は静かになった。デスベアーのいる山まで、途中にいくつもの集落を通り過ぎて、町から自動車でたっぷり2時間はかかった。


 山道にさしかかると、道はだんだん細くなる。一般庶民が自動車を保有してはいないので、すれ違うことはないが、ガードレールがないので、がけから転落するのではと、私はひや汗をかいていた。


「う、運転手さん、だいじょうぶなの…、落っこちないでね」


私がこわごわと尋ねると、運転手さんは振り向いた。


「今まで何度も生贄を送っている、安心しろ」


「ま、前を向いてください!」


 それにしても、デスベアーとは、どんな姿をしているのだろう。

 町長の話では、狂暴凶悪な熊らしいから、少なくとも、某ゆるキャラのような愛らしい外見はしていないだろうな。


 でも、むしろ望むところだ。かわいかったら、殺せないから。


 いよいよ道が途切れたところで、車は停車した。

 前を見ると、細い石畳の階段が、森のなかに続いている。

 どうやら、この上に、デスベアーのいる洞窟があるようだ。


「1時間以内に戻らなければ、君は町へ戻りなさい」


 町長は運転手に指示を出す。


 私たちは傘をさして外へ出たものの、吹き付ける風であっという間に体中びっちょりになってしまう。


 あきらめて、びしょ濡れのまま、デスベアーが棲むという山の奥深くにある洞窟へと向かう。


「うわっ!」


 道路わきの茂みが揺れたと思ったら、そこからキングコングが飛び出してきた。

 私は思わず町長の後ろに隠れたけれど、町長は私に顔を向けた。


「今のマリさんなら、準備運動にちょうどいい相手だ。やってみるか?」


「え、そうなんですか」


 たしかに、町長との特訓で、私は大分この体の機能を使いこなせるようになった。

 それに、なんだか、以前遭遇したときよりも、恐ろしさを感じなかった。


 町長に言われるがまま、私は、かさを知美に預けると、ソウルセーバを片手に構えて、キングコングと対峙した。


 いつものように精神力を込めると、ソウルセーバーから光の棒が伸びた。


 キングコングが突進してくる。すごい速さだけど、


──【時間圧縮】。


 私はゆっくり目を閉じて心のなかで、そう唱える。


 目をあけると、キングコングが私に向かって拳を振り上げている態勢で、ほぼ静止している。


 私はソウルセーバーを一振りした。

 そして、【時間圧縮】を解除する。

 キングコングの胴体が真っ二つになり、血しぶきを上げて、倒れこんだ。


「いや、あざやか! デスベアーも、こう行きたいね!」


 町長はうれしそうに拍手する。その後ろで、エリナが口に手をあてて、唖然としていた。


 キングコングが真っ二つになったのもそうだし、私の強さにも圧倒されたのだろうか。


「お姉ちゃん、たった1週間で、すごい…」


 知美もびっくりしている。

 

 本当に、デスベアーもこうやってサクッと倒せたらいいな、なんて。


 私が真っ二つにしたキングコングの死体を乗り越えて、さらに道なき道を、山奥へと進む。


 やがて、デスベアーの待つ、洞窟の前にやってきた。


 暗闇がぽっかりと口を開けていた。


「それでは、行くとしようか」


 町長は洞窟の前で私たちに、最後の確認をするように振り返る。

 私は知美が心配になり、振り返って声をかけた。

 

「知美はどうする? ここで待っててもいいんだよ」


 私が言うと、知美がしがみついてきた。


「お姉ちゃんが心配だから、一緒に行く」


 私は黙ってうなずく。


「そうだ、マリさんは、この服に着替えてくれ」


 町長はそう言うと、私に真っ白な着物と、ロングヘアーのかつらを手渡した。


「生贄が着ることになっている白い服だ。かつらは、エリナに変装するためにな。嗅覚のするどいデスベアーには、ごまかしにならないかもしれないが、1秒でも奴の判断時間を奪いたい」


 私は素直にうなずいて、それらを身に着けた。ふと隣のエリナが、


「全然、似てないよ」


と笑う。


 私、あなたの代わりに生贄になってるんですけど…。


「さ、おしゃべりは終わりだ。行くぞ」


 知美の手を引いて、私は町長の背中をたよりに、洞窟の奥へと進んでいく。そとは土砂降りだが、洞窟のなかは、当然シーンとして静まり返っていた。


 町長の持っているLEDらしきランタンが、洞窟に私たちの影を大きく映し出している。


 今日の私は、生贄用の白い服の下に、戦闘用スーツ、つまり高校の制服を着ていた。なんといっても、前世界のものである。これがいちばん丈夫なはずだった。


 そして、洞窟の奥から、私が聞いたこともないような、不気味な獣らしき咆哮が聞こえてくる。きっと、デスベアーだろう。


 殺しがしたくて、うずうずしているのだろうか。


 大きな岩の隙間を抜けると、広い空間が出現した。


 そして、その真ん中には、両脇のかがり火に照らされた黒い物体が寝転がっているのが目に入った。


 たぶん、あれがデスベアーだろう。


 私はデスベアーの大きさに圧倒される。姿形は私が知っている熊とそんなに違っていない。


 ただ、体長7~8mはあろうかという巨体で、横幅も広い。目の前にビルが建っているかのような威圧感がある。


 体毛は、その性格どおり、真っ黒だった。


 そして、両手の爪は凶悪にとがり、ただ人間を傷つけ苦しめるためだけに存在しているように光っていた。


 デスベアーは、私たちの姿を認めると、むっくりと起き上がり、こちらに顔をむけた。


(続く)

こんばんわ。今晩もお読みいただき、ありがとうございます。

日々のPV嬉しい限りです。励みになります。

明日も、午後7時に投稿予定です。

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