24.狂戦士化した町長
町長は上着を脱ぐと、電話でどこかに連絡をとっていた。
しばらくして、骨組みのようなものを職員がもってきて、町長に着せていた。
私は同じようなものを、以前の世界で見たことがある。
介護の負担を軽減するための、装着型のロボットだ。人間がそれを着用することで、装着したロボットのアームが人間の動作をアシストする。
もちろん、町長が着ているそれは、比べ物にならないほど重厚な装備だった。
ロボットの骨格が町長の全身にくまなくいきわたり、背中にはエネルギーパックらしきものを背負っていた。
そして、職員は町長に、何かの薬を注射していた。
私がその様子を、あまりにも心配そうに見ていたので、町長は笑顔で説明してくれた。
「これは、私の身体能力を限界を超えて発揮させるバトルスーツさ。でも、限界を超えるということは、私の肉体への負担も計り知れない。この薬は、それに伴う苦痛を抑えるものだよ」
と言いながら、薬がいきわたるにつれ、町長の表情はだんだんと険しくなっていった。
戦うためのバトルスーツとそれを補助する薬なのである。薬に、興奮作用があってもおかしくはない。
町長は、理性を保つのがやっとという様子で、私に言う。
「ただ、このスーツと薬を打つと、私も手加減ができなくなる。だから、マリさん…」
「はい…」
「次に私が正気をとりもどすまで、生きていてくれよ。そしたら、試験は合格だ」
そして、町長は職員から渡されたもう一本のソウルセーバを持ち、両手に構えた。二刀流だ。
「いくぞ」
町長の目が赤く光った気がした。管理室のドアが開く音がした。
「エリナ、管理室からでないで!」
ドアが閉じられるのを見てから、私は振り返ろうとした。
「余裕だな、どこを見ている!」
町長の声に、私が振り返る間もなく、町長のソウルセーバーが私の横っ腹に直撃したのだった。
私は意識する間もなく、ホールの壁に吹き飛んだ。
「ちょ、町長さん、やりすぎだよ…」
肩に手をあてながら、町長に文句の一言でも言おうと立ち上がるが、今の町長には、声は届かないようだった。
町長の容赦のない攻撃のラッシュが私を襲う。
私が壁に激突するたび、ホールは轟音とともに大きく揺れる。
こんな狂った町長をエリナには見てもらいたくない。早く決着をつけないと。
でも、立ち上がるすきを与えてくれない。
こうしている間にも、町長の両手から、剣が振り下ろされる。
「どうした! これで終わりか。こんなんじゃ、デスベアーのおもちゃにしかならないぞ! それじゃ俺が胸糞わるいから、いっそのこと、ここでぶっこわしてやる!」
言葉遣いまで変わってしまって…。ああ、ますますこんな姿をエリナには見せられない。
「どうした! マリア様よぉ、覚醒して、世界を救ってくれよ! それとも、ただのおとぎ話か!」
二刀流でひっきりなしに攻撃が来るので、息つく間もない。
それにしても町長、なんだか気持ちよさそうですよ。自分を解き放ってますね。
普段よっぽどストレスが溜まっているのかな。
町長の攻撃を受け止めたと同時に、私はバランスを崩してしりもちをついた。
ふと見上げると、町長のソウルセーバーが目前に迫っていた。
──壊される!
私は、無意識のうちに体に力を込めた。
その瞬間、見えない透明な壁が私の前に出現して、町長の剣をはじいた。
予測していなかった事態に、町長は一瞬、剣を引く。
──なんだったんだろう、さっきの。マリの体に備わっている防衛機能なのかな…。
チャンスとばかりに、私は立ち上がり、ソウルセーバーを振り下ろそうとした、
でも、町長が痛いとやだなと思い、いちばん痛くなさそうな場所を探して迷っているうちに、また町長の一撃を食らってしまった。
そして、反対側の壁にふっとばされた。
「剣が止まって見えるぞ!」
止めてたんですけど…。
倒れている私に、町長は迫ってくる。
私の体が少し動かしにくくなっている気がする。おそらく、ダメージが蓄積したせいなのだろう。
このままだと本当に、こわされちゃう。
私はよろめきながら、立ち上がる。
あれ、町長、目の前にたっていたはずなのに、いなくなってる。
姿を見失って、私はホールを見回す。
「後ろだ」
背中に、町長のとは思えない冷酷なつぶやきをきいて、ぞくっとする間もなく、また吹き飛ばされる。
私の体が、機械化町長のスピードに全然ついていけてない。
「声を掛ける余裕があったくらいだ…、やはりお前はマリア様ではないようだ。もう終わりにしよう」
私は思いだしていた。鈴子さんを助けたときのことを。
光の速さで降りてくる天の裁きから、鈴子さんを守るとき、一瞬周囲の時間が限りなく停止したように見えていた。
これもマリの体に備わった機能だとしたら、もう一度それを再現できるはず。
だけど、方法がわからない。あの時はどうだったか覚えてない。ただ、必死だったから。
「おわりだ…」
私は意識を真っ白にした。遠慮や優しさ、怒りや恐怖といった、すべての感情を捨て去って 目の前の物体を破壊することを考えた。
町長のソウルセーバーが私に向かって弧を描いで飛んでくる。その軌跡が、今の私にはゆっくりと流れてみえた。
町長さん…
私は、そう思いながら、ゆっくりとソウルセーバーを正面に構えた。それくらい時間に余裕があった。
町長の剣は、まだ先ほどの位置から1mmほどしか動いていなかった。
私は穏やかな気持ちで、鬼の形相で剣を振り下ろしつつある町長を見つめた。
「ごめんなさいっ、町長さん…」
そしてやっぱり、できるだけ、町長がけがをしないようなところを選んで、バッテリーパックでおおわれている背中にまわり、そっと私のソウルセーバーで撫でた。
そっとしたつもりだったが、町長はふっとんで、壁に激突して、気をうしなってしまった。
(つづく)
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