閑話 記録
青園視点。
異世界での帰還を果たした私達が着いたのは、転移した時に居た教室だった。
その教室は、無人で使われている様子が無かった。
それでも、生徒達は皆、久しぶりに見る教室を見て懐かしそうに顔を綻ばせていた。
徐々に帰って来た事を実感しだし、涙を流して喜びを分かち合った。
泣き声が聞こえたのか、廊下に歩いてくる音が聞こえてきた。
扉の前に来ると、何か探る音をした後、ガチャリと音を立てた。
直ぐに扉が開かれた。
そうして見えたのは、教頭先生だった。
「・・・・・・え、貴方は青園先生?」
「教頭。お久しぶりです」
前々から頭頂部が寂しかったが、久しぶりに見ると余計に寂しくなったように見えた。
余程苦労されたのだろうなと直ぐに分かった。
その後、わたしが教頭に自分達に何が遭ったのかを話した。
そして、何人の生徒も犠牲になった事を。
話を聞いた教頭はすぐに、生徒達の父兄に伝えた。
その後の事は、生徒達の父兄が学校に駆け込んできた。
自分達の子の無事を確認し、抱き合い喜んでいた。
中には、自分の子が居ない事を知り、涙にくれる親も居た。
その親達には、西園寺君が遺髪を渡していく。
遺髪を受け取った母親は、その場で崩れ落ちた。
「そんな・・・・・・そんな・・・・・・」
震える指先で、差し出された髪を胸に抱く。
「うちの子が、死んだなんて・・・・・・」
周囲からも嗚咽が漏れる。
私も異世界では何度も死を見てきた。
けれど。
こうして親が泣く姿を見る方が、ずっと辛かった。
異世界では生き残る事に必死だった。
誰もが前を向くしかなかった。
だが日本では違う。
失ったものと向き合わなければならない。
私達は帰って来てしまったのだから。
その時だった。
慌ただしい足音が廊下から聞こえた。
「失礼します!」
スーツ姿の男達が教室へ入ってくる。
警察だった。
保護者達がざわつく。
男性の一人が私へ手帳を見せた。
「警視庁の者です。青園先生で間違いありませんね?」
「はい」
「少しお話を聞かせて頂けますか」
予想していた。
生徒と教師が集団で失踪し、突然帰って来た。
しかも行方不明者まで出ている。
警察が来ないはずがない。
私は小さく頷いた。
数時間後。
事情聴取は難航していた。
「異世界に召喚された、と?」
「はい」
「魔法が存在する世界ですか?」
「そうなります」
聴取してくれている刑事が困った顔をする。
無理もない。
逆の立場なら私も信じない。
だが問題は別にあった。
「生徒達も全員同じ証言をしていますよね」
「はい。しかも細部まで一致しています」
刑事が頭を抱える。
生徒達は口裏合わせをしていない。
していたとしても不可能なくらい証言が一致している。
そして、異世界で習得した能力は帰還後も消えていなかった。
それが決定打だった。
生徒達は保護者と共に帰宅していった。
だが私は帰れなかった。
職員室で一人、書類を書いていた。
失踪期間。
死亡生徒名簿。
経緯報告。
書く物はいくらでもある。
まず、書くのは死亡した生徒の名簿だった。
北畠智和。
長坂勝介。
跡部信茂。
大桃将也。
柳楽利明。
青山達也。
水島静香。
日野義道。
猪田信康。
天城信成。
其処まで名前を書いていて、目から涙が流れてきた。
「・・・・・・すまない。すまない。皆・・・・・・」
生徒を守る事が出来ず、生き残っている自分が恥ずかしかった。
先生の立場であるのに守る事が出来なかった
特に猪田については、完全に見落としだ。
前々から、天城が椎名に好意を持っていた事は気付いていた。
その椎名が猪田の事が好きだという事も。
学生の恋愛なので、私が口だす事ではないと思い、相談されたら乗りはするが、見守るだけにした。
結果、天城の嫉妬により猪田は殺害した。
天城も処刑される事になった。
「生徒を守る事も出来ず、まして生徒を自主性を重んじた事で、殺人まで犯すなんて。私はもう、先生を続けられない・・・・・・」
その後、諸々の後始末を終えると、私は辞表を出して学校を後にした。




