西園寺から見た戦場
王都を出発し、竜騎兵団と共に南へ向かう。
乗馬訓練は受けていたが、竜に乗る訓練はまだだ。
だから俺達は馬で進軍している。
軍馬とはいえ、竜騎兵団の亜竜と比べれば速度は雲泥の差だ。
彼らはわざわざ俺達に歩調を合わせてくれているが、内心では不満が溜まっているのが見て取れた。
戦場へ急ぎたい彼らにとって、足の遅い異世界人の同行は足枷でしかないのだろう。
俺はその気持ちが分かるから何も言わない。
が、クラスメートの約一名は違った。
もちろん、天城だ。
「まったく! 馬に乗ったことすらなかった俺達に、『遅いので後続部隊に回れ』だと? 召喚しておいて、肝心な場面では不要ってことかよ!」
手綱を器用に操りながら、口だけは絶好調で文句を垂れ流している。
実際、俺達が遅いのは事実だ。後続部隊には補給部隊もいる。守りを固めるためにも、俺達がそこに回されるのは妥当な判断だ。
それにしても竜騎兵団は名に違わず強力だ。
戦闘部隊は竜に騎乗し、補給部隊ですら四足の亜竜を使役している。
ブラキオサウルスのような姿で全長五メートル。大人しく力持ちで、荷運びや陣地構築に重宝されているらしい。
その巨大な首元に鞍が取り付けられ、騎士が手綱で操っている。
(いつか乗せてもらえないだろうか……)
そんなことを考えていた時だ。
ブオォォォッ。
突然、低く響く音が戦場に広がった。
「何だ、この音は?」
「敵襲を知らせる角笛です!」
近くの兵士が叫び、俺達も即座に武器を構える。
「敵が来たぞ! 全員、備えろ!」
俺の声に皆が驚きながらも訓練通り武器を構えた。中には落とす奴もいたが、すぐに持ち直した。
「いよいよだな。大丈夫だ、皆は俺を援護すればいい。後は任せろ!」
天城が剣を抜いた瞬間、刀身が陽光を浴びて白く輝き、まるで太陽そのもののように光を放つ。
彼の剣はこの国の聖剣『聖輝光の剣』。
鎧は『法の鎧』、盾は『正義の盾』。
三つ合わせて三神聖具。
白く光り輝くその装備は、天城にこれ以上なく似合っていた。
……目立ちすぎて敵の標的になっているのは笑えないが。
土煙の向こうから、鬼人族が突進してくる。
上半身裸に獣皮の腰巻き。まるで昔話の鬼そのものだ。
ただし、手にしているのは金棒ではなく斧や剣だ。
「グウウウッ!」
鬼人族が斧を振りかぶり、俺に迫る。
剣で受け止め、返す刀で斬り返すが、軽く身をひねってかわされた。
筋肉の塊のような体に似合わず、動きが速い。
戦闘に集中し、周囲を見る余裕がなくなる。
ようやく敵を斬り倒し、息をついた頃には戦況が落ち着き始めていた。
(……人型の敵を斬るのは、やっぱり気が重いな)
そんな考えを振り払い、周囲を確認する。
兵士達は踏ん張り、クラスメート達も必死に戦っている。
危なくなると。
「セイッ!」
「グボッ!」
天城が白銀の光を引きながら敵を斬り伏せ、クラスメートを救っていた。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……助かった」
「無理はするな。危なくなったら下がれ」
そう言ってまた別の敵へ突っ込んでいく。
本当に特撮ヒーローみたいな奴だ。
敵は数が少なく、このまま押し切れる――そう思った矢先。
ピイイイイイイィィィッ!
甲高い音が響き、鬼人族が一斉に撤退を始めた。
撤退の合図だろう。俺達は追わず、被害状況の確認に移る。
のはずだったのだが。
「敵が退いた! 追撃するぞ!」
天城が馬を走らせ、数名のクラスメートが続いた。
「馬鹿野郎! 追うな! 戻れ!」
俺の声は届かない。
(だから、あいつと同じ部隊は嫌なんだ……!)
歯ぎしりしながら、俺は部隊長へ報告に向かった。
部隊長は状況を理解し、百騎の護衛部隊を付けてくれると言う。
ありがたい申し出に礼を言い、俺は亜竜に乗って追撃組の捜索へ向かった。
数十キロ進んでも、天城達の姿はない。
「あいつら、どこまで行った……」
「まだ遠くへは行っていないはずです。周囲を探しましょう」
分隊長――男装の麗人の騎士――が指示を飛ばす。
真面目で礼儀正しい、頼れる人だ。
やがて分隊の一人が駆け寄ってきた。
「分隊長! この先の森で火災が発生! 異世界人達が取り残されています! さらに敵部隊が包囲中!」
「まずい……! 付近の分隊を集めろ! 救援に向かう!」
「はっ!」
撤退は偽装だったのか。
俺も見抜けなかった。
だが反省は後だ。今は救援が先。
(……こんな時、猪田がいたらどうしていただろうな)
そんなことを思いながら、集結した分隊と共に森へ向かう。
「ここまで来たんだ。生きて帰って、俺に殴られろよ――天城」




