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三華繚乱  作者: 南優華
第四章 一年後
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第四章 白華・興華伝十二 知恵と力の深化

玄翁から突きつけられた問い――

「……曹華を、殺すのか?」


その残酷な一言から、一年が経過していた。

あの日の衝撃は今もなお、白華と興華の胸に鋭い棘のように突き刺さり、消えることなく残っていた。

だがその棘は、彼らを立ち止まらせるのではなく、むしろ修行に打ち込むための原動力となっていた。

「いつか再会した時、妹と敵として刃を交える覚悟が要るのだ」――その思いが、二人を一層成長させていた。



---


白華(22歳):知恵と「女」という武器


22歳となった白華は、冷静な知性に加えて、成熟した大人の女性としての気配を纏うようになっていた。

玄翁のもとでの修行は、武術よりも知識や洞察に重きを置かれ、彼女は膨大な学びを吸収していった。


地理・歴史・勢力図――。

大陸全体を俯瞰する視野を持つことは、姉弟にとって必須だった。黒龍宗がどの国にどれほど浸透しているのか、蒼龍国の五将軍がどう権力を握っているのか。白華は、情報を整理し、地図に書き込み、未来の戦略を思案することを習慣にしていた。


そして、玄翁は時に厳しく、こう言い放った。

「白華よ。女であることを嘆くな。武に勝てぬならば、女としての姿をも武器とせよ」


彼は、女としての魅力を軽んじることなく、それを人心掌握の手段、交渉の切り札として活かす術を教えた。

相手の目の動きから心の揺れを読み取る洞察、声の調子や立ち居振る舞いで周囲の空気を支配する技法。

白華は、その学びに嫌悪を覚えながらも、いざという時に妹や弟を守れるなら、ためらわず使う覚悟を胸に刻んでいた。


さらに、彼女の得意とする認識阻害の道術も進化していた。

小規模な隠蔽に留まっていた術は、今では山中の複雑な地形や霧の中でも長時間維持できるほど洗練されている。

彼女は「知恵の盾」として、敵の目を欺き、興華を導く存在へと確実に歩を進めていた。



---


興華(16歳):仙術と肉体の深化


一方、16歳になった興華は、少年のあどけなさを残しながらも、確かな成長を遂げていた。

背は伸び、筋肉の線もはっきりと浮かび始めている。白華の後ろに立つ姿は、幼さよりも守る者としての気配を帯びてきていた。


仙術の修練は、さらに深化していた。

かつては感情に左右され暴発する危うさを持っていた霊力れいりょくは、今では怒りや高揚に頼らずとも自然に巡らせることができる。呼吸を整えるだけで霊力は全身に広がり、岩を砕く膂力や断崖を駆け上がる脚力を、自在に引き出せるようになっていた。


それは、彼が「千年に一度の器」と呼ばれる所以であり、玄翁すら密かに舌を巻く才だった。

しかし、興華は驕らない。

彼の胸にあるのは、ただ一つ――

「曹華姉さんを取り戻す」

「白華姉さんを守り抜く」

その誓いだけが、彼を突き動かしていた。


修行を終えた夜、湖畔の静けさの中で一人鍛錬を重ねる彼の姿を、白華は幾度も目にした。

血が滲もうとも剣を振るい、疲労で倒れても立ち上がる。

その背に宿る執念は、やがて大陸を揺るがす大きな力へと変わっていく兆しを見せていた。



---


姉弟の絆と未来への決意


あの日、思念の術によって曹華の姿を垣間見たことは、二人の心に新たな決意を生んでいた。

妹は敵の将軍の傍らで武を磨き、父の仇の懐に生きている。

その現実を前にしてなお、二人は迷わなかった。


「必ず再会する。その時、どんな運命が待っていようとも」


白華は、知恵で道を切り拓く盾として。

興華は、力で姉を護る矛として。


二人は互いの存在を支えにしながら、修行の終わりを待ち続けていた。

やがて訪れる再会と、その先に待つ血塗られた運命を胸に刻みつつ――。

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