第三章 白華・興華伝十一 再会までの試練
動揺を隠せぬ白華と興華に、玄翁は静かに、だが容赦なく問いを投げかけた。
「白華、興華。そなたらは妹であり、姉である曹華と再会したいと強く願っておるな。では問おう――もし曹華が蒼龍国に操られていたとしたら、そなたらはどうするのじゃ? …曹華を、討つのか?」
冷水を浴びせられたように、二人の胸が凍りついた。
白華にとって最愛の妹。興華にとって最も慕う姉。そんな存在を、自らの手で殺す――その想像すら、残酷すぎて頭が拒絶する。
白華は唇を震わせ、言葉が出なかった。
興華は喉の奥から絞り出すように、かすれた声で答えた。
「そ、そんなこと……僕にはできません……!」
だが玄翁は責めることなく、静かに首を振った。
「では問う。もし曹華が蒼龍国の悪しき仙術に操られ、その霊力でそなたらを、ひいては大陸を滅ぼすための道具にされていたら……そなたらはどうする? 肉親の情と世界の命運、どちらを選ぶ?」
白華は歯を食いしばった。覚悟の中で「戦う」という選択までは受け入れていた。だが「殺す」となると、理性が警鐘を鳴らし、感情が必死に拒絶する。妹の命を奪うことなど、到底許せぬ。
しかし玄翁の問いは逃げ場を与えない。曹華が完全に敵となったとき、果たして自分は……。
「……わかりません。今は……私たちには、答えを出せません」
白華も興華も、うつむき、沈黙に縋るしかなかった。
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玄翁は二人の姿を見て、むしろ満足そうに頷いた。
「それでよい。今は答えを出す必要はない。ただ、この問いを胸に刻み、修行に励むのじゃ。いずれその時が来たとき、己の答えを示せばよい」
玄翁はゆるやかに立ち上がり、湖のきらめく水面を指し示した。
「そなたらが十分に力をつけたとき、儂は山を降りる二つの道を示そう。一つは蒼龍国へ向かい、曹華を救い出す道。もう一つは、北の大国――白陵国へ向かう道じゃ」
白華は息をのんだ。蒼龍国に行くのは当然だと思っていた。だが、なぜ白陵国が。
玄翁は静かに答えた。
「白陵国は、大陸の北半分を統一した強大な国でありながら、黒龍宗の存在を最も警戒しておる国じゃ。曹華を救うことは、そなたらにとって大切な使命。だが、それだけでは足りぬ。真の敵は黒龍宗。その巨悪を討つには、蒼龍国を越え、白陵国の力すら取り込む必要があるやもしれぬ」
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玄翁が示したのは、肉親を救う情の道と、大陸を救う知略の道――二つの運命の岐路だった。
白華と興華の修行は、この瞬間から新たな目標を持ち、さらに苛烈さを増していく。
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