表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三華繚乱  作者: 南優華
第三章 成長の序曲
41/403

第三章 曹華伝十二 信頼の価値

 天鳳将軍が、黒龍宗の存在と村襲撃の真実を語り、私の決意を受け入れてから幾日かが過ぎた。

その日、執務を終えた将軍は、いつものように筆を置き、ふと私を見つめて問いを投げかけた。

「……曹華。この私を、信頼しているか?」

鋭利な刃のような問いだった。

目の前に座るこの男は、私に武と知略を与え、生き延びる道を示した恩人であり――同時に、私の父を討った仇でもある。

私は即答せず、天鳳将軍の瞳をまっすぐに見返した。

「……正直に申し上げますと、複雑な心境です」

彼は合理を重んじる男。飾った言葉は、かえって私の"価値"を損なう。だから私は、正直な答えを選んだ。

「ですが、将軍。あなたは村への襲撃の真実を隠さず語り、私が命を狙うかもしれぬと知りながらも傍に置き、武と知略を惜しみなく授けてくださいました」

私は茶器を静かに卓へと戻した。

「そして何より、あなたは、この国と大陸を覆う闇を討つという壮大な計画において、一切ぶれず、私情に流されることなく進んでおられる。その不動の姿勢こそ、私にとって最大の価値であり――信頼に値するものです」

脳裏には、父を殺した憎しみだけに囚われ、狂気に堕ちた牙們の姿が浮かぶ。感情に呑まれた将軍と、冷徹に未来を見据える将軍。両者の差は、天と地ほどもあった。

私は、恩人でもあり仇でもあるこの男を、情ではなく「合理的な評価」に基づいて信頼すると告げた。

天鳳将軍は私の答えに満足げに頷き、低く言い放った。

「よろしい。その信頼があれば十分だ、曹華」

彼の瞳には、私が「優秀な駒」として計画を狂わせぬことへの確信が宿っていた。


---


 だが次の瞬間、将軍は躊躇なく、私の最も深い場所へ刃を差し込んできた。

「ところで曹華。……お前の姉と弟の行方は、知っているか?」

胸の奥に押し込めていた蓋が、音を立てて壊れた。

手から茶器が滑り落ち、卓にぶつかって澄んだ音を響かせる。私は思わず口に含んでいた茶を噴き出し、激しく咳き込んだ。

「な……っ、ごほっ、ごほっ……知らないです! 天鳳将軍、知っているんですか!? ……教えてください!」

声は震え、理性も体裁も消し飛んでいた。

五年間、父の仇の前で決して見せまいと抑えてきた「姉」と「弟」への想いが、堰を切ったように溢れ出したのだ。


 天鳳将軍は、そんな私をしばし無言で眺めていた。そして、ふっと口元を緩める。苦笑とも、冷笑とも取れるその表情は、整った美貌に妙な陰を落とした。

「案ずるな……。まさかお前がここまで取り乱すとはな。やはり、あの夜の家族の別れは、武や知略よりも深く心に刻まれているようだ」

――やはり、曹華の弱点はここか。

将軍の瞳には、冷徹な光が宿っていた。駒としての私の価値を認める一方で、最も突き崩しやすい急所を見定める、狩人の眼差しだった。

 私は必死に呼吸を整えながら、握りしめた拳を膝の上で震わせた。取り乱した己の姿を見抜かれ、弱点として刻まれたことは、屈辱以外の何ものでもなかった。だが同時に、胸の奥でかすかな希望が灯っていた。

天鳳将軍が続ける。

「確たる情報は無い。だが牙們が後日、川の沿岸を徹底的に探させた。王族の血を絶やすためにな。しかし――報告では、二人の遺体は発見されていない」

私は息を呑んだ。

「……遺体が見つからない?」

「激流に呑まれた者は、そのまま果てしなく流され、姿を残さぬこともある。だが同時に、生きている可能性も否定できぬ、ということだ」

彼の言葉は、毒であり、薬だった。真実は闇の中だ。だが、「生きているかもしれない」という希望は、胸の奥に小さな火をともした。

 それこそが、私が蒼龍国で生き続ける理由。天鳳将軍の駒として戦う理由であり――やがて再び家族と相まみえるための、唯一の光となった。

読んでいただきありがとうございます。

面白い。期待できそう。など、

少しでも感じていただけたら☆をください。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ