第52話 マッドサイエンティスト
「ふふふ、お前達そういじめてやるな」
薄明に輝く空からテシマ達の上空からバルサロッサがエルナを伴い、ゆっくりと舞い降りた。
「エルナに何をしたのよ!」
バルサロッサは金属にも似た冷たい表情で言う。
「そう牙を剥くなブラックパピヨン」
ベルリッタが言い重ねる。
「このコはねぇ、もうバルサ様の奴隷になったのよぉ」
「何言ってんのよ! この変態おかま! エルナ、正気に戻って!」
「変態って……まあ! ミランちゃん酷いこと言うのねぇ」
不貞腐れたように頬を膨らませるベルリッタ。
「ふふっ、薬の効果で君の声は届かないよ。パピヨン」
「薬?」
バルサロッサはなにやら赤く発光する液体が入った注射器のようなものを白衣の内側から取り出した。
「種明かしをしよう。これは天使を強制的に堕天使に落とし、私が天使を意のままに操れる薬だ。四天翼でさえ、これを注入されれば私の魔力にリンクして、忠実な人形にならざる得ないのだよ。この薬の開発は故意にテイルチェンジさせるものよりも、かなりの研究時間を浪費したがな」
薬を取り出した時から予想はしていたが、実際そんなものを作りだしたということを目の当たりにすると、背筋に悪寒が走り抜けた。
「薬……だからクラシカル軍にはレベルブルーが多いということなの……」
「ああ、そうだよパピヨン。極限に追い込まれた絶望がテイルチェンジを引き出すことを私は発見した。そのテイルチェンジさせる薬は絶望そのものを具現化したものだ。さらにもうひとつ付け加えると、君らが葬ったジェルクのような初めから私に忠誠を誓った者には、洗脳の薬はプラスで注入してないが、その他の兵隊には施してある。これで完全なる忠実なクラシカル軍が出来上がったのだよ」
悪魔がテイルチェンジできるきっかけは絶望が引き金だったのか。だから、僕は学園が襲われた時、誰も救えないと絶望して、テイルチェンジしたのか。
「そんな酷いことを……」
ミランは苦悩に満ちた表情をした。
目の前のエルナ初め、バルサロッサの支配を拒んだ幾多の兵士も戦う奴隷にされているのだ。この場にいる兵士の中にも存在しているのだろう。
僕もノーファも自ずと苦い表情になった。
マッドサイエンティストにして、クラシカルの王はその様を見て、金属質な顔を歪めて嘲笑する。
「ふふふふふ、はははははは!」
その笑い声は闇夜を蹂躙するが如く、響き渡る。
「お前達のその絶望に染まる顔つきいいねぇ~。さらに絶望を与えてやろうか?」
テシマはそう言うと、憎たらしい笑みを浮かべた。エルナは自我をなくし、ルンは倒れ、敵に囲まれているこの状況で、これ以上の事態の悪化があるのか……。
「……ミラン、私達の国はもしかしたら……」
ノーファが曇った表情で呟いた。
「おっ? お前察しがいいじゃないか。こんな時、頭が切れるっていうのは皮肉なもんだな。はっはっは!」
テシマは嘲るように高笑いをする。
「ノーファちゃんは学園一の優等生だもんねぇ~」
ベルリッタがさもわざとらしく付け加えた。
まさか……そんな……僕も奴らが言わんとしていることに気がついた。
「あちゃー、言う前から全員さらに深刻な顔つきになったじゃないか」
テシマはそう言うと、バルサロッサが持っていた注射器のようなものを二本、指の間に挟んで見せびらかした。ひとつ違うのは先ほどバルサロッサが見せた赤く蛍光に輝く液体は入っていない。
「この二本の薬の中身はどこにいったかなあ~わかる人いますかあ?」
「くっ! あんた達」
怒りが滲み出ている声でミランが言った。
「あれ? わからないのか? じゃあ、ベルリッタ教えて差し上げろ」
「はぁい! それはぁエイジアとカメリアを守っているはずのぉ、四天翼のカラダの中でぇす!」
「正解!」
絶望の淵に立たされていたのが、完全に絶望の底に落とされた。




