表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三華繚乱  作者: 南優華
序章
PR
1/408

プロローグ 残照の女帝

戦火に散り散りになった三つの「華」。

故郷と家族を奪われた少女は、復讐を胸に「紫電」の異名で戦場を駆け巡る。

一人は影となり、一人は光となり、そして一人は道を切り拓く。

遠い日の誓いを胸に、天下統一を成し遂げた女帝が、人生の黄昏に語り始める物語。

「これは、三華が乱世に散り、再び咲き誇るまでの物語――『三華繚乱』」

紫苑国、紫苑城。

 春の陽光は穏やかに石畳をなめ、古城の中庭に黄金の粒子を満たしていた。そこに、一人の老女が静かに座している。白銀の髪を春風に遊ばせ、香り高い茶を口に運ぶその背筋には、今なお一国を統べる帝の威厳が、静かに、だが確かに漂っていた。

 彼女こそ、乱世を終焉させた大陸の統一者――初代皇帝・紫極帝。若き日には「紫電の曹華」と称えられ、剣一振りで数多の戦場を駆けた伝説の女帝である。

 だが、現在のその眼差しは、あまりにも柔和だ。すべてを手に入れ、そして多くを失った者だけが辿り着く、彼岸の静寂を宿していた。

 傍らには、十四歳の曽孫――百合華が寄り添っている。その名に「華」を継ぐ少女は、陽だまりのような無垢な瞳で祖母を見上げた。

「ねえ、曹華おばあさま。お話を聞かせてください。おばあさまがまだ、私くらいの子供だったころのことを」

 老婆は、慈しむように微笑んだ。その唇に浮かぶ笑みは、遠い記憶を愛しむようでもあり、拭いきれぬ切なさを滲ませてもいた。

「そうね……。私があなたと同じくらいの年頃だったとき――。あの頃の私は、“皇帝”でも“紫電”でもなかった。ただの十四歳の妹――“曹華”だったのよ」

 言葉と共に、彼女の視線は遠い空の果てへと落ちる。陽光はゆるやかにかげり、風がひとすじ、移ろいゆく花の香を運んできた。

 胸の奥で、長く封印されていた記憶のおりが、そっと目を覚ます。

 あの頃の私は、まだ世界を知らなかった。争いも、裏切りも、絶望さえも。ただ、姉・白華の凛とした笑顔と、弟・興華の屈託のない笑い声があれば、それで満たされていた。あの小さな村こそが、私にとってのすべてだった。

 けれど、時代は残酷だった。私の手から、愛する者たちの体温を奪い、私を冷徹な“剣”へと変えた。だからこそ、私は誓ったのだ。二度と、護るべきものをこの指の間から零しはしない、と。

 百合華はまだ知らない。目の前で穏やかに微笑むこの老女が、かつて血と炎の螺旋を駆け抜けた少女であったことを。この安らかな午後が、幾千万の屍の上に築かれた、奇跡のような一刻であることを。

 春の風が吹き抜け、白い花弁が一枚、茶杯のゆらめく水面に落ちた。紫極帝はそれを見つめ、節立った指先でそっと掬い上げる。

「……あの日、三つの華は散った。けれどね、百合華。散った華は、いつか必ず、別の春に咲き誇るものなのよ」

 その声は柔らかく、そして遠い。まるで時の奔流そのものが、優しく囁いているかのようであった。

 ――そして、物語の幕が上がる。

 まだ“紫電”の名を背負う前、一人の少女が運命に抗い始めた、あの春の日から。

読んでいただきありがとうございます。

作品、続きに興味を持っていただけたら、☆をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ