第一章一 三つの華
大陸は未だ統一されず、いくつもの国が覇を競っていた。まるで古の春秋戦国のごとき群雄割拠の時代――。終わりの見えぬ戦は各地に荒廃をもたらし、戦に敗れた兵たちは盗賊や野盗に身を落として山野をさまよった。人の世は乱れ、正しき道を説く声さえ、戦火の轟きに掻き消されていた。
そんな激動の時代にあって、私たちが暮らす村は、清らかな流れと、緑深き山々に抱かれた小さな集落だった。外の喧騒から遠く隔たれ、四季の移ろいだけが静かに訪れる――。そこには、確かに“平和”と呼べる日々があった。
長姉の白華はその時十六歳。
透き通るような肌に、艶やかな黒髪を持つ美しき娘であった。村の男たちの憧れの的であり、何より聡明。
難解な書を読み解き、父の文を写すその姿には、未来の文官、あるいは軍師としての才が、すでに宿っていた。彼女は、妹と弟の将来を案じながらも、優しく、時に厳しく、まるで母のように私たちを導いてくれた。
次姉の曹華――つまりこの私――は十四歳。
姉とは正反対の、おてんば娘だった。筆よりも剣を好み、父の目を盗んでは木刀を振るう。稽古の相手は、いつも末弟の興華。裏庭での“チャンバラごっこ”では、私はすぐに彼を打ち負かして泣かせてしまい、決まって白華に怒られたものだった。
「また興華をいじめたでしょう、曹華!」
――叱られても私は笑っていた。だって、弟の涙よりも、木刀を握る手の感触の方が好きだったから。あの頃は、ただ強くなりたかった。何のために、誰のために強くなるのかも分からぬままに。
末弟の興華は十歳。
おとなしく、優しく、そしてよく泣いた。けれど、誰よりも心がまっすぐで、その瞳の奥には、幼いながらも不思議な光があった。後に彼が、姉たちを凌ぐほどの才覚を見せることなど、この時の私たちは想像もしなかった。
――私たちは、三人でいつも一緒だった。朝は一緒に山の湧き水を汲み、昼は畑を手伝い、夜は囲炉裏のそばで、母の作る粥をすすりながら笑い合った。
その平穏な日々が、いつまでも続くと信じていた。けれど、大陸を覆う暗い影は、知らぬ間に、この小さな村の山々の向こうにまで忍び寄っていたのだ――。
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