43話 虐殺パーティ
施設に入ると、白衣を着た研究員らしき男性が僕たちを出迎えてくれた。ジンバルドの出迎えのつもりなのだろうが、すでにジンバルドの魂はもう存在しない。哀れなことだ。
「お待ちしておりました。それが……『アドゥナー』なのですね。さっそく地下で解析しましょう」
僕のことを『アドゥナー』って呼ぶのは、忌々しいからやめてほしい。僕の名前はリムフィだ。
ミミカがジンバルドを操作して何かを言う前に、勝手にその研究員が喋ってくれた。ありがたいことに案内までしてもらえそうだ。
ミミカの操るジンバルドに腕を引っ張られながら、僕は研究所内を観察していた。ミミカは肉体を操ることに慣れたようで、スムーズに歩けている。
魔術研究所では主に魔術の研究・開発を行っている。魔物や他国との戦闘のためだ。それ以外にも医薬品などの開発も行っているらしい。
研究所の奥に扉がひとつ。その扉のドアノブには赤色の石がはめ込まれており、その石に研究員が手をかざす。するとガチャリ、と鍵の開く音がした。すごくファンタジーな防犯対策だ。
その扉を開くと、地下へと続く階段があった。僕たちはその階段を、何も喋らずに下っていく。研究員の男には妙な緊張がみられる。何を緊張しているのか僕にはわからない。
そして階段の終わり、また扉。
研究員が扉を開くとそこには、レンガだらけのだだっ広い部屋。照明が少なくて暗い。
「すまないが……」
ジンバルドの声。ミミカが操っていることを知ってはいるが、予想以上に本人の声だったので、生きていると勘違いしそうになった。
「研究所内で、このことを知っている人間を全員集めてくれるか……? 少し話がある」
ジンバルドの肉体に、研究員は頭を下げる。了解のサインだろう。他の者を呼びに、この部屋を出て行ってくれた。口答えもせず、優秀だ。
研究員が扉から出ていくと、ジンバルドの背中からミミカの半身が飛び出してくる。まるで着ぐるみようだ。
「あぁー……疲れるの。リムフィ、この件の報酬はきっちりと払ってもらうの」
「報酬って……何が望みなのさ? 僕の身体の研究以外で」
「先手を打つのは卑怯なの。まぁ……ここの研究資料を拝借することを報酬としてもいいの」
「僕に許可なんか求めなくても勝手に奪うだろ? それが成功報酬なら安いモノだから好きなだけパクってくといい」
そんな会話をしている最中、ジンバルドの肉体は前屈をしているようで面白かった。しかし、この光景をみられたら不審がられるだろう。実行の時まではしっかりとジンバルドを演じていてもらわねば面白くない。ドッキリを企画してるみたいで、僕は少しテンションが高まっていた。
僕はミミカにさっさとジンバルドの肉体に戻れと指示をした。
「……連れてきました」
コンコンと、几帳面なノック音のあとに先ほどの研究員が扉を開けて現れる。その背後には10人ほどの、同じような服装の研究員たち。
すべからく、殺害対象だ。
「……やれ」
ジンバルドの身体を、僕は肘で小突く。
これが合図。先ほどの馬車の現場から拾っておいた、大きめのガラス片。ポケットから取り出したそれを握って、近くにいた研究員の腹を刺す。
「な……何を!?」
刺された研究員の傍にいた男が驚きの声をあげる。周りも声にこそ出さなかったが同じような表情をしている。
「ぶふッ……」
人が刺されて血を流しているのに、僕は笑ってしまった。ドッキリ大成功。人の命が失われかけているのに、嬉しさがこみあげてくる。
ミミカ操るジンバルドは、研究員の腹に刺さっているガラス片を縦にぐいっと動かした。
他人が行う切腹。想像もしたことがない。
腹を歪に裂かれた男はその場で倒れてしまう。ジンバルドの身体は、思い切り彼の腹を蹴り飛ばした。
「ぐああああッ!?」
「おッおやめください、所長!」
ジンバルドはすでに死体。ミミカが操作しないかぎりは何も変わらない、止まらない。
制止の声をかけた研究員の一人を殴り飛ばして黙らせる。その後に倒れている奴の頭を踏みつけにしてみせた。
「があああああ!? やめっ……! ッ……」
僕から見たら、軽く踏みつけているだけにみえた。少しばかり屈辱を与えているだけみたいな姿勢だった。殺すなら、踏みつける場所は頭ではなく首がいい。頭蓋骨を踏みつけて砕くのは手間だからだ。
だがジンバルドの脚は、研究員の頭蓋骨を粉砕。脳漿を床にぴちゃぴちゃ散らせた。
まるで割れたスイカだ。流れ出る血が床を汚していく。
おかしい。ジンバルドの脚はすでに肉がズタズタ。ミミカの魔術で立っていられるような状態のはずだ。
「リムフィ……何を驚くことがあったの?」
「ぎゃ!?」
間抜けな声をだしてしまった。僕が振り返ると、ミミカがふわふわと浮いていた。いつの間にジンバルドの身体から抜けてきたのかわからなかった。
「いつのまにジンバルドから離れた?」
わからないことは正直に聴く。
「殴った時。あれ以上、あの身体に入ってる意味はないから。皆殺しにするくらいなら、ここからの操作で充分なの」
その言葉の直後に、暴力の音が聞こえてくる。二度目、人を殴り飛ばす音。今度は女性職員。男女差別はしない死体のようだ。
「あの死体のパワーはどっから来てんの?」
「は? パワーなんてあるわけないの。無理やり使ってるだけ。アレに残ってる身体の部位を極限まで使ってんの」
そういう会話をしていても、殺戮を受けている彼らには聞こえていないようだ。逃げ出そうと必死。
ミミカにとってジンバルドの死体は道具でしかないらしく、酷使するのにためらいがないようだ。ジンバルドの四肢は取れ欠けているが、臆することなく振るわせている。壊れかけのマリオネットの人形はきっとあんな感じだろう。
躊躇いのないジンバルドに対して、怯えている獲物たち。立ちすくんでいたり、逃げ出そうとしたり、リアクションは様々。
もちろんのことだが、殺しの順番は逃げ出すことを試みる者から。
ジンバルドのパンチや蹴りで、職員が次々と倒れていく。しかし、いくら並外れた威力であろうと致命傷にはならないことがある。だから攻撃の合間に、ついで感覚でとどめを刺していった。首を圧し折ったり、頭をカチ割ったり。バリエーションは少ないが確実に息の根を止めていく。
「……ジンバルドがこの殺戮をやってることは、なるべく多くに見てもらわないと困るな。ここだけで終わらせないで、何人かこの部屋から出してやって。そしたら改めて殺戮開始。できるだけ被害を大きく頼む」
「まったく注文が多いの」
「この部屋だけで被害が済んでたら、僕が疑われるじゃん」
ミミカはため息をつくものの、しっかりと従ってくれた。半数くらいの職員の命を絶った後、ジンバルドの死体は停止した。
それを逃げるチャンスと思った職員の皆さまは、僕たちの計画通りに部屋を出ていく。
「はやく追って。逃がしちゃったら元も子もない」
「わかってるから黙ってなの」
下手をすると、僕らもこの部屋から出られなくなる。そんなことになれば殺人現場で唯一生き残っている男として、間違いなく面倒なことになる。
職員の混乱に乗じて、僕もこの部屋からおさらば。一応、ジンバルドの死体から逃げている体を装いながら。
ミミカは逃げ出す職員の眼を盗んで、またジンバルドの死体に戻った。何を考えているのかは知らない。
階段を駆け上がり、研究所の1階に到着。ジンバルドに襲われていた職員と同じように僕も走る。周囲の無関係の職員に、被害者であることのアピールだ。
「『扉を 解放する 闇よ 輝きを 皆殺せ』」
ミミカの魔術の詠唱らしきものが、ジンバルドの声で聞こえてくる。
ジンバルドの周囲にいくつもの魔法陣が出現し、その魔法陣から見慣れた黒い腕の群れがロケットパンチのように、文字通り飛び出してくる。
ジンバルドの身体だけでの大量殺人は面倒くさいらしい。魔術で一気にやっちまうつもりのようだ。面倒くさいという気持ちはすぐに理解できる。
黒い腕は研究所内を縦横無尽に飛び回り、そこらじゅうの人間の頭を握りつぶしていった。一応、標的はしっかりと殺している。
それ以外は適当みたいだ。黒い腕の近くにいたヤツを狙っているっぽい。
いたるところで人の頭が潰れていく光景は、これからの人生でみることはできないだろうから、僕は逃げるフリをしながらしっかりと見届ける。グロテスクだけど嫌いじゃない。
……この人たちは、国のために魔術を開発・研究している。
そんな人たちを殺しまくってると思うと、実に気持ちがいい。頑張ってる奴が無意味に終わっていく様はとても面白い。逃げてるフリをしてなきゃいけないところで、爆笑しそうになってしまった。
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