第48話 う~ん、ストレスが溜まっているのかな?
「……そんなことがあったんですか。はぁ」
屋敷へ戻った侯爵は、談話室で今日の訓練で起きた出来事を淡々と語ってくれた。
王宮の方角から轟音が響き、地面が揺れたのは感じていた。
ただの騒ぎだと思っていたのに――まさか、そんな事態になっていたなんて。
「しかし、イノータ殿のご友人方は実に強い。近衛兵団は各軍団から選抜された精鋭で構成されているのだが……その半数を戦闘不能にするとはな」
侯爵は感心したように笑う。
けれど僕は、恥ずかしさと申し訳なさで顔を上げられなかった。
もし僕がその場にいたら、止められたんじゃないか――
そんな“たられば”が頭をよぎる。
(……いや、考えても仕方ないか)
自嘲気味に息を吐いた。
それよりも、これからどうするかだ。
三人はしばらく自室で謹慎らしいが、出てきたらまた何かしでかしそうな気がする。
(うーん……どうしたら大人しくなるかな)
三人の趣味を思い返してみる。
(マイちゃんは食べることが好きで……大食い大会の選手並みに食べるんだよな。椎名さんは写真。意外とアクティブで驚いたっけ。ユエは華道。生け花が面白いから僕もやってみろって誘われたなぁ)
共通点は、見事にゼロ。
(どうしよう……)
頭を抱えていると、エリザさん覗き込んできた。
「どうしました?」
尋ねてくるエリザさんを見て、此処は同性の意見を聞くべきだと思い、僕は口を開いた。
「エリザさん、ちょっと聞いてもいいですか?」
「なにか?」
「女性って、何が好きなんでしょう?」
「好きな物? ……オシャレか甘い物だと思います」
オシャレ……僕は興味ないしな。
甘い物……あっ。
「そういえば、マイちゃんと約束してたことがありました!」
色々あったせいですっかり忘れていた。
そうだ、お菓子だ。
この世界では甘い物といえば果物くらい。
なら――僕が作ればいい。
三人のストレス発散にもなるはずだ。
思い立ったら即行動。
厨房は何度か借りたことがあるし、使い方も分かる。
調理器具は僕の世界のものを侯爵が作ってくれた。
最初は「何に使うんだ?」と言われたけど、使い方を教えたら便利さに気づいてくれて、量産するようエリザさんが頼み込んだらしい。
「よし、明日買い物に行こう」
「? 何かするのですか?」
「はい。三人の機嫌を直す物を作ろうと思います」
「じゃあ、明日は市場に行くのですね」
「はい、そのつもりです」
「あの、市場は朝早くですけど、大丈夫ですか?」
図星を刺されて身が縮こまる。
僕どんなに早く寝ても、朝が弱いんだよな。
この屋敷に来てから、朝はいつもエリザさんに起こされている。
マイちゃんみたいに乱暴じゃなく、優しく体を揺らして起こしてくれる。
「え、えっと……起きてから市に行こうかと……」
「朝早く行かないと、良い物が手に入りませんよ」
「そ、そうですよね」
「・・・・・・一緒に行きますか?」
「えっ、いいんですか?」
「別に構いません」
「じゃあ、お願いします」
助かった。
これで明日の買い物は大丈夫だ。




