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転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜
第1章

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第60話 そう言えば、捕虜の扱いってどうなんだろう?

 掃討戦が終わり、銃撃をかろうじて生き残った者たちは、全員が降伏を選んだ。

 まぁ。当然だ。

 自分たちの武具よりも長い射程を持ち、威力も高く、魔法よりも速く攻撃できる兵器を見せつけられたのだ。

 降伏しないほうが不自然だろう。

 生き残ったのは、千名ほど。

 あれだけの銃撃を受けてなお残ったのだから、大したものだ。

 捕虜となった者たちは意気消沈した顔で一箇所に集められている。

(そういえば、この世界の捕虜ってどう扱われるんだろう?)

 聞いていなかったことを思い出し、僕はエリザさんのところへ向かった。

 ザク、ザクザク――

 僕の足音に続いて、四つの足音が重なる。

 振り返ると、マイちゃん達が揃ってついてきていた。

「何か用?」

「「「「何処に行くのかなと思って着いてきた(の)」」」」

 四人そろって同じことを言うので、僕は思わずため息をついた。

「大した用じゃないよ。聞いたらすぐ戻るつもりだったし」

「で、何処に行くの?」

「エリザさんのところ」

 その瞬間、四人とも露骨に嫌そうな顔をした。

 何で、嫌そうな顔をするのかな?

「ノッ君、行かないと駄目?」

「うん、今のうちに聞いておきたいから」

「向こうが来た時に聞けばいいじゃない」

「いつ来るか分からないし」

 なぜか、マイちゃん達は僕をエリザさんのところへ行かせたくないらしい。

「ねぇねぇ、イノッチ」

「なに? 村松さん」

「どうしても今じゃないと駄目?」

「うん、そうなんだ」

「じゃあ、あたしも暇だし、ついて行っていい?」

「いいよ」

「やった」

 村松さんが嬉しそうに笑うと、他の三人も慌てて口を開いた。

「あ、あたしも行くよね? ね?」

「わたしも暇だから……いいかな?」

「無論、わたしが付いて来ても問題ないだろう。なぁ、ノブ?」

「え、ああ……いいよ」

 なぜか全員が同行を希望してきたが、まあいいか。

 僕たちは魔法師団の本陣へ向かった。

 見張りの兵士に団長への取り次ぎを頼むと、最初は胡散臭そうな顔をしていたが、マイちゃん達の顔を見た瞬間、怯えだした。

「す、すぐに取り次ぎますので、し、少々お待ちを!」

 慌てて走っていく兵士を見送りながら、僕たちは待つ。

(あの怯え方……何かしたのかな?)

 食堂の騒動が尾を引いているのだろうか。

 被害は主にクラスメート達だったと聞いたが、巻き込まれたのかもしれない。


 その騒動を知ったのは翌日だった。

 僕はマイちゃん達を注意したが、反省しているように見えたので深追いはしなかった。

 原因を聞くと、口を揃えて「口の悪いクラスメート達に注意したら、ああなった」と言う。

 どう考えても有り得ない。

 被害者に聞いても、

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

 としか言わない。

 結局、壊れた食堂を直すことで手打ちになった。

 僕も手伝ったが、凄まじい壊れ方だった。

 椅子とテーブルは折れて散乱し、壁や天井には抉れた跡が多数。

 説教しようにも原因が分からず、僕はため息をつきながら修理を手伝った。

 物思いにふけていると、見張りの兵が戻ってきた。

 カドモスさんを連れて。

「これは皆様方、何か御用で?」

「ちょっと聞きたいことがありまして」

 話そうとした瞬間、袖を引っ張られた。

 マイちゃんだ。

「どうかした?」

「ねぇ、聞きたいことなら、この人でも良いんじゃない?」

 確かにそうだ。

 捕虜の扱いを聞くだけなら、エリザさんでなくてもいい。

 ユエ達がマイちゃんに向かって親指を立てている。

 マイちゃんも親指を立て返す。

「イノータ殿?」

「ああ、すいません。捕虜の扱いについて聞きたいのですが、今よろしいですか?」

「ええ、どうぞ。中へ」

 案内され、本陣へ入る。

 兵士達が僕たちを見ると小声で囁く。

「あれって不可触の鬼姫達じゃないか?」

「ああ、間違いない」

「何でここに来たんだ?」

 マイちゃん達は顔を赤くする。

(恥ずかしいことしたからなぁ……仕方ないね)

「イノータ殿、何か言いましたか?」

「いえ。それで、どこへ向かっているんですか?」

「師団長がおられる所です」

「エリザさんの所ですか。仕事の邪魔じゃないですか?」

「それが、師団長がイノータ殿をお呼びでして」

「僕を?」

「ええ。呼ぼうと思っていたところに来られたので、ちょうど良かったです」

 エリザさんは僕に何の用だろう?

「「「「っち‼」」」」

 後ろから聞こえた舌打ちに振り返ると、四人は笑顔だった。

 誰が舌打ちしたんだろう?

「ここです」

 大きな陣幕の前に着く。

「師団長閣下、イノータ殿方をお連れしました」

「入りなさい」

 中に入ると、エリザさんが地図を見ていた。

「ようこそ。丁度お呼びしようと思っていました」

「それは丁度良かったですね」

 僕は椅子に座り、マイちゃん達も勝手に座る。

「身体は問題ありませんか?」

「問題ないです」

「仲間に気分が悪くなった者はおりませんか?」

「それなりにいます」

「後で精神安定剤を送りますね」

「分かりました」

「それで、何の用で来たのですか?」

「ああ、それは――」

「伝令、伝令!」

 兵士が飛び込んできた。

「何事ですか?」

「第四部隊からの伝令です。敵一万が降伏しました!」

「何ですって⁉」

 一万が降伏。

 こちらの戦闘を見て恐怖したのだろう。

「その者達は?」

「抵抗はなく、武器を取り上げて一箇所にまとめています。判断に困り、伝令に参りました」

「……捕虜を連れて本陣まで来なさい」

「はっ!」

 兵士が一礼し去る。

「撤退したと思っていたけど、まだ後方にいたのですね」

 一万は大きい。

 対処を誤れば大変なことになる。


 僕はエリザさんの判断に期待した。


 ――数時間後。

 第四部隊が猫人族一万を連れて本陣に到着した。

 人馬族はケンタウロスそのものだったが、猫人族はどんな姿なのか興味がある。

「付いて来ても面白いことはないわよ。物好きね」

「すいません。猫人族が気になって」

「好きにしなさい」

 人だかりの中へ進むと、まるで海が割れるように道ができた。

 その先を見て、僕は絶句した。

 猫だった。

 正確には、人の服を着た猫のような者たち。

 二足で座り、耳を伏せて怯えている。

 毛並みはふわふわで、触ったら絶対に気持ちいい。

 耳も尻尾も柔らかそうで、肉球まである。

 ――あの毛並みをモフモフしたい。

 ――耳をにぎにぎしたい。

 ――肉球を押して癒されたい。

 ――頬ずりしたい。

 じっと見ていたら、ユエに後頭部を叩かれた。

「凝視しすぎだ。向こうが怖がっているぞ」

 猫人族達は耳をペタンと垂らし、怯えている。

「ところで、エリザさんは?」

「あそこで話しているよ」

 盗み聞きすると――

「この者達を連れて王都まで凱旋できる程の兵糧はありません」

「そう。じゃあどうするべき?」

「殺すしかないかと」

 ――殺す⁉

 この超絶可愛いモフモフ集団を⁉

 神が許しても僕は許さない!

 僕は割り込んだ。

「お話中失礼します。僕の話を聞いてもらえますか」

「イノータ殿?」

「無礼だぞ!」

「そこを曲げて、どうか……僕の話を聞いてください」

 エリザさんが手で制した。

「聞きましょう」

「はい。捕虜の処遇についてです」

「どうしたいのですか?」

「解放すべきです」

「「はぁっ⁉」」

 エリザさんと部下が驚く。

 後ろでは四人がヒソヒソ。

「やっぱり言うと思った」

「だな」

「どういうこと?」

「イノッチは動物好きなんだよ」

「そう言えば、調査資料にも書いてあったような……」

 非難されている気がする。

 僕は説明した。

「捕虜を解放すべき理由は三つあります」

 一つ、獣人族との講和の仲介役を作れる。

 二つ、戦の事実を隠蔽できなくなる。

 三つ、民心を煽らない。

「捕虜虐殺の噂が広まれば、講和どころではなくなります」

「……確かにそうですね」

「国境付近で解放し、武器は剣だけ、食料は一週間分。これなら野盗化の心配も減ります」

「ふむ……よく考えていますね。問題ないでしょう」

 後ろで四人が安堵する。

「サナダッチ達は、僕が何て言うと思ってたの?」

「『モフモフは正義だ! こんな可愛い生き物を殺すなんて、あんたらの血は何色だ‼』って言うと思ってた」

「私は『こんなにモフモフした人達を殺すなんて人じゃない』って言うと思ってた」

 ……ひどい。

 結局、エリザさんは僕の進言通りに捕虜を解放した。

 猫人族達は深く感謝し、「お礼に何でもする」と言ってくれた。

「じゃあ、モフモフ――」

 と言いかけた瞬間、マイちゃんに口を塞がれ、ユエが「お礼は不要だ」と言い切り、椎名さんと村松さんに抱えられて連行された。

 その後、四人に説教された。

 少し、この世の理不尽を感じた。

(向こうはどうなっているかな……)

 鬼人族と対峙している竜騎兵団に同行したもう一組のクラスメート達のことを思う。

 幸い、こちらは死者ゼロ。

 向こうは西園寺君や天城君がいるから大丈夫だろう。

「もう、ノッ君! 話聞いてるの!」

「はい、聞いてます!」

 僕は背筋を伸ばして説教を受けた。

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