7.ウサギになったねこ
それから三日が経ちました。
なっぱもしっぽくの字のくーたろうも、のらねこ小路に戻ってきていました。
でも、なっぱはとてもごはんを食べにみんなのところに行く気になりませんでした。
だって、自分はみんなと違うのですから。野菜が大好きな変なねこなのですから。そんな変なねこは他にいません。
ごはんを食べに行くと、それが身に染みてわかるので、とても行く気にならなかったのです。
なっぱは、動くとおなかがすくので、のらねこ小路の片すみで丸まっていました。
すると、なっぱを呼ぶ声がしました。
「おい、なっぱ」
しっぽくの字のくーたろうの声です。
なっぱはピクンと先っちょがちぎれた左耳を動かしただけで、顔も上げずに寝たふりをしました。
きっとまた、うそを教えてからかうに決まってます。
「おい、なっぱ。お前の好きなピーマンのヘタを持ってきたぞ」
しっぽくの字のくーたろうが言いました。
でも、本当かどうかわかったもんじゃありません。
なっぱはちょっとだけ鼻をヒクヒクしてにおいをかいでみました。ピーマンのヘタの青くさいにおいがします。
しっぽくの字のくーたろうのことですから、きっと、ピーマンのヘタと聞いて、なっぱが顔を上げたところを笑いものにするのに決まってます。
「おい、なっぱ。起きないなら、オイラがピーマンのヘタを食べちゃうぞ」
ほら、見たことかとなっぱは思いました。しっぽくの字のくーたろうが、ピーマンのヘタなんか食べるわけがありません。なっぱにとってはごちそうでも、普通のねこはそんなもの食べないのですから。
やっぱり、馬鹿にしようと思っているのに決まってます。
なっぱが寝たふりを続けていると、コリコリとおいしそうな音が聞こえてきます。なっぱのおなかがぐーと鳴りました。
なっぱが、そっと目を開けて見ると、しっぽくの字のくーたろうがピーマンのヘタを食べていました。
しっぽくの字のくーたろうは、一生けん命ピーマンのヘタを食べていました。
青くさくて苦い味が、口の中いっぱいに広がります。それでもしっぽくの字のくーたろうは、はき出さずにゴクリと飲み込んで言いました。
「こんなおいしいごちそうは、食べたことないよ!」
なっぱは起き上がって、しっぽくの字のくーたろうに聞きました。
「しっぽくの字のくーたろうさん、ピーマンのヘタを食べて平気なの?」
「平気どころじゃないさ、大好物さ!」
しっぽくの字のくーたろうは言いました。
のらねこ小路に帰ってきてから、しっぽくの字のくーたろうは一生けん命考えたのです。どうやったらなっぱと仲直りできるか、一生けん命考えたのです。
それほどうそをついて、なっぱのことをだましたことを後悔していたのでした。
けれども、いくら一生けん命考えても、どうやったらなっぱが自分のことを許してくれるかわかりません。
それで、しっぽくの字のくーたろうは、もっともーっと一生けん命考えました。そうやって、夜も寝ずに一生けん命一生けん命考えていると、ふと、いい考えが浮かびました。
「そうだ、オイラがうそをついて、なっぱをだましたからいけなかったんだ。だったら、オイラがついたうそを本当にすれば、なっぱをだましたことにならないじゃないか!」
そう思ったしっぽくの字のくーたろうは、その日から一生けん命ピーマンのヘタを食べる練習をしました。
はじめは青くさくて、苦い味が口の中いっぱいに広がると、気持ち悪くなってはき出してしまいました。けれども、何度も何度も食べているうちにだんだんとなれてきて、はき出さなくて済むようになりました。それどころか、前になっぱが言ったように、青くさくて苦い味の向こうがわに、ほんのりと甘い味がするではありませんか。
「なるほど、なっぱが言っていたのは、この味のことか」
しっぽくの字のくーたろうは、ようやっとなっぱが言ったことがわかりました。
やっぱりまだ、エビフライのしっぽやサンマの頭の方がごちそうでしたが、今ではピーマンのヘタのことも、ちょっぴりおいしいと思うようになったのです。
「しっぽくの字のくーたろうさん、でも、普通のねこは野菜なんて食べないものでしょう?」
もいちど、なっぱは聞きました。
目の前でしっぽくの字のくーたろうが、ピーマンのヘタを食べるのを見ても、それが信じられなくて聞きました。
「ああそうさ。でも、オイラは野菜が大好きなねこなのさ」
しっぽくの字のくーたろうは言いました。
「オイラは野菜が大好きな、ウサギって種類のねこなのさ」
なっぱはびっくりしました。
びっくりして、まんまるな目でしっぽくの字のくーたろうを見ました。
そして、それから、ぴょーんと跳んで、しっぽくの字のくーたろうに抱きつきました。
うれしくてうれしくて、なっぱの目から涙が出ました。
いくらなっぱがお人好しでなにも知らないこねこでも、しっぽくの字のくーたろうがウサギじゃないことぐらいはわかります。ちゅんちゅくスズメが歌っていたように、ウサギはねこの種類なんかじゃないのですから。
しっぽくの字のくーたろうは、また、なっぱにうそをついたのです。
でも、それがなんだというのでしょう?
今度のうそは、なっぱをだまして笑いものにするためのうそではありません。
仲直りをするために、しっぽくの字のくーたろうが一生けん命考えてついたうそなのです。
なっぱには、それがわかったので泣きました。
しっぽくの字のくーたろうの気持ちがうれしくて泣きました。
そして、もうひとつうれしいことがありました。
そうです、なっぱは、もうひとりぼっちじゃないのです。
大好きな野菜を食べて、いっしょに「おいしいね」って言える仲間ができたのです。
「おい、なっぱ。泣いてないで、いっしょにピーマンのヘタを食べようぜ」
なっぱの目から出た涙をひとつペロリとなめて、しっぽくの字のくーたろうが言いました。
「しっぽくの字のくーたろうさん、ありがとう」
なっぱは、お礼を言いました。
すると、しっぽくの字のくーたろうが笑いました。
「馬鹿だなあ、なっぱは。オイラたち同じウサギ仲間じゃないか」
そう言って心の中でなく、声を出してにゃひにゃひ笑いました。
それからなっぱとしっぽくの字のくーたろうは、ふたりしてお腹いっぱいになるまでピーマンのヘタを食べました。
その日から、のらねこ小路に野菜が大好きなちょっと変わったねこがふたりになりました。
おしまい




