表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三華繚乱  作者: 南優華
第二章
18/316

第二章 曹華伝一 新たな場所 三年の歳月

激流の川岸で意識を失ったあの日から、三年の歳月が流れた。


あの時、牙們に川岸へ投げ捨てられた私は、確かに死を覚悟した。だが、次に目を覚ましたとき、私がいたのは敵国・蒼龍国の静かで清潔な一室だった。

何故、生かされたのか――その理由は今も判然としない。敵将が、討ち滅ぼすべき王族の子を拾い、助けるなど常識では考えられなかった。


それでも、与えられた待遇は想像を超えていた。深手は薬で癒やされ、温かい食事が毎日運ばれ、柔らかな布団で眠ることができる。あの絶望の夜からすれば、それは夢としか思えなかった。

やがて傷は癒え、頬を覆った痕も消えた頃、私の前に現れたのは――あの夜、牙們を制した蒼龍国の筆頭将軍、天鳳だった。



---


天鳳将軍は三十代半ばほどの長身の男。冷たい美貌と鋭い眼差しは、一切の感情を映さない氷のようなものだった。

彼は淡々と事実を告げる。


「お前を生かしたのは、私の判断だ。柏林国の王族の血筋を知る者は、この蒼龍国でも一握りしかいない」


その言葉に、私は全てを悟った。

父はただの武官ではなかった。蒼龍国が根絶を誓う柏林国の正統の王族――その血を引いていたのだ。父が命を懸けて身分を隠したのは、血筋を守るため。だが今、その事実は敵国の将軍に握られている。


私は問いかけるより早く、天鳳は冷ややかに続けた。


「蒼龍国の方針は変わらぬ。柏林国の血は、徹底的に断たれる。だが――お前には利用価値があるかもしれないと、私は考えた。価値を失えば命は塵に帰す。それがお前の生の理由だ」


冷酷な刃のような言葉に、胸を貫かれる。

だが不思議と恐怖はなかった。ただ、自分の命が敵の秤にかけられているという屈辱。そして、心の奥底から湧き上がる静かな怒りだけが残った。



---


私はその場で、答えを出した。

生きる。生き延び、力を得る。そうでなければ、あの日、川に呑まれた白華と興華の行方を知ることすらできない。


「……わかりました。私は、将軍の“価値”に従います」


私の言葉に、天鳳は一瞬だけ口元を歪めた。

それは笑みとも冷笑ともつかぬものだったが、思わず見惚れるほど整った表情だった。


「聞き分けがいいな。私はそういう人間が好きだ。出自は問わぬ」

天鳳は淡々と私を値踏みしながら言葉を続ける。

「それに、お前には武の才がある。牙們に敗れはしたが、伸び代はある。女であることを差し引いても、成長すれば並の男よりはるかに強くなるだろう」


敵の将軍から才能を認められた。

憎むべき相手のはずなのに、その評価に心が震えたのを、私は否定できなかった。


「……傷が癒え次第、お前は私の付き人となる。妬みも陰口も浴びるだろうが、全て実力で黙らせろ。それもできぬなら――利用価値はない」


さらに彼は、私を試すように言い放った。


「付き人として仕える以上、いつでも私を殺しに来て構わない。父の復讐を果たしたいのなら試すがいい。ただし――私は易々と殺されはしない」


その瞳には、挑発ではなく冷徹な確信が宿っていた。


私は悟った。ここで生き抜くことこそが、己の使命。力を蓄え、いつかこの男を討つ――それが、蒼龍国に囚われた私の唯一の道なのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ