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第9話:襲来のJOKER! 恋と戦火の三角関係

――第3外郭防壁における新型兵器迎撃戦から数日後。

アークフォース都市軍事基地の作戦司令室には、緊迫した空気が漂っていた。

メインモニターに映し出されているのは、数日前に撃破したはずの敵残骸から回収されたブラックボックスの解析データ、および都市全域のレーダー網が捉えた新たな不穏な軌跡であった。

「――参謀殿、データ解析が完了しました」

オペレーターの兵士が冷や汗を拭いながら報告する。

「何がわかったのですか、ルカ参謀」

カイト・充・ガードナー少尉は、直立不動の姿勢でメインデスクの前に立ち、ルカ・アシュフォードを見据えていた。

メガネの奥のルカの瞳には、かつてないほどの深刻な色宿っていた。

「……間違いない。先日のギガ・タートル、そして以前のグラン・ゴーレム。これらはすべて、外部からの単なる無人侵略兵器じゃなかった。……すべてを統括し、意図的にアークフォースの中枢を狙う『意思』が存在する」

モニターの映像が切り替わり、一機の機体のシルエットが浮かび上がる。

漆黒とシルバーの複雑な装甲を持ち、背部に不気味な翼状の機動ユニットを備えた超高機動型試作機甲兵器――コードネーム『JOKER』。

「新型機…ですか?」

カイトが小さく呟く。

「そうだ。奴はこれまでの大型要塞とは違い、完全にパイロットの搭乗を前提とした『有人型超高機動機』だ。そして、その機体を駆るパイロットの電波波形……過去のデータベースと照合した結果、驚くべき事実が判明した」

ルカは苦い顔をしながら言葉を継いだ。

「そのパイロットの生体反応……第3管区所属のテストパイロット、フェザーの波動パターンと完全に一致しているんだ」

ハンガーの空気が凍りついた。

カイトの眉間がわずかに引き攣る。

「……フェザー少尉が、敵としてアークフォースを狙っていると? 彼女は我々と同様の防衛組織のパイロットのはずですが」

「実は…あの侵攻のあとから第3管区基地と連絡が取れないんだ…おそらく羽木少尉は拉致され、彼女の意識が強制的に書き換えられた、あるいは乗っ取られた可能性がある。奴の機体『JOKER』は、現在アークフォースの中央ジェネレーター区画へ向け、直線コースで侵攻中だ」

ルカの言葉を聞き終えると同時に、カイトは踵を返し、足早にハンガーへと歩き出した。

「カイト! どこに行く気だ!?」

「出撃します。フェザー少尉を救出する。それが私の現在の任務です」

その背中を見送りながら、ルカは深く息をついた。

(……頼むぞ、カイト。君のその『守りたい』の力が、彼女を救い出してくれると信じている。)

アークフォース都市中央、第1級防衛セクター。

かつて平和なショッピングモールや公園が立ち並んでいたその空域は、いまや黒煙と閃光の交差する最前線と化していた。

ドゴォォォォンッ!!!!!

爆風を突き破り、一機の黒銀の機体――『JOKER』が凄まじい軌跡を描いて急旋回した。

その機体から放たれる圧倒的なプレッシャーと超高機動の残像は、これまでのどの敵よりも洗練され、そして冷徹だった。

『――迎撃機体を確認。排除対象、カイト・充・ガードナー』

JOKERの外部スピーカーから響いたのは、紛れもないフェザーの声だった。だが、その声音にはかつて図書室や公園で見せた静かな優しさは一切なく、機械のように冷たい無機質な響きだけが満ちていた。

「フェザー少尉! 意識を取り戻してください! その機体のコントロールはハッキングされています!」

通信回線越しに呼びかけるカイト。

しかし、コクピットの中で操縦桿を握るフェザーの瞳は、虚ろな光を放ちながらも、目の前のブラックナイトを捉えていた。

『……私は正常です。カイトさん。貴方のその『甘さ』と『未熟な執着』が、貴方自身を滅ぼす。……それを証明するのが、私の任務です』

シュシュシュシュッ……!

JOKERが音速を超える超加速で突撃を仕掛け、手に持った単分子振動エッジでブラックナイトの側面をかすめる。

『カイト! 相手の動きが速すぎるわ! 追いつけない!』

遅れて現場に到着したシーナの機体が援護射撃を試みるが、JOKERの圧倒的な機動性の前に、ビーム弾はすべて残像の虚空へと消え去った。

「シーナ少尉、無茶な接近は避けてください! 奴の機動演算パターンは、私のこれまでの戦闘データのすべてを学習しています!」

カイトの冷徹な分析通り、JOKERの動きはカイトの戦術的癖を完全に先読みしていた。

正面からの撃ち合いでは勝てない。かつて図書室で交わした戦術論のすべてが、今、牙をむいてカイトに襲いかかっている。

『カイトさん……貴方はいつも、自分の命をすり減らして勝利を拾う。そんな戦い方に何の意味があるのですか? 効率的ではない。美しくもない』

JOKERが急停止し、両腕のメガビームキャノンをカイトの機体へ真っ直ぐに向けた。

『消えてください……カイト・充・ガードナー!』

ズガァァァァンッ!!!!

至近距離から放たれたメガビームが、ブラックナイトのシールドを激しく抉り取る。

衝撃波でカイトのコクピット内が激しく揺れ、警告音がけたたましく鳴り響いた。

『カイト!!』

シーナの悲鳴が通信に響く。

「……私は、負けるわけにはいきません」

カイトは血の滲むような視線でJOKERのコクピット位置を固定した。

フェザーを救い出し、あの穏やかな学校の日常へ、そしてシーナとの約束の場所へ帰るため――ここで終わるわけにはいかない。

「シーナ少尉、私の機体に全残存エネルギーを集中させます。……奴の足を1秒間だけ止めてください!」

『分かったわよ、カイト! 信じてるから!!』

シーナの近接機が全スラスターを過剰燃焼させ、捨て身の特攻めいた突撃でJOKERの正面へと飛び込んだ。

驚異的な反応速度で回避しようとするJOKERの動きを、シーナがビームサーベルをクロスさせて強引に一瞬だけ押し止める。

「――今です!

カイトは腰部ラックから二本のビームブレードを引き抜き、一瞬で連結させて長大なビームナギナタへと変形させた。

「フェザー少尉、目を覚ましてください……!!」

音速を越える突進。

真紅の光条を纏ったブラックナイトが、JOKERのメインスラスターユニットと、ハッキング回路の接続されている頭部センサーを一刀両断した!

キィィィィンッ……!! ズババババァァァンッ!!

凄まじいプラズマの閃光とともに、JOKERの機体機能が強制シャットダウン。

中破した機体は、静かに重力に引かれて都市外縁の広場へと不時着していった。

静寂を取り戻した現場。

カイトはブラックナイトからいち早く飛び降り、中破したJOKERのコクピットハッチへと駆け寄った。

緊急レバーを引き出し、重いハッチを力任せにこじ開ける。

「……フェザー少尉!」

コクピットの中で、制服姿のままぐったりと意識を失っていた少女――羽木かぼちゃが、ゆっくりと目を開けた。

彼女の瞳を覆っていた虚ろな光は消え、いつもの静謐な琥珀色の瞳に戻っていた。

「……カイト……少尉……?」

「意識の覚醒を確認。……無事ですか、フェザー少尉」

フェザーは自分の手を見つめ、微かに震える声で呟いた。

「私……何を……。変なデータが脳内に流れ込んできて……貴方を……」

「もう大丈夫です。貴方の任務は終了しました」

カイトは手を差し伸べ、フェザーを優しくコクピットから引き揚げた。

その様子を少し離れた場所から見守っていたシーナは、ホッと息をつきながらも、どこか複雑そうな、けれど安心したような笑顔を浮かべていた。

戦火の中で交錯した少女たちの想いと、少年兵の強い意志。

アークフォース最大の危機は去ったが、彼らの物語は、さらなる深みへと進み出そうとしていた。

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