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転移したら賢者、転生して魔王の息子になりました。  作者: 雪国竜
第2章

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閑話 別れ

 西園寺視点。 


 警察の聴取を終えた俺が家へ帰ってみたが、誰もいない。


 両親は仕事中なのだから当然だ。


「ニャー」


 聞き慣れた鳴き声に視線を落とすと、高校入学前から飼っていた猫が足元にいた。


「ただいま」


 猫を抱き上げ、顎の下を撫でる。


 ようやく帰って来られた。


 そう実感しながら、俺は猫を抱えたまま自室へ向かった。


 俺たちが元の世界へ戻ってから数か月が過ぎた。


 その間にも色々と面倒事はあった。


 警察の事情聴取を受けたり、病院で人間ドックや精密検査を受けたり。


 三年近く行方不明だったのだから当然の対応だろう。


 検査結果は全員異常なし。


 それは予想どおりだったのだが、面倒な事が起こった。


 それは宗教団体やマスコミだった。


 どこから聞きつけたのか、俺たちが魔法を使えるという噂を知っていたらしく。


『あなたは神を信じますか?』


 などと聞いてきたのだ。


 後で聞いた話だが、皆笑いを堪えるのに苦労したらしい。


 俺の家が出版社や報道関係に圧力をかけたこともあり、マスコミも深追いをやめた。


 やがて騒ぎは落ち着き、学校側も俺たちの処遇を決定した。


 年齢だけなら全員成人している。


 だが高校教育を最後まで受けていないことを考慮し、特別カリキュラムを組んだうえで復学できることになった。


 もちろん、そのまま卒業したい者もいる。


 そういう生徒には高校卒業資格を与え、大学への進学を認める方針だった。


 結果として、クラスの大半は高校へ戻ることを選んだ。


 その一方で、卒業証明書を受け取り大学へ進んだ者もいる。


 大学には行かず、自分の好きな道を選んだ者もいた。


 そして、その中には真田、張、村松の三人も含まれていた。


 卒業証明書を受け取ってから数日後の夜。


 俺は学校の屋上に来ていた。


 肝試しをするためではない。


 呼び出されたのだ。


 ある三人に。


 鍵の掛かっていない扉を開けると、そこには見覚えのある魔法陣が浮かんでいた。


 俺たちが帰還した時に現れたものと同じだ。


 その周囲には真田、張、村松の姿があった。


「急に呼び出して、こんなところで何の用だ?」


 三人に問いかけながらも、理由はなんとなく察していた。


 だが三人は何も答えない。


 俺は肩を竦めた。


「……あっちの世界へ帰るのか?」


 三人は無言のまま頷いた。


「だが、もう猪田はいないぞ」


 あいつは死んだ。


 死体こそ見つからなかったが、あの状況で生きているとは思えない。


「それでも行くのか?」


「……うん。そのために色々片付けてきたから」


「そうだな。家族にも別れは告げてきた」


「あたしも」


 なるほど。


 だから三人は、帰ってきたのか。


 家族へ別れを告げるために。


 この世界のしがらみを整理するために。


 真田は家族に別れ、張は家業を家族へ託した。


 村松も実家の仕事を弟へ引き継いでいる。


「それで、なんで俺だけ呼んだ?」


「西園寺なら皆を納得させられるだろう?」


「私たちが内緒で準備してたこともね」


「その魔法陣、一度きりなのか?」


「こっちの世界は魔素が少なすぎるから。一回使ったら次に起動できるのは数十年後らしい」


 真田が苦笑しながら答えた。


 こいつら、多分知っていたんだろう。


 クラスの連中が時々、


『またあっちの世界に行きたいな』


 なんて零していたことを。


 まったく。


 面倒な友人を持ったものだ。


「なら、椎名に会ったら伝言を頼む。あいつらの説得くらいは引き受けてやる」


「いいよ。会えたらね」


「なんて伝えるの?」


「『二度と会えないと思うから言うが、お前のことは手の掛かる妹くらいにしか思ってなかった』ってな」


「了解」


「じゃあ、そろそろ行くね」


「達者でな」


「彼女さんとお幸せにー」


 三人は好き勝手なことを言うと、魔法陣が輝き始めた。


 光はどんどん強さを増し、やがて目を開けていられないほどになる。


 しばらくして光が収まった。


 恐る恐る目を開く。


 そこに三人の姿はなかった。


 魔法陣も完全に消え去っている。


「……行ったか」


 まったく。


 最後の後始末まで人任せとは。


 文句の一つも言ってやりたかったが、相手はもうこの世界にはいない。


「さて……クラスの連中になんて説明したものかな」


 そんなことを考えながら、俺は静かな屋上を後にした。

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