表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三華繚乱  作者: 南優華
第一章
2/316

第一章一 三つの華

大陸は未だ統一されず、いくつもの国が覇を競っていた。

まるで古の春秋戦国のごとき群雄割拠の時代――。


終わりの見えぬ戦は各地に荒廃をもたらし、

戦に敗れた兵たちは盗賊や野盗に身を落として山野をさまよった。

人の世は乱れ、正しき道を説く声さえ、戦火の轟きに掻き消されていた。


そんな激動の時代にあって、私たちが暮らす村は、

清らかな流れと、緑深き山々に抱かれた小さな集落だった。

外の喧騒から遠く隔たれ、四季の移ろいだけが静かに訪れる――。

そこには、確かに“平和”と呼べる日々があった。


長姉の白華はその時十六歳。

透き通るような肌に、艶やかな黒髪を持つ美しき娘であった。

村の男たちの憧れの的であり、何より聡明。

難解な書を読み解き、父の文を写すその姿には、

未来の文官、あるいは軍師としての才が、すでに宿っていた。

彼女は、妹と弟の将来を案じながらも、

優しく、時に厳しく、まるで母のように私たちを導いてくれた。


次女の曹華――つまりこの私――は十四歳。

姉とは正反対の、おてんば娘だった。

筆よりも剣を好み、父の目を盗んでは木刀を振るう。

稽古の相手は、いつも末弟の興華。


裏庭での“チャンバラごっこ”では、

私はすぐに彼を打ち負かして泣かせてしまい、

決まって白華に怒られたものだった。


「また興華をいじめたでしょう、曹華!」

――叱られても、私は笑っていた。

だって、弟の涙よりも、木刀を握る手の感触の方が好きだったから。

あの頃は、ただ強くなりたかった。

何のために、誰のために強くなるのかも分からぬままに。


末弟の興華は十歳。

おとなしく、優しく、そしてよく泣いた。

けれど、誰よりも心がまっすぐで、

その瞳の奥には、幼いながらも不思議な光があった。

後に彼が、姉たちを凌ぐほどの才覚を見せることなど、

この時の私たちは想像もしなかった。


――私たちは、三人でいつも一緒だった。

朝は一緒に山の湧き水を汲み、昼は畑を手伝い、

夜は囲炉裏のそばで、母の作る粥をすすりながら笑い合った。


その平穏な日々が、いつまでも続くと信じていた。

けれど、大陸を覆う暗い影は、

知らぬ間に、この小さな村の山々の向こうにまで忍び寄っていたのだ――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ