↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/152

10.面接試験

いつもの時間の19時にも投稿します。

 町中の大通りは、アスファルトではなく、石畳によって舗装されていた。

 

 そして、昨日は暗くてよく見えなったけれど、行き交う人の服装は、私が学生の頃、世界史の資料集で見たことのある、中世ヨーロッパの人が着ているものによく似ていて、街並みも、その時代と同じような雰囲気だった。


 知美、鈴子という名前は日本風だけど、文化は西洋風なのが、私にはおかしく思えた。


「あぶない!」


 私は、横を歩いていた鈴子さんに、腕を強く引っ張られて道路わきに引き寄せられた。そのあとをすぐに、荷物を積んだ馬車が、けたたまし音を立てながら、通り抜けていく。

 

 風景に気を取られて、考え事をしていたので、気が付かなった。この世界にも、交通事故はあるんだな。


「自動車はないんですね」


 私がつぶやくと、鈴子さんは、


「もしかして、神の使いの人たちが、町の荷物を持っていくときの、不思議な馬車がそうかしら?」


「そんなのがあるんですか?」


「はい、ちょっとした家くらいの大きさの銀色の箱の前に、鉄の馬が付いていて、でもそれは馬とは違い、唸るような鳴き声と、独特のにおいをまき散らして去っていくんです。あんな巨大な箱に目いっぱい詰め込んだ荷物を引けるのだから、ものすごく力持ちの馬なんでしょうけど」


 鈴子さんの話を聞く限り、それはたぶん、私の世界のトラックの荷台とそれをけん引する、トラクターのことだと思った。鳴き声はエンジン音、独特のにおいはきっと、ディーゼルエンジンによる排気ガスの臭いのことだろう。


「一般の人は、車は使わないんですか?」


「あれは、神さまからの賜り物で、神さまの使いにしか与えられませんから。でも、あんな不気味なもの、誰も欲しいとは思いませんよ」


 鈴子さんはきっぱりと言った。その表情を見ながら、誰もが車を持っていた、そして持たざるを得なくなってしまった私の世界が、むしろ異常だったのかもしれないと思った。

 ふと空を見上げると、澄んだ青空が広がっている。とこからか鳥の鳴き声が聞こえていた。



「着いたよ、ここが町役場だよ」


 町役場の敷地内までやってくると、知美は私を追い越して、建物の入口へ走っていった。

 町役場は、私の実家だった田舎の役場と同じような作りだった。

 街並みは中世ヨーロッパ風だが、役場の建物はコンクリート造りの2階建てで、私の世界と同じようなものだった。

 もちろん、長年の風雪で、建物はだいぶんくたびれて見えた。


 ガラスのドアを押して開けると、そこには、私の見慣れた、つまり300年前の役場の風景がそこにあった。


 天井には、LEDのような照明が光っていたし、窓口や職員の座っている机には、パソコンが配置されている。

 まるでもとの世界に戻ってきたようだ。

 

「この役場には、知美の家にはない、めずらしいものがたくさんあるね、照明とかパソコンとか」


私は隣に座っていた知美に聞いてみた。知美は不思議そうな顔をして、


「パソコン?」


というので、私はカウンターの向こう側を指さして、


「ほら、あのお姉さんが机でカタカタさせてるやつ」


「ああ、神の箱のことか。あれは、神様が地上の人間の管理のために、役場にだけ、特別に与えているものだって。前に町長さんから聞いた。町の人たちのことを何でも知っていて、一瞬でなんでも教えてくれて、なんでもん記憶して、でも決して忘れることがないんだってさ、すごいね」


 パソコンなら、当然だろう。知美の家には、電化製品は一切なかった。なので、役場もすべて紙とペンで住民記録を管理していると思ったが、意外だった。


「神様もケチだね。知美たちにも配ってあげればいいのに」


「あれは堕落の元になるから、だめなんだってさ。でも、さわってみたいよね」


 知美はうふふと笑う。たしかに、役場のカウンターでは、ベンチに座って待っている人が他にもいたけれど、みなとなりの人と会話したり、紙の本を読んだりして過ごしている。

 私のいた世界は、ほぼすべての人が、スマートフォンとにらめっこしていたっけ…、まあ私も人のこと言えないけど。


 鈴子さんが相談カウンターで職員と話し始めたので、私は役場の中をぶらつくことにした。

 この世界について、少しでも多くのことを知っておきたいので、私は掲示板のポスターや掲示物に片っ端から目を通した。


”養子・里親募集中! 詳しくは2階 児童福祉課へ”


 ポスターの下に細かい字で書かれている説明をよく読むと、この世界では、魔物や天の裁きにより、両親を失う子が多いのだという。養子・里親の需要が多いので、申請は私のいた世界よりも、かなり簡単になっているらしかった。


”神様への貢ぎ物、奉納の納付期限 11月30日まで 納付は期限前でも可。義務を果たして楽しい年末!”


 期限日だけ赤い字で記載されている。ポスターは手書きではなく、プリンターで印刷されたものみたいだ。

 納付は、お金ではなく、現物で行うようだ。

 

”盆踊り大会! 8月15日 午後12時から未明まで ※参加条件 神様への貢ぎ物納付滞納のない者に限る”


 昨年の祭りの風景だろうか。屋台や照明が並ぶ大通りに、人があふれている。割と楽しそうだ。


「お姉ちゃん~、お母さんがよんでるよ~」


ポスターに夢中になっていた私の後ろから、知美の声が飛んできた。


 職員に案内された先は、2階の応接室だった。職員にうながされて、私たち3人はパイプ椅子に腰かける。

 テーブルの上には、小さな白い花が飾られていた。


「お待たせしました」


 しばらくして、後ろからドアの開く音がした。

 振り返ると、スーツ姿をした、すらりと長身、白髪混じりの、スマートなおじさまが、脇にファイルを抱えて入ってきて、正面に座った。


「町長の、雪代ゆきしろ つかさです。よろしく」


 町長は私を見て言った。優しそうな表情だったが、眼光の鋭さを感じて、私は思わず目をそらした。

 私はこの町にとって、いまだ部外者である。

 面接試験が始まったのだった。


(続く)

読んでいただき、ありがとうございました。

ブックマークもいただけてとてもうれしいです。


今日は19時にも、投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。