6.ウサギのお耳
それからまたふたりは、ぴょんぴょんトコトコ進みました。
なっぱは砂粒が目に入って痛くてよく見えないので、あっちに行ったり、こっちに曲がったり、まっすぐに進むことが出来ません。
なっぱは、目が痛いのを忘れようと思って歌を歌いました。
「ぼくはなっぱ。ウサギのなっぱ。仲間のウサギに会いに行く~」
これを聞いたしっぽくの字のくーたろうは、やっぱりおかしくてたまりません。なっぱは、まだ自分がウサギだと思い込んでいます。
しっぽくの字のくーたろうは、心の中でにゃひにゃひ笑いました。
そのときです。
またまた、お空を飛んでいる三羽のちゅんちゅくスズメが歌いました。
「ちゅんちゅくちゅん。そんなウサギはいやしない。ウサギのお耳はなーがなが」
なっぱとしっぽくの字のくーたろうは、顔を見合わせました。
「しっぽくの字のくーたろうさん、ちゅんちゅくすずめが歌ってるのは本当ですか?」
なっぱが聞きました。
「そう言えば、聞いたことがあるぞ。ウサギの耳はなーがいんだって」
「それじゃぁウサギは、野菜が大好きで、野原や山に穴をほって住んでいて、ぴょんぴょん跳んで、おめめが真っ赤で、お耳がなーがいねこなんですね」
なっぱがもう一度聞きました。
本当はウサギはねこじゃないけれど、最初から本当のことなど言うつもりはありません。しっぽくの字のくーたろうは、うんとうなずきました。
「しっぽくの字のくーたろうさん、ぼくの耳はなーがいですか」
なっぱは試しに聞きました。
本当はなっぱも答えをわかっていたけれど、確かめたくて聞きました。
「なっぱの耳はなーがくないよ。普通のねこと同じだよ」
しっぽくの字のくーたろうが言いました。
なっぱは目が痛いのと、悲しいのとで泣きました。
自分がウサギという種類のねこだとわかったのに、やっぱり他のウサギと違うなんて、悲しくてなりません。
そこで、しっぽくの字のくーたろうは、いいことを思いつきました。
「おい、なっぱ。引っ張ったら、お前の耳もなーがくなるんじゃないか?」
しっぽくの字のくーたろうが言いました。
「本当ですか?」
「本当だとも」
本当は、引っ張ったって耳がなーがくなんてなったりしません。しっぽくの字のくーたろうは、おかしいのをこらえながら言いました。
「オイラが、なっぱの耳を引っ張ってやるよ」
「しっぽくの字のくーたろうさん、ありがとう」
なっぱはお礼を言いました。
「まかせておけよ」
しっぽくの字のくーたろうは言いました。
「でも、痛いって言ったら、耳がなーがくなってなくても、おしまいにするからな。約束だぞ」
しっぽくの字のくーたろうは、なっぱがすぐに痛いと言うに決まっていると思っていました。なっぱが痛がるのを見て、笑おうと思ったのです。
「いいですよ。ぼく、絶対に痛いって言わないから」
なっぱが言いました。
「それじゃぁ、せーのでぼくが引っ張るから、お前も反対側に引っ張るんだぞ」
「はい、わかりました」
なっぱは、こっくりうなずきました。
それからしっぽくの字のくーたろうは、なっぱの左の耳の先っちょをくわえました。
「おい、なっぱ。準備はいいか?」
耳の先っちょをくわえたまま、しっぽくの字のくーたろうが言いました。
「いいですよ」
なっぱが答えます。
「せーの!」
しっぽくの字のくーたろうが、思いっきりなっぱの耳を引っ張ります。なっぱも、しっぽくの字のくーたろうが引っ張るのと反対側に引っ張りました。
耳がぴーんと引っ張られて、痛くて痛くてたまりません。ぽろぽろと大きな涙の粒が、なっぱの目からこぼれました。
けれどもなっぱは、痛いと言いません。
「せーの!」
もう一度しっぽくの字のくーたろうが、力いっぱいなっぱの耳を引っ張ります。
なっぱも、もう一度反対側に引っ張りました。
耳が痛くて痛くてたまりません。また大粒の涙がぽろぽろとこぼれました。
けれどもなっぱは、痛いと言いません。
「せーの!」
もう一度しっぽくの字のくーたろうが、なっぱの耳を引っ張ったときです。
ビリ! どすん! と大きな音がして、しっぽくの字のくーたろうとなっぱは、ふたりとも尻もちをつきました。
最初、ふたりは何が起きたのかわかりませんでした。
どすん! といった大きな音は、ふたりが尻もちをついた音です。
では、その前のビリ! はなんの音だったのでしょう?
答えはすぐにわかりました。なっぱの左の耳の先っちょが、歯型の形にギザギザになっていました。
あんまり力いっぱい引っ張ったので、しっぽくの字のくーたろうが咥えたところから、なっぱの耳がちぎれてしまったのです。
耳がなーがくなるどころか、チョッピリだけど、かえって短くなってしまいました。
しっぽくの字のくーたろうは、びっくりです。こんなはずじゃなかったのに、ただ、なっぱが痛がるのを見て笑おうと思っただけなのに、大変なことになってしまいました。
もう、にゃひにゃひ笑ってなんかいられません。
「なっぱがいけないんだぞ! 意地をはって痛いって言わないから悪いんだぞ!」
しっぽくの字のくーたろうは、本当はなっぱのちぎれた耳をペロペロなめて謝りたかったのに、そう言ってしまいました。
そのときです。
お空を飛んでいる、三羽のちゅんちゅくスズメが歌いました。
「ちゅんちゅくちゅん。そんなウサギはいやしない。ウサギはねこじゃありゃしない」
なっぱとしっぽくの字のくーたろうは、顔を見合わせました。
「しっぽくの字のくーたろうさん、ちゅんちゅくすずめが歌ってるのは本当ですか?」
なっぱが聞きました。
「そんなことないよ。ウサギはねこの種類だよ」
しっぽくの字のくーたろうは言いました。今更、みんなうそだったなんて言えるわけがありません。
すると、ちゅんちゅくスズメは歌の続きを歌いました。
「ちゅんちゅくちゅん。馬鹿なこねこはだまされた。しっぽくの字にだまされた」
なっぱは泣きました。
だまされたことよりも、ちぎれた耳が痛いことよりも、砂粒の入った目が痛いのよりも、それよりも、自分がウサギという種類のねこだというのが、うそだとわかって泣きました。
自分はやっぱりみんなと違う変なねこなんだとわかって、悲しくて悲しくて泣きました。
せっかく仲間がいると思ったのに、やっぱりひとりぼっちなんだと思って、淋しくて淋しくて泣きました。
「しっぽくの字のくーたろうさんなんか、キライだ!」
そう言うと、なっぱは走りました。
ウサギみたいにぴょんぴょん跳ぶのではなく、ちゃんとねこらしく走りました。
しっぽくの字のくーたろうは、なっぱにキライだと言われてもしかたがありません。今まで、ずっとだまして、なっぱのことを笑いものにしていたのですから、しょうがありません。
しっぽくの字のくーたろうは、うそなんかつかなかればよかったと、後悔しました。




