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転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜


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第21話  実践訓練の前に

 訓練が始まってから数日が経つ。

 僕達は最初に持った武器で素振りをしながら、文字の書き取りを行なう。

 中には違う武器で素振りをする人も居るが、殆どは最初の武器のままで素振りをする。

 今もグレイブで素振りをしている。

「百、百一、百二、百三」

 始めた頃は百回も素振りをするのも一苦労だったが、今では数百回は素振りを出来るほどの体力が出来た。

「二百っ!」

 そこまでグレイブを振って、手を止めた。

 額には、びっしょりと汗をかいたので拭う。

 周りを見ると、まだ素振りをしている人が沢山居た。

(う~ん、僕って体力ないな~)

 そう思っていると、西園寺君が近づいて来た。

「猪田、もう終わりか?」

「うん、どうも。僕は体力がないようだから、二百回素振りしたら、もうへとへとで」

「日頃の運動不足がたたったな」

 苦笑する西園寺君。

 事実だけに反論が出来ない。

「そうだね。もし帰る事が出来たら、少し体を動かすよ」

「まぁ、お前は動かない方がモテるだろうがな」

 どういう意味と思っていると、西園寺君が顎で示した。

 見ると、マイちゃん達が何か持って僕の所に来る。

「ノッ君、お疲れ様。はい、タオル」

「ノブ、喉が渇いただろう? ほら、程よく冷たい水を持ってきたぞ」

「猪田君、塩を振ったレモンを持ってきたよ。食べて」

 三人が、同時に突き出してきた。

(ど、どうしようっ⁉)

 どれをとっても、後で何か言われそうで困る。

 悩んでいたら、壇上に人が上がるのが見えた。

 誰だろうと思い顔を見ると、数日前に王女様と一緒に来た側近の人だ。

 名前は聞いていないので、どんな人か分からない。

 見ていると、側近の人が壇上に上がると、深く息を吸う。

「御客人達よ、しばし手を止めて話を聞いていただきたい」

 その声はそれほど大きい声を出した訳ではないのに、訓練場によく響いた。

 素振りをしていた人も手を止めた。

 全員が動きを止め、壇上に上がった人を見る。

 それを見てとった側近の人は口を開く。

「明日、実戦訓練の一環として近くの森で魔物狩りを行なう。歩いてすぐの所なので、それほど強い魔物は居ない筈だ。必要な物はこちらで用意する。なお、午後の訓練はないので、今日はゆっくり休んで明日に備えるように。解散」

 伝える事を伝えたら、側近の人はさっさと行ってしまった。

 午後は訓練がないと知ったので、皆が一斉にやる気が出てきた。

「魔物狩りか、どんな魔物が出るか後で調べておかないと」

 それほど強くないと言っても、僕達は訓練しかしていないし、何より動物を殺した事もない。

 なので、少しの油断で命の危機につながる筈だ。

 確か、この王宮には図書室があった筈だから、昼ご飯を食べ終えたらそこに行って調べよう。

 そう考えていると、肩をトントンと叩かれた。

 振り返ると、三人が色々な物を突き出したまま僕を見ている。

(……どうしよう、この状況……)


 訓練を終えた僕たちは昼食を取る。

 その際、僕の隣に誰が座るかで揉めたが、じゃんけんで決めた。

 ユエがパーを出して勝利した。

 マイちゃんと椎名さんは、拳を握ったまま悔しそうに悶えていた。

 ユエが楽しそうに食べるのを、僕の正面に座るマイちゃんと椎名さんがジト目で見てくるという神経を使う昼食だった。

 午後は訓練も休みなので、僕は王城の図書室に向かう。

 側近の人の話では、強い魔物は居ないと言っていたが、用心を兼ねて調べる事にした。

(この世界はゲームみたいに死んだら蘇るわけじゃないんだ。ちゃんと調べておいて対策を練っておかないといけない)

 僕は掃除をしていた使用人の方に、図書室はどこにあるのか訊いた。

 その人に教えられた道の通りに行くと、図書室があった。

 公共の施設だろうから、ノックはしなくてもいいだろうと思い扉を開ける。

「わぁ、図書館を思い出すな」

 見た瞬間、思わず口に出た。

 部屋に入ると、本が醸し出す独特の匂いが香る。

 本棚が天井に突くほど高くあり、棚には種別ごとに分かれており、その順に本がぎっしりと並んでいる。

 この世界に来てこれだけ本がある所は初めて見たので驚いた。

(この間の書き取りで紙に書いていたから、紙の製法はもう実在していると思っていたけど、こんなに本があるとは思わなかった)

 こんなに本があるなら、もっと早く来るべきだった。

 正直、この世界の文明レベルは中世ぐらいだと思い、こんなに本があるとは思わなかった。

 これだけの本があるなら、一日費やしても読むべきだ。

 異世界の歴史、風習、文化、地理、魔物の生態等々、知っていても損はない。

「今日は取りあえず、ここら辺近くの地形と魔物の生息地域を調べておこう」

 文字は書き取りで読めるくらいには分かるようになっている。

 なので、後は根気よく探すだけだ。

(マイちゃん達を誘っておけばよかったかな? でも、何か用事がありそうだったしな)

 なんとなくだが、そう感じた。

 マイちゃんとユエは午後は何をするのかと訊いたら「ちょっとね。用事があるから」と言ってどこかに行ってしまった。

 椎名さんは昼食を食べ終えると、すぐにどこかに行ってしまった。

 そんな訳で、僕は一人でここに来た。

「さてと、愚痴っても始まらないから探すか」

 棚に置いてある本を一つ一つ確認しながら、僕はお目当ての本を探す。

 探す事数十分。

 ようやく、お目当ての本を見つける事が出来た。

 王都周辺の地図と魔物生息地を記した本だ。

 まずは、地図を見る事にした。

「う〜ん、これは・・・・・・」

 地図を開いて見たが、すっごい大まかに書かれていた。

 僕達が居た世界にあった地図に比べたら、かなり悪い。

 何せ、書かれているのは王都の名前と主要都市の名前に、それらを結ぶ街道と森くらいしか書かれていない。

「地図なら、ここに山があるとか坂があるとか、書いてあるものじゃないのか?」

 そう思えるくらい酷い出来だ。

「これじゃあ、あまり参考にならないな」

 僕は溜め息を吐いた。地図を閉じて、次に読む本に手を伸ばす。

「せめて、ここらへんに出る魔物がどんななのか調べないと」

 本を開きページを捲っていると。

「あら、こんな所で何をしているのかしら?」

 横から女性の声が聞こえたので、顔を向けるとそこにはミルチャさんが居た。

「あ、どうも」

 会釈すると、向こうも軽く頭を下げてくれた。

「えっと、お名前はイノータ様でしたね?」

「はい、そうです。でも、様はいりませんよ。そんなに偉い身分ではないので」

「ですが、王国ではあなた方を食客で迎える事にしています」

「あくまでも食客でしょう? なら、別に様はつけなくてもいいですよ。食客なんて働きがないとただの居候ですから」

 食客と聞くとカッコよく聞こえるけど、実際は居候に過ぎない。

 なので、謙虚に慎ましく生活しないといけない。

「はぁ、貴方がそう言うのでしたら良いのですが」

「それでお願いします」

「ところで何をご覧になっているのですか?」

「ここら辺に出る魔物の生態を知ろうと思いまして」

 僕は今見ている本を見せる。

「ああ、そういえば明日でしたね。近くの森で魔物狩りに行くのは」

「ええ、なので。どんな魔物が居るか知っておこうと思いまして」

「それで一人でここに来たのですか? よく本を探せましたね」

「ええ、ちょっと探すのに時間が掛かりました」

 本当の事を言うと探すの大変だった。

 タイトルの順番通りに並んでないので、一つ一つ読んでようやく見つけた。

(頼むから、借りた人、返すときは元に置いていた所に戻してよ。それとここの管理する人、ちゃんと整理しないと駄目だろう)

 と思うが、この人に言っても無駄なのは分かっているので言わない。

「流石ですね、下調べをしっかりするなんて、軍師の職業を得ているだけはありますね」

「正直、そんな職業をもらっても、今の所何の恩恵もないので有難味が湧きません」

「そうですか。その内、何かあるかもしれませんよ」

 クスクスと笑いながら、僕の隣に座る。

「えっ⁉ あ、あの」

「私も知識として、ここら辺の魔物について色々知っていますので、教えてあげます」

「い、いいですよ。こうして本があるので、教えてくれなくても」

「まぁ、そう言わないの」

 ミルチャさんは体を寄せて来た。

 それにより、ミルチャさんの使っている香水の匂いが僕の鼻を刺激する。

(おおおっ⁉ こ、この香りは……)

 女性の甘い香りと香水の香りが混ざり、その香りを嗅いでいると、何か幸せになりそうだ。

 さらに胸が僕の肘に当たる。

「あ、あの、む、胸が、あ、当たっているんですけど……」

「あら、案外初心なのね」

 そう言って、ミルチャさんはさらに胸を押し付けてくる。

「ち、ちょっと、そ、その、離れてください」

「いいじゃない、私が知っている事を教えるだけなんだから」

 その後、僕はミルチャさんに色々と教えてもらった。

 終わると、僕はぼーっとしながら図書室から出て行く。

 ミルチャさんとは、部屋の前で別れた。

 自分の部屋へと歩きながら思った。

 胸って本当に柔らかいんだなと。

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