痴女
「パーシー。この店員どう思う」
体の曲線や乳房などがありありと分かるタイトな服を着ている店員を指差し、尋ねた。
ここはパブ。
ここでは女に触ろうが、客同士で盛り上がろうがお構いなし。
経験豊富かつ病気など知らぬ痴女が多い。
痴人でもあるのが傷だが、なんだか今は、痴人の方を欲している私がいた。
「却下」
「なんで」
「店に合ってない。彼女はアメリカンすぎる。店はもっと妖艶さだとか、美しいだとかをコンセプトに持ってる」
「いいや。うちの店は妖艶さだとかは勿論だけれど、多文化的なのが強みだ。君は何も分かっていない。アメリカンというのは素晴らしい要素だよ」
「そうかな」
「そうだとも」
「あなた、こういうときは楽しそうよ。なんでかしら」
「そう見えるのか」
「そう見えるわ」
なんともない会話。
それでも私はこの会話の中に今を見た。
こういう何もない会話こそが、実は全ての始まりで、本質なのかもしれないと思いました。
だから私は集中して値踏みができた。
やはり、あのアメリカンな女、好みの男はうんといることに違いない。
ブロンドで艶のある髪もまた人を性に狂わし、思考を持つ理性を惑わす色香を漂わせていて、男たちはその髪を、女を撫でようとわんさか娼館に来るだろう。
それにこの女は服装の趣味からかなりエロチックな性格だと推理した。
なんの恥ずかしげもなく着る様はまさにアメリカ的で大胆。
エロの中にかっこよさが、かっこよさの中にいじらしさを見た。
「やはり、彼女にしよう」
パーシーは迷の表情をしていた。
しかし、そこまで女を選ぶ自信がないのか表情が段々と曇っていきました。
私が最終的に押し切り、アプローチを仕掛けることを決めました。
足場は酒や涎、吐瀉物などで濡れていて歩く度にぐしゃぐしゃと、また、靴がぬちゃっと床に粘りついて、私の足を止めているようでしたが、振り払い、私は女を見る目がありコビーや店のために貢献していると自信を抱きながら、眼を落ち着かせ、飛び込んだ。
「すみませぇん。少しお時間いいですかぁ」
私に続いてパーシーが、
「今、お時間ありますか」
「注文かしら」
女は敢えてか、大袈裟に、ボディラインを際立たせるように動いてみせた。
そうして顔を蕩かせ顔を覗き込んできた。
ここはパブ故に、いや、パブだとしてそこまではなかなかしないものだが、法や倫理はなくたとえ年齢が十の中だとしても構わずに性の対象にしてくる。
ただの一言、注文かしら、と尋ねるだけで、男に性を抑える理性があるのなら、嘘にしてしまうような、男を野生に返すような、そんな魔性を秘めていると分かった。
もし、その魔性に魅入られてしまったらば、男と女ではなく、ただの雄と雌として交わらざるを得ないだろう。
私は娼館に住み、娼館で生きているため、女というものにアジャストしている節はある。
そんな私にこう思わせるのだから大したものだ。
「実は僕らこういうものでしてぇ」
名刺のようなものを差し出しました。
女は受け取るとクスッと笑った。
「それで、娼婦になってくれる方を探していましてぇ」
「あぁ、なるほど。私、そう見えた?」
「ええ。少なくともこの店一番のお方ですぅ。あなたほど可愛らしいお方はおりません」
「ふふ。良い男に口説かれちゃったかしら。でもその喋り方は気に入らない」
「なんと言いますか、私はそんな親しみに入りやすい人間じゃあないといいますか、暫くはこの喋り方なんですぅ」
蕩けた目に映っている私は一体どんな面をしている。分かったところで何も起きない。
それでも私はなるべく私でありたかった。
「どうかしらねぇ。やっぱり、条件があるわ。あっちで話しましょ」
パブに佇む長く高い椅子とちっちゃな丸いテーブルに三人でぽつんと座った。
女はテーブルに肘を置き、顎を掌で支え、青い眼でじっとこちらを見るやいなや、
「四千ポンド」
「二千ポンド」
「三千五百」
「二千五百」
「じゃあ、三千で決まりね」
「それじゃあうちの娼婦になってくれるってことですかぁ」
「いや、まだ条件があるわ。私は大きいのじゃないと嫌なの。分かる?」
この女にも純な時間があったと考えると、親やこの女に純に惚れた男たちに涙を禁じ得ない。
「ありがとうございますぅ。オーナーも喜びますぅ」
「あぁ、それとあなた、その語尾やめて。最後の条件よ」
煙草を咥え、火を付け、煙を吐きながら言った。
ウォッカが入ったグラスがシャンデリアのライトで反射して、燦然としていた。
それをぐいっと、女が呑んだ。
私も、グラスの横にあるウォッカを瓶ごとぐびぐびと呑んだ。
初めての酒だった。




