最終話 もう不死なんだから
常人なら、すでに10回は死んでいる。軽く見積もって10回。死人に対する追い討ちにだとしてもやり過ぎなくらい。過剰で苛烈な攻撃だ。
「やっぱりお前なんか嫌いだ、配下に迎えるなんて僕はどうかしてたかもしれない」
「君の配下になった覚えはないよ。うら若き少女の秘密を強迫に利用して、私を辱しめて……」
「辱しめた記憶はねぇ」
「君の近くにいることが、辱しめでないと?」
侮辱しようとしたら先越された。ダーリアにとって僕は恥の象徴だったようだ。生き恥をさらし続けてよく生きていけたな、誉めてやろう。自殺してしまえばよかったのに。
「私の時間を奪った罪は重い。恨みを存分にぶつけさせてもらうよ」
「アンタの時間を奪ったことは市民にとって幸福だっただろうけどね。殺人鬼を繋ぎ止める英雄に武器を向けるとは何事か」
「私を繋いで、お預けさせていられると思う?」
--大量の凶器の落下。
僕に避ける手段も体力もない。足に剣が刺さって抜けない。抜こうにも、降ってくる物に邪魔されたりする。
狙いが定められない攻撃だが、数打ちゃ当たるの法則だ。
「ぎゃっ……ぐう……ああ!?」
「君を一通り痛めつけたら、二度と動くことができないように封印しようと思う。一通りってのはミミカが到着するまでの間。それまで裁きを受け続けてもらうよ」
冗談じゃない。僕はなにも悪いことはしていない。裁かれる理由はない。不当だ。
それで封印するだと?
ダーリアこそ封印されるべき巨悪だろうに。
「……ミミカ? 早いよ……」
ダーリアは右耳に手を当てて、空をみる。僕も同じように空を見上げた。攻撃が止んでいた。この間に回復させてもらう。
--そう思ったけど。
「……どういうこと?」
僕もそう思う。ミミカという幽霊を知っているからこそ、僕たちは空が信じられない。
燃えていた。苦しんでいた。
悲鳴が聞こえてくる。ミミカの声で。痛ましい声。幽霊の癖に。体を焼かれて苦しんでいる。
ミミカには、物理的な攻撃は一切通用しない。魔術による攻撃ならば一矢報いることは可能だが、そもそもミミカを視認することが難しいために、弱点と言える弱点ではない。
そういう無敵で不死に限りなく近いミミカが燃えている。高度も下がって、こちらに落ちてきている。まるで流星だ。
「クソ幽霊がぁ! まだ死ぬんじゃない! 貴様らへの怒りはまだまだ収まっちゃいない!」
燃えて落ちてきているミミカを追ってくる、火球がひとつ。そこから聞こえてきた怒声には聞き覚えがあった。
『悪炎の王』
その名はヴォルノ。
この地に降り立つつもりか?
魔界の王様がそんなポンポンとしゃしゃってくるな。迷惑だ。
「……久しいな、ヴォルノ。現世は存続するに足りるか?」
はるか空。落ちる幽霊のことなど気にも留めないような男の声。
「あぁ……おぉ『零の王』たるヒューズ閣下ではありませんか。何の様だ?」
「貴様の返事がなかったものでな。てっきり死んだものと思い、軍を率いて侵攻した。第2陣がそろそろ到着する」
「それはご迷惑をお掛けしたな。1陣は……貴様が殺したのか。敵も味方もまとめて蹴散らすとはいつも大胆だ」
「……ガキがいうことか」
「聞こえなかった。もう一度言え」
なんでもない、と『零の王』。
地上にいる僕たちは、いつのまにか戦闘を中断してしまっていた。
「こりゃ、やばい。魔界の王が2人。魔力の量が桁違いに多い。リムフィ君、休戦だよ」
「おいおいおい。ここまで痛め付けておいて休戦だとぉ? 報復されたくないからってなぁ!」
「世界を滅ぼす怪物が真上にいる。君は死なないだろうが、地獄をみると思うよ」
ダーリアが喋り終わったのと同時に、燃えているミミカが近くに落ちた。
「助ける?」
僕の何気ない問に、ダーリアは首を横に振る。
あのまま燃やして、消えるのを待つつもりらしい。ミミカはここで消える運命か。
考えてみれば、ミミカは僕たちと出会ってから酷い目にしかあっていない。人のことを考えるなんて柄じゃないけど、可愛そうな奴だった。
幽霊にまでなって、現世に留まったのに。殺人鬼の道具として、僕の頼み事を聞いたりして。まるで奴隷だった。
ミミカの透明な肉体が燃え付きそうになる頃に、彼女はこちらを向いてきた。僕とダーリアを睨みつけていた。恨みのこもった瞳。
「もう……すべて消えるの。こうなったのは……お前たちのせいなの」
その言葉が最後だった。ミミカの体はどこにもなく、燃え尽きたはずなのに灰も残らない。
これが幽霊の2度目の死のようだ。
「ダーリア、ミミカが死んだ」
「それがなに? 今関係あること?」
ミミカになんの感情もなかったらしい。あれ便利くらいの道具だった。無くして後悔はするが、亡くしては後悔しない。
「探したぞ。殺人鬼クソアマ」
声が降ってきたと同時に、ヴォルノが僕とダーリアの前に降り立った。
「会いたくなかったよ、死んでしまえば良いのに」
「貴様らのような人間いる現世、存続する意味はないと『零の王』に伝えた。これより現世は第二の魔界となる。生きられるか、楽しみにしていろ」
「おいっそれってどういうことだ!?」
次の瞬間、目の前が真っ黒になった。音も何も聞こえない。手足に何も触れていない。まるで浮いているような感覚。
「世界を壊し、創る。苦労することだ。魔界の王総動員で、現世の生命を消し去る」
「リセットして、上書きするってことだ。我が唯一無二の存在、リムフィ・ナチアルス。あなたは、魔物が主役の世界で、永久に生き続けてくださいな」
音が聞こえないのに、頭に響く声。どういうことかさっぱりわからない。
ダーリアはどうなった? 死んでくれたのか?
「ダーリアだけじゃない。みんな死んだ。すべて地平の彼方へ旅だった。残るのは貴方だけ」
人類が全滅したってことか? それはすごく困る。僕を養う奴がいない。
「これは確かに、こういう思考回路の奴がいるとしたら……現世に価値はなかったな」
答えを急ぎすぎだ。
「まぁいいさ。我々は魔界の王、こやつはもう不死なんだから好き放題してもいい玩具さ」
--魔界となった場所で、リムフィ・ナチアルスは永遠の地獄を過ごすことになった。
嫌だ。助けて。ダーリア、ミミカ、誰でもいい僕をこの魔王どもから救ってくれ!
呼び掛けても、誰もいない。運命の確定は揺るがない。
さようなら、さようなら。
応援してくださった方、誠にありがとうございました。
次回作、そのうち投稿します。




