第五章 白華・興華伝二十六 新たな取り調べ
拘留されてから一週間が過ぎた。
白華と興華の時は、氷のように冷たく、鉄鎖のように重い。
朝、昼、夜──兵士が運んでくる食事は質素だが、決して腐敗しているわけではなかった。硬い黒麦のパンと、塩で漬けられた干肉、薄い野菜の汁。白華は箸をとりながら、無意識に味や調理法を吟味する。
(塩の質が良い……北の塩田から運ばれているものね。野菜は干し貯蔵、保存状態は良好……白陵国の兵站は、やはり強固に築かれている)
その細やかな観察を、白華は決して口に出さない。だが、兵の胃袋がしっかり管理されている限り、この国の軍は容易に崩れはしない。敵か味方かを見極めるためにも、情報は一つ残らず拾っておく必要があった。
用を足す時も、彼らは逃走の兆しがないかと鋭く見張る。興華には常に兵士が付き添い、白華の際は氷雨中将が自ら監視役を買って出た。冷たい瞳に見下ろされるその時間は、白華でさえも心を張り詰めねばならなかった。
「姉さん……」
ある晩、興華が小さく呟いた。
しかしすぐさま、扉の外から怒声が飛ぶ。
「私語は慎め!」
興華は悔しげに肩を震わせた。拳を膝の上で固く握り、爪が食い込むほどに力を込める。白華は弟の横顔を横目で見つめ、わずかに首を振る。言葉はいらない──その仕草一つで興華は我慢を呑み込んだ。
三日に一度の入浴でさえも、安らぎはなかった。桶に張られた湯に浸かるひととき、氷雨中将の鋭い視線が突き刺さる。白華は心中で微笑んだ。
(私をここまで監視し続ける……やはり彼らは私たちの正体を恐れている。ならば、この緊張は必ず揺さぶれる)
---
八日目の朝。
詰め所全体が妙に慌ただしかった。兵士の靴音が廊下を行き交い、鎧の音が重なり合う。低い声で交わされる命令が絶えず響き、普段は冷たい石牢の空気がざわめきに震えていた。
白華は静かに目を伏せ、深く呼吸した。
(来た……ようやく、大物が)
ほどなくして、扉が軋む音とともに開いた。彗天中将と氷雨中将が並んで入ってくる。二人の顔には、これまでの冷徹さに加え、緊張と責任の重さがにじんでいた。
「これより──雪嶺大将が直々に取り調べを行う」
その言葉と同時に、兵士たちが一斉に背筋を正す音が聞こえた。詰め所に張り詰めた緊張がさらに強まり、空気は凍りつくように冷たくなった。
白華は薄く唇を上げた。冷笑でも微笑でもない、不思議な気配を纏う笑み。
(やはり来た……ここからが、私の賭けの本番)
興華はその横顔を見て、息を呑んだ。
(雪嶺将軍……白陵国軍を束ねる大将。その人物が、俺たちを裁く……姉さん、本当に大丈夫なのか……?)
興華の胸は恐怖と期待で締め付けられるように高鳴っていた。自分が鍛えた霊力をもってしても、将軍のような存在に抗えるのか。だが姉の眼差しは氷のように澄み、揺らぎひとつ見せない。
「雪嶺大将はすぐに到着する。覚悟しておけ」
彗天が吐き捨てるように告げ、兵士に命じて再び扉を閉ざした。
白華は静かに瞼を閉じ、薄暗い部屋で心を鎮めた。
──勝負はこれから。




