表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三華繚乱  作者: 南優華
第五章
57/316

第五章弐 教主・玄冥導師

蒼龍国そうりゅうこくの北部、旧柏林国はくりんこくの地にある天脊山てんせきざんの麓。黒龍宗こくりゅうしゅうの本拠地は、大陸の生命線たる龍脈りゅうみゃく の根源に近い、巨大な仙道結界に守られていた。

その中心部で、最高指導者である玄冥道師げんみょうどうし は、静かに瞑想に耽っていた。数百年の時を生きる彼の心は、悠久の時の流れと、二十六年前の失敗という一点の曇りに支配されていた。

「悲願は、すんでのところで頓挫した……」

二十六年前、黒龍宗は蒼龍国を動かし、柏林国に攻め入った。彼らの計算では、混乱の中で王族の**「うつわ」を確保し、組織の悲願である大地の気(龍脈)の完全支配**を達成できるはずだった。

だが、現実は違った。当時の王と王妃は、捕らえられる前に自害。そして、最も重要な鍵である王子は、王宮陥落の寸前に逃亡済みだった。


玄冥道師は、彼らの手先である当時の皇太子とその筆頭護衛官――後の牙們がもん――を使って、逃げる王子を追い詰めた。牙們は国境付近で王子に追いついたものの、彼の決死の反撃に遭い、王子を再び逃亡させてしまった。

その後、王子は大陸のどこかへ身を潜め、完全に行方知れずとなった。龍脈の鍵を失った黒龍宗は、手に入れた拠点と蒼龍国という強大な軍事力を持ちながらも、「世界の支配」という最後の工程を二十六年間、留め置かれていた。玄冥道師にとって、この空白の時は、全てが計画通りに進むはずだった未来を奪われた、許しがたい停滞だった。


そして、二十年の長き沈黙の後、ついにその時が来た。

その数年前、黒龍宗の情報網は、行方知れずだった王子が、翠林国すいりんこくの山間の小さな村に、家族と共に武官として潜伏しているという、決定的な情報を掴んだ。

玄冥道師げんみょうどうしは逸る内心を抑えつつ、蒼龍国そうりゅうこくの部隊を派遣する算段をつけた。最優先事項は、王子の確保、すなわち龍脈の「うつわ」の確保である。彼は、王子に対する個人的な憎悪を利用するため、黒龍宗の影響下にある牙們がもん将軍を派遣する段取りをつけた。王子を確保する手筈で、最悪、その血を引く子どもでも確保する計画だった。


だが、ここでも予想外のことが起こった。

派遣された牙們の王子に対する憎悪が想像以上に凄まじく、彼は確保よりも復讐と私怨に走った。さらに、最も恐れていた事態、蒼龍国の五将軍筆頭である天鳳将軍が襲撃に参加したのだ。

その結果、牙們は天鳳に先を越され、王子を確保することに失敗し、王子は天鳳に討たれてしまう。さらに、追い詰めた子どもたちも、激流の川に飛び込んで行方知れずとなった。

二度目の計画も、牙們の制御不能な憎悪と、天鳳の冷徹な介入という二重の誤算により、完全に失敗に終わった。黒龍宗の悲願は、再び目前で達成されなかった。

玄冥道師は、この二重の失敗と、王族の血筋を追い続けることになった歯がゆい思いを、奥歯を噛みしめるような静かな怒りとして受け止めた。王子の血筋が完全に途絶えた可能性は低い。今度こそ、天鳳将軍の動きと、生き残った子どもの行方を、慎重に見極める必要があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ