第三章 白華・興華伝十一 再会までの試練
動揺を隠せぬ白華と興華に、玄翁は静かに、しかし一切の情を交えず問いを投げかけた。
「白華、興華。そなたらは妹であり、姉である曹華と再会したいと、心の底から願っておるな」
二人は無言で頷いた。玄翁はその様子を確かめるように、わずかに目を細める。
「では、問おう――もし曹華が蒼龍国の悪しき仙術に操られていたとしたら、そなたらはどうする?」
一拍。
「……曹華を、殺すのか?」
冷水を浴びせられたように、二人の胸が凍りついた。
白華にとっては、命よりも大切な妹。
興華にとっては、幼い頃から心の支えであり続けた姉。
その存在を、自らの手で殺す――その想像だけで、思考が拒絶反応を起こす。白華は唇を震わせたが、言葉が出てこない。理性は問いを理解しているのに、感情が追いつかなかった。
興華は、喉の奥から絞り出すように声を上げる。
「……そんなこと……そんなこと、僕にはできません……!」
だが玄翁は、責めることも、嘲ることもせず、静かに首を振った。
「では、さらに問う」
声音は変わらない。
「もし曹華が操られ、その力によって、そなたらを――いや、大陸そのものを滅ぼすための“器”にされていたとしたら?」
白華の背筋を、冷たいものが走った。
「肉親の情と、世界の命運。その二つが真正面からぶつかったとき、そなたらはどちらを選ぶ?」
逃げ場のない問いだった。
白華は歯を食いしばり、ようやく口を開く。
「……わかりません」
声は低く、かすれている。
「今は……私たちには、まだ答えを出せません」
興華も、うつむいたまま何も言えなかった。
沈黙の中、玄翁はふっと息を吐き、二人を見下ろす。
その表情は、叱責でも落胆でもなく――むしろ、どこか満足げだった。
「それでよい」
玄翁は、穏やかに、しかしはっきりと言った。
「今、この場で答えを出せるようなら、そなたらはまだ未熟じゃ。この問いを胸に刻み、修行に励むがよい。いずれ、その時が来たなら――己の答えを示せばよい」
そう言って、玄翁は立ち上がり、湖のきらめく水面を指し示した。
「そなたらが十分に力をつけたとき、儂は“山を降りる二つの道”を示そう」
白華と興華は、息をのんだ。
「一つは、蒼龍国へ向かい、曹華を救い出す道。もう一つは――北の大国、白陵国へ向かう道じゃ」
白華の胸に、疑問が湧き上がる。
「……なぜ、白陵国が……?」
玄翁は静かに答えた。
「白陵国は、大陸北半分を統べる強国でありながら、
黒龍宗の存在を最も警戒しておる国じゃ」
言葉を選ぶように続ける。
「曹華を救うことは、そなたらにとって何より大切な使命。だが、それだけでは足りぬ」
玄翁の瞳が、鋭く光った。
「真の敵は黒龍宗。その巨悪を討つには、蒼龍国を越え、白陵国の力すら取り込む必要があるやもしれぬ」
玄翁が示したのは、二つの道。肉親を救うための、情の道。大陸を救うための、知と戦略の道。どちらか一方では足りない。どちらを選ぶかは、まだ決める時ではない。白華と興華の修行は、この瞬間から新たな意味を帯び、より苛烈で、より深いものへと変わっていく。
再会は、目的ではない。それは――試練の始まりに過ぎないのだから。
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