表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三華繚乱  作者: 南優華
第六章
85/378

第六章 曹華伝二十七 軍議本番

 斥候の報告が終わると、大広間には短い沈黙が落ちた。油の灯が揺れ、卓上に広げられた地図の線と砦の印を赤く照らし出す。誰もが次に発せられる言葉を待っていた。沈黙を破ったのは、天鳳将軍であった。

「――まずは、私から案を示そう」

静かな声だったが、場の視線が一斉に彼へ集まる。天鳳は地図の一角、金城国国境を成す川の浅瀬に指を置いた。

「金城国が守りを固めているのは、この北の谷筋と南の関所道だ。正面から挑めば、多大な損害は避けられん」

指が滑り、線を描く。

「ゆえに、川沿いに軍を進め、兵を二手に分ける。本軍は川を渡り正面の砦を牽制。別働隊は谷を抜け、背後を突く。砦が落ちれば、国境線は突破できる」

簡潔で、隙のない算段。

兵たちの脳裏に、戦の形がはっきりと浮かび上がる。

「……なるほど」

麗月将軍が細い指で地図をなぞり、冷ややかに口角を上げた。

「だが、その策は斥候の報告に依りすぎてはいないか? 金城国が見せている守りが陽動である可能性もある。別働隊を谷に入れれば、待ち伏せの餌食になりかねぬ」

柔らかな声音。だが、その中身は刃のように鋭い。天鳳は微笑を崩さず、即座に応じた。

「承知している。ゆえに別働隊には精鋭を用いる。奇襲を受けても持ちこたえられる戦力だ」

一拍、間を置く。

「……もっとも、麗月将軍の軍であれば、なお盤石となろう」

空気が張り詰めた。それは剣を交える直前の、静かな探り合いに似ていた。麗月は一瞬だけ目を細め、やがて視線を曹華へ向けた。

「……曹華副隊長。そなたはどう見る」

唐突な指名。曹華は即座に背筋を正した。

「はい」

声は澄んでいた。

「確かに谷は危険です。しかし、だからこそ突破できれば決定的な戦果となります。天鳳将軍の策は、理にかなっていると存じます」

麗月の視線が、言葉の奥を測るように曹華を射抜く。

そのときだった。

「同意します」

白玲が、静かに口を開いた。

「曹華副隊長の言葉どおり。ただし、谷を抜くには迅速な判断力と、迷いなき指揮が必要です。我が軍であれば、遂行可能でしょう」

礼を失わぬ声音。

だが、その瞳は真っ直ぐに曹華を捉えていた。

(……試されている)

曹華は即座に悟る。

「――承知しました」

凛と応じ、視線を逸らさない。笑みもなく、言葉も少ない。だが、確かに火花は散っていた。


 やがて議論が一巡し、天鳳将軍が低く咳払いをして場を収めた。

「……よかろう。最終的な決断は、私が下す」

その一言で、大広間の空気はさらに引き締まる。

蒼龍国五将軍筆頭――天鳳。

その命令は絶対であり、逆らえば軍律違反となる。誰もが、その重みを知っていた。天鳳は地図に手を置き、ゆっくりと告げた。

「別働隊の任務は――麗月将軍の部隊に任せる」

小さな動揺が走る。

危険の大きい役を、あえて麗月に託したのだ。

「ただし、指揮官の人選は麗月将軍に一任する。そなたの軍の強みを、最も活かせる采配を望む」

一瞬、麗月の目が細くなる。だがすぐに、冷徹な笑みを浮かべた。

「……承知いたしました。天鳳将軍のご命令とあらば」

従順さと同時に、揺るがぬ自尊心が滲む声だった。

天鳳はさらに続ける。

「先ほどの曹華、そして白玲の意見。あれは見事であった。若き副官が恐れずに意見を述べ、冷静に状況を見極める――その胆力は評価に値する」

視線を麗月へ向ける。

「麗月将軍。そなたの副も、実に頼もしい」

公平な称賛。だがその裏には、明確な意図があった。

――曹華と白玲。互いを意識させ、競わせることで、戦の緊張を高める。

「よって、明日より我らは二手に分かれる。本軍は川を渡り正面を牽制。麗月将軍の軍は谷を抜け、砦を背後より突く。それぞれの役目を全うせよ」

天鳳将軍の声が大広間に響く。兵たちは一斉に頭を垂れた。

こうして軍議は結ばれた。

――麗月の冷徹。

――天鳳の策謀。

――曹華と白玲の火花。

すべてが絡み合い、

翌日の進軍へと、不可逆の形で収束していくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

作品、続きに興味を持っていただけたら、☆をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ