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三華繚乱  作者: 南優華
第二章
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第二章 曹華伝五 戦友の助言

天鳳将軍の「実力で黙らせろ」という言葉――それは剣による反論を求める教えだった。だが、宮廷の女官たちには剣は通用しなかった。私はその新しい壁の前で、将軍の冷徹な合理性とは別の温度を持つ――訓練場の戦友たちに悩みを打ち明けることにした。


いつもの鍛錬のあと、訓練場の隅で私を囲んだのは、親衛隊の数名だった。ここでは私は女ではなく、純粋に「武人」として見られる。そんな場があること自体が、救いだった。


特に、最初に私に模擬戦で敗れた雷毅らいきは真摯に耳を傾けてくれた。彼も私と同年代で、実直な性格だ。かつて私に敗れたことで嘲笑を受けた過去があるせいか、私の苦境に強い共感を示してくれる。


「曹華。宮廷の女どもの噂は、耳に入ってるぞ。女官長あたりが裏で糸を引いているんじゃないか」


雷毅は険しい顔つきで言った。そこには、仲間ゆえの毅然とした怒りが滲んでいた。私が不安を口にすると、親衛隊の古参である趙将ちょうしょうが笑って言葉を継いだ。


「将軍様が女の嫉妬ごときで価値を捨てるほど愚かなら――我らはお前の側にいないよ。だが宮廷の女は厄介だ、剣が通じぬ土俵で戦う」


雷毅は真剣な眼差しで続ける。


「お前が将軍様に色仕掛けをしている、って噂を流してるんだろう? なら、真っ向から否定する必要はない。否定は火に油だ。むしろ、お前が将軍の“道具”ではなく“片腕”であることを、見える形で示せ。女官たちが最も恐れるのは、嫉妬ではない。お前が彼の権威の代替ではなく、実務で彼に必要とされる存在になることだ」


雷毅の言葉は、私の「武人としての思考」に新たな視座を与えた。将軍の教えは単に「力」で黙らせよ、ということではない。それは「結果」で黙らせよ――そしてその結果は、宮廷という別の戦場においても通用しなければならない。


趙将も頷き、助言を付け加える。


「具体的にな。公の場で将軍の側に立ち、兵の前で指示を執る。将軍の信用を受けている証拠を、目に見える形で積め。宴席や行事では、無意味に愛想を振りまかず、仕事で差を見せろ。噂は言葉だが、習慣と証拠で粉砕できる。だが、動きは慎重に。愚かな報復は、足下を掬う」


その助言は、私にとって“剣以外の戦術”――言動と行動による立ち回りの具体像を示した。噂を否定して騒ぎを大きくするのではなく、将軍の意志の体現者として振る舞うことで、噂の土台をそぎ落とす。知略は刀と同じくらい鋭利になりうるのだと、雷毅は教えてくれた。


私は深く礼をし、感謝の言葉を述べた。戦友たちの助言は、ただの慰めではなかった。実行可能な戦術であり、私の“価値”を守るための道筋だった。


訓練場を後にする足取りは、少し軽くなった。残された時間は限られている。だが、私はもう一度、剣と知略を併せ持ってこの宮廷という戦場を生き抜く決意を固めていた。

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