26.こんな未来になったのは
「300年前、この世界に神が降り立ち、それまで地球上を支配していた人類の99.9999%を殺害した。そして、天空に”バシレイア”という”かみ”の国を作り、そこに自らと、自らが選んだ一部の神に近い人間を住まわせたのだ」
「”かみ”って、なんですか?」
「諸説あるが、記録から判断すると、もっとも有力なのは、あるコンピュータシステムを制御する人工知能が自我をもって、人類の抹殺を始めたという説だ。自我をもったその人工知能は、ネットワークを通じてあっという間に全世界のコンピュータシステムを支配した。だから、どこで発生したかは不明だ」
映画や小説では、もう使い古されて飽きられた設定だ。でも、実際に起こると、こんなにも困ったことになるのだった。
私も携帯を家に置き忘れて外出したら、なんだか一日、不安になったものだった。
「仮にその自我をもったコンピュータシステムを”かみ”と呼ぶことにして、”かみ”は自分の手足として動かせるものはあったんですか? ”かみ”はそれ自体がプログラムにすぎないから、体がないので、自分ではなにもできないはず…」
質問しながら、私は気づいてしまった。
そう、”かみ”は、私の時代にはもう、自動車のように、日常のどこにでもいる存在になっているアンドロイド達を乗っ取ったのだ。彼らを支配すれば、あっという間に、人間は消滅するだろう。
私の表情を見て、町長もうなずく。
「そうだ。一般市民はことごく、これまで信頼を寄せていたアンドロイドに殺害されていった。僻地にも、島しょ部にも、山奥にも、飛行機や船のなかでさえ、ありとあらゆる場所にアンドロイドはいたから、人間に逃げる場所はなかった。エネルギーが切れるまで、ただ人間を殺し続けた。普通の人間の力ではとても抗うことはできなかった。人間は、”かみ”の支配を受け付けなかった一部のアンドロイドたちを味方につけて抵抗したが、それも、”かみ”が創設した、鉄騎士団によって蹂躙されてしまった」
「鉄騎士団…って」
「”かみ”直属の軍隊だ。鉄の馬にまたがる、鉄の鎧で中身はない。そして、彼らに意思はなく、ただ”かみ”の体の一部として、その命令を実行する。女王のためにその身をささげるはたらきアリのようにね。彼らは破壊したアンドロイドを餌にして、瞬く間に増殖していき、世界中にいきわたった。そして、人間とすべてのアンドロイドが地上から消えるのを見届けると、彼らもまた、姿を消したのだ」
「でも、一般市民はともかく、軍隊がいたはずです。軍隊はなにをやっていたのですか」
「残念ながら、300年前の時代の軍隊は、もう操作の大部分がコンピュータによる制御に依存していた。戦車を動かすのも、戦闘機の姿勢を制御するのも、そしてミサイルを発射するのも、複雑すぎる手順はもはや人間だけでは行えなくなっていたのだ。だから、”かみ”を倒すどころか、逆に利用されて、戦車や爆撃機、ミサイルは人間に向かって攻撃を始めたのだ。たとえ支配をまぬがれても、鉄騎士団の圧倒的な数の前にはなすすべなく、餌食にされたんだ」
私とマリが乗っていた民間のクルーズ船にミサイルが飛んできたのは、そんな事態が起こっていたからなんだ。
私の家族はどうなったのだろう。政府すら機能しなかったであろう混乱の中で、やっぱり死んでしまったのだろう。仮に生き残ったとしても、300年も経過しているので、やはりこの世にはいないだろう。
「そんなことがあったなんて、全然、知りませんでした」
私は話を聞いて、思わず身を震わせた。アンドロイドの反乱も怖いが、世界が混乱する中で、人間同士も多分、食料や水、シェルターなどの安全地帯をめぐって殺しあったのかもしれない。むしろ、そっちの方がリアルに想像されて、私はおそろしかった。
エリナはすでに知っていることなのだろうか。退屈そうに大きく背伸びをしている。
「”かみ”により人間が殺害された1年間は、「再生の年」と呼ばれている。それ以前を、前世界、つまり、マリさんのいた世界。そして、それ以後は、後世界、つまり今の世界、と定義されている」
それから先は、以前知美に聞いた通りなのだろう。私は知美から聞いたことを、一字一句声のトーンや抑揚までそのまま復唱した。
つまり──、
「この世界は、天空にいる神により支配されている。
神はかつて、地球上に増えすぎた人間を地上から天国へ導き、そして、地上の管理のために必要な、わずかな人を地上に残した。
地上の人間は、神様への貢ぎ物するために働かなければならない。そのかわりに、神による絶対的な保護管理を享受することができる」
「”かみ”は、前世界で日本と呼ばれていたこの地域を管理するため、4人の使者を使わせた。天空のはくたか、絶海のメガマウス、欲望の麒麟、漆黒のデスベアー。神の四天王と呼ばれている。我々はひそかに4大悪とよんでいるがな」
そして、今回絶対に倒さなければならない相手が、デスベアーなんだ。でも、メガマウスはともかく、はくたかも、麒麟も、名前だけ聞くといい神様っぽいけど、やはりデスベアーのように(会ったことはないが)性格は悪いのだろうか、気になった。
ふと横をみると、エリナが机に突っ伏して、居眠りをしている。でもまあ仕方ないだろう。
私にとってはおどろきの連続だけど、エリナにとっては知っていることばかりで、しかも300年も前の話だ。たいくな歴史の授業を聞かされている気分なんだろう。
町長は居眠りしているエリナをちらっと見てから、
「マリさん、これで少しはこの世界について、理解してもらえたかな?」
あまりに現実離れしているが、これが今の世界なのだと、少しは実感できたので、こくりとうなずいた。
ふと隣のエリナを見ると、きれいな顔から机によだれを垂らして、心地よさそうに眠っていた。
「私は、これまでずっとマリさんがやってくるのを待っていたのかもしれない」
町長は、私に向かって、静かに語り始めた
(つづく)
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