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英雄になるまでの旅路〜禁忌の森の少年、無能力の最強剣聖、嘘を見抜く転生者。3人の運命が交錯する〜王道群像ファンタジー!  作者: 皐月なる
9章「正義のヒーローみたいになりたいんだ!」【遠藤正義編】

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50/50

14話「俺は悪を絶対に許さない。」

昨日は遠藤正義編の11話を飛ばして投稿してしまったので…24時の投稿をしなかったです!すみません!


なので今日これが初投稿になります!

さぁいよいよブェルネンとの直接対決です!!ぜひ楽しんでください!!

 部屋の中を、何度目か分からないほど探し回っていた。


 棚の引き出しを開ける。布を一枚ずつめくる。父が使っていた道具箱の底まで確かめる。見落としがないよう、同じ場所をもう一度調べた。


 それでも、帳簿の写しは見つからなかった。


カナ「……どこにあるの、お父さん」


 声に出しても、答えは返ってこない。


 正義くんは、私の話を最後まで聞いてくれた。お父さんの死を、ただの事故だと決めつけなかった。私が話したことを信じて、危険があると分かっていても、守ると言ってくれた。


 あの言葉が、何度も頭の中で繰り返される。


 信じてくれた。守ると言ってくれた。


 だからこそ、私も何かを見つけなければならない。正義くんたちが動いてくれているのに、何も渡せないままではいたくなかった。


 机の下を覗き、床板の隙間を調べる。父が生前使っていた小箱も開けた。中に残っていたのは、古い針金と、使いかけの紐だけだった。


カナ「どこに隠したの……」


 廊下から、かすかな足音が聞こえた。


 振り返ると、母が戸口に立っていた。長いあいだ病床で過ごしている母は、壁に手を添えて身体を支えていた。少し歩いただけでも息が上がっている。私は慌てて駆け寄った。


カナ「お母さん! どうしたの? 寝てなきゃだめだよ」


エミー「少しだけなら大丈夫。それより……帳簿を探してるのね?」


*


 同じ頃、街の外れにある古い建物では、ブェルネンが机を指で叩いていた。


ブェルネン「失敗しただと?」


男B「す、すみません! あの男、見た目よりずっと強くて……」


男C「もうひとりも、逃げるので精いっぱいで……」


ブェルネン「役立たずどもが。こちらには時間がないと言っているだろう!」


 ブェルネンは椅子から立ち上がった。普段の穏やかな顔は、もうどこにもなかった。


ブェルネン「明日には帳簿を憲兵へ渡すと言っていた。あれを渡されたら、私の立場が危うくなる。今夜のうちに回収する」


男B「ですが、正義という男が……」


ブェルネン「黙れ」


 ブェルネンが部屋の奥へ顔を向けると、暗がりから何人もの男が姿を現した。壁際にいた者、奥の扉の向こうに控えていた者。数は次々に増え、部屋の空気が重くなる。


ブェルネン「お前たちは本当に使えないな。失敗の報告を聞くために呼んだわけじゃない。失敗したなら、次の手を打つ。それだけだ」


男C「ま、待ってください! 今度こそ――」


 男たちの声は、ブェルネンの合図で動いた者たちの足音にかき消された。続いて、短い悲鳴が響いた。しばらくして静けさが戻ると、ブェルネンは何事もなかったかのように机へ向き直った。


ブェルネン「まずはカナの店だ。あの娘と母親を押さえる。帳簿の写しを手に入れたら、遠藤正義、ドック、カナ、それに母親も始末する」


 口調は淡々としていた。まるで、荷物の順番を決めているだけのようだった。


ブェルネン「証拠さえ消えれば、何も残らん」


     *


 俺たちはカナの家へ向かっていた。


 ドックは先を急ぎたがっていたが、焦って走り回れば相手の動きを見落とす。俺は周囲を確かめながら、路地の角や建物の陰に目を配った。


正義「ブェルネンが追い詰められているなら、次はカナさんたちを狙う可能性がある。家に着いたら、まず無事を確かめよう」


ドック「ああ。分かってる。でも、あいつなら何をするか……」


 ドックは拳を握りしめた。父を殺した相手が、今度は妹と母に手を伸ばそうとしている。その想像だけで、怒りを抑えるのが難しいのだろう。


チャッピー「前方に複数の人影を確認したにゃ。こちらへ向かっているにゃ」


 俺は足を止めた。


 通りの先から、ブェルネンが歩いてくる。その後ろには、武器を持った男たちが続いていた。数人どころではない。道の両側、建物の陰にも人影がある。


ブェルネン「ああ、正義さんでしたかな? それにドックくん! こんばんは」


正義「ブェルネンさん、こんな夜遅くにお出かけですか?」


ブェルネン「ええ。探しているものを取り戻しに行くところでしてね」


正義「探しているもの、ですか」


 俺は鞄から、少し厚みのあるノートを取り出した。


正義「これのことですか?」


 ブェルネンの目が、ノートに吸い寄せられた。


ブェルネン「ほう。じゃあ、もうドックから聞いたんですね?」


ドック「全部話した。お前が親父を殺したこともな」


ブェルネン「困りましたねえ。恩を仇で返すとは、まさにこのことだ」


ドック「恩だと? 親父を殺して、家族を脅しておいて、よくそんなことが言えるな!」


正義「ドック、今は落ち着いて。話はあとで聞く」


 俺はブェルネンから目を離さず、ノートを持つ手を少し上げた。


正義「それにしても、ノート1冊を取り返すために、こんな人数を連れてきたんですか?」


 ブェルネンが小さく笑った。


ブェルネン「正義さんは頭が回る。だからこそ、侮れないのですよ」


 その言葉を合図にしたように、左右の路地や建物の陰から男たちが現れた。後ろにも人影が増えていく。


チャッピー「周辺を走査……敵性反応を確認。現時点で確認できる敵影は20人以上にゃ」


正義「20人以上か。なかなかの歓迎だな」


 ブェルネンは、ノートを見ながら言った。


ブェルネン「店へ行ったのですが、カナちゃんもお母さんもいなかった。そこで、あなたなら居場所を知っているかもしれないと思いましてね」


正義「カナさんたちなら、危険があるかもしれないから隠れてもらっています。ジムさんを殺した人間が追い詰められたら、何をするか分かりませんから」


 ブェルネンの口元がわずかに歪んだ。


ブェルネン「誤解ですよ。私は、あの家族を大切に思っている。帳簿を返していただければ、もう彼女たちには手を出しません」


 俺の視界の中で、ブェルネンの周囲に赤い光が浮かび上がった。


 嘘だ。


 この男は、カナたちを解放するつもりなどない。


正義「嘘がお上手ですね。ブェルネンさん」


 笑みを消さずに告げると、ブェルネンの目が細くなった。


ブェルネン「……何のことです?」


正義「さあ。自分で考えてみてください」


 俺はノートを持ったまま、ドックへ声を落とした。


正義「ドック、少し下がっていてくれ」


ドック「嫌だ。俺も戦う」


正義「気持ちは分かる。でも、相手は20人以上。全員が武器を持ってる。今は俺の動きを邪魔しないでほしい」


ドック「だけど……!」


正義「頼む。俺を信じてくれ。守るって言ったろ?」


 ドックは悔しそうに歯を食いしばった。それでも、1歩だけ後ろへ下がった。


 俺は前を向き、声を張り上げた。


正義「チャッピー!!!!」


 ペンを取り出し、軸をカチッと回す。


チャッピー「接続開始にゃ。端末同期……完了。マナ反応を確認。空中術式変換プロセスへ移行するにゃ」


 ペン先の周囲に、淡い光が走った。


チャッピー「術式変換……完了。入力待機状態にゃ」


正義「今度こそ周りに被害が出ないように頼むよ! チャッピー!」


チャッピー「任せろにゃ」


ブェルネン「何をしている! 全員、そいつを殺せ! ノートを奪え!」


 男たちが一斉に動いた。


 俺はペンを空中へ走らせた。日本語の「火」を書く。文字が空中に留まった瞬間、線がほどけるように組み替わり、ルナーテの術式へと変換されていった。文字の周囲に細い線が広がり、円と記号が重なり合う。空気が熱を帯び、術式の中心に赤い光が灯った。


正義「ロルフ先生との特訓の成果を見せてやる!!」


 術式が弾けた。


 炎が地面すれすれを走り、ブェルネンの前方で大きく広がった。狙いは人間そのものではない。進路を塞ぎ、武器を持つ手を引かせるための炎だ。熱風に押された男たちが足を止め、何人かは武器を取り落とした。


手下A「な、なんだこれ!!」


手下B「魔法か!? 魔法が使えるのか!!」


手下C「くそっ! 怯むな! ノートさえ奪い取れりゃ俺たちの勝ちだ!!」


 炎の壁を避けて回り込んだ男たちが、左右から迫ってきた。


チャッピー「術式の制御を継続中……ただし、敵全員の制圧は困難にゃ」


正義「上出来だよ!!」


 右から来た男の腕を外へ払い、手首を返して武器を落とさせる。


続けて、踏み込んできた相手の肩口を押し、勢いを殺さず地面へ転がした。



左の男が振り下ろした棍棒は、半歩引いてかわす。空振りした腕をつかみ、相手の重心が前へ流れたところで足を払った。


 別の男が背後から迫る。俺は振り向ききる前に足音で距離を測り、身体を低くして攻撃をかわした。



男の腕が頭上を通り過ぎる。脇へ踏み込んで肘を押さえ、関節を捻ると、男は呻いて膝をついた。


 ひとり、またひとりと、武器を奪い、動きを止める。大きく振りかぶる相手には懐へ入り、突き出された刃には正面からぶつからず、腕の軌道を逸らす。相手が倒れるたび、次の敵との距離を見て立ち位置を変えた。


 数で押される危険はある。だからこそ、囲まれたまま立ち止まらない。


空いた隙間へ抜け、複数人に同時に攻めさせない。


ドック「……なんだよ、あれ……」


 ドックは動けずにいた。俺が相手の腕をいなし、足を払い、武器を持った男を次々と地面へ沈めていく。


ひとつひとつの判断が速く、無駄が少ない。


最後の男が飛びかかってきた。

俺はその手首をつかみ、身体を半回転させて背中へ回り込む。男の腕を押さえたまま足を払うと、男は地面へ倒れ込んだ。


正義「……これで全員か?」


 荒い息を整えながら周囲を見回す。

武器を落とした者、地面にうずくまる者、炎を避けて動けずにいる者。

少なくとも、こちらへ向かってくる者はいない。


 そこで、俺は気づいた。


正義「……ブェルネンは?」


 さっきまで正面にいた男がいない。


 振り向いた瞬間、ドックの喉元に刃が当てられているのが見えた。


ブェルネンが、いつの間にかドックの背後へ回り込んでいた。手にしているのは、どこにでもあるような小さな料理用のナイフだった。


ブェルネン「いやはや、驚きましたよ。まさか、ここまで強いとは。先ほどの襲撃が失敗した理由も、これでよく分かりました」


正義「ドックを離せ」


ブェルネン「おやおや。ずいぶん怖い顔をするんですね。

それにドックくん、君は私に恩を返すどころか、こんな人間を連れてきた。恩知らずにもほどがあるでしょう?」


ドック「黙れ……!」


ドックは刃を避けようと動いたが、ブェルネンはナイフを喉元へ押しつけた。


ブェルネン「動かないほうがいい。君の父親と同じ目に遭いたくなければね」


 ドックの顔から血の気が引いた。それでも、彼はブェルネンを睨みつけた。


ブェルネン「君の父親は、死ぬ時に泣きながらこう言ったよ。『お願いだから家族には手を出さないでくれ』とな」


 ドックの目が見開かれた。


ブェルネン「哀れな男だった。もう少し君を甘やかしておけば、カナちゃんだって私のものになったかもしれないのに。

母親のほうは、夫を失ってすっかり心まで壊れてしまった。昔は、なかなか美しい人だったんだがね」


ドック「てめえ……!」


 ドックが身体を震わせた。怒りで、今にもブェルネンへ飛びかかりそうだった。


ブェルネン「おっと、忘れるところでした。正義さん、帳簿をこちらへ投げてください。そうすれば、この青年を解放してあげましょう」


 俺はブェルネンを睨んだ。ドックの喉元に刃がある以上、簡単には動けない。


正義「……分かった」


俺は鞄から、先ほど見せたノートを取り出した。わざと少し厚みのあるそれを、ブェルネンの足元へ投げる。


ブェルネン「ドックくん、拾いたまえ」


ドックは刃を突きつけられたまま、ゆっくりとかがんだ。ノートを拾い上げると、ブェルネンがその手から奪い取る。ページを開き、目を走らせた。


ブェルネン「……は? な、なんだこれは」


正義「数学のノートだ」


チャッピー「学校で使うやつにゃ」


正義「『数字がいっぱい書いてある紙』だろ?」


ブェルネンの顔が、みるみる歪んだ。


ブェルネン「ふざけるな……! どこに本物がある!」


その一瞬、ブェルネンの意識がノートへ向いた。


 ドックは全身をばねのように縮め、思いきり頭を跳ね上げた。額がブェルネンの顎を直撃する。


ブェルネン「ぐっ!」


 ブェルネンの身体がのけぞった。正面からチャッピーが飛びかかり、その胸元へ体当たりする。


チャッピー「隙ありにゃ」


 ブェルネンが体勢を崩した瞬間、俺は間合いを詰めていた。

拳を握り、全力で顔面へ叩き込む。鈍い音がして、ブェルネンは地面へ倒れた。

そのまま動かなくなる。


正義「ドック、怪我は?」


ドック「……大丈夫だ。助かった」


正義「よかった」


 俺はブェルネンの手からナイフを遠ざけ、ドックと一緒に距離を取った。

チャッピーは倒れたブェルネンのそばを警戒しながら、周囲を見回している。


チャッピー「周辺の敵影、戦闘継続不能を確認にゃ」


ドックはすぐに憲兵へ連絡した。

ほどなくして駆けつけた憲兵たちが、ブェルネンとその手下を拘束していった。


だが、ブェルネンは連行される直前になっても、諦めた様子を見せなかった。


ブェルネン「ふん……仕方がない。だが、もう終わりだ。帳簿がない以上、誰が何を言おうと証拠はない。ジムは私を脅そうとして、嘘をついていただけだ!」


 ブェルネンは、乾いた笑い声を上げた。


ブェルネン「証拠がないんだ! 何も証明できない! 私を裁くことなどできん!」


 その声を遮るように、通りの向こうから足音がした。


カナ「帳簿の写しなら、ここにある!!」


 俺たちが振り返ると、カナが立っていた。

腕に抱えているのは、泥にまみれた小さな箱だった。

息を切らし、頬には涙の跡が残っている。

それでも、カナは箱を胸に抱えたまま、ブェルネンを真っすぐに見ていた。


ブェルネン「はぁ? な、な、なんで君がそれを持っている!」


カナ「お母さんが守っていたの。お父さんが亡くなる前に、帳簿の写しをお母さんに託していたんだって」


 カナは箱を抱く腕に力を込めた。

声が震え、言葉が何度も途切れそうになる。

それでも、彼女は続けた。


カナ「お父さんは、もしもの時に私たちを守れるように、誰にも見つからない場所へ隠してほしいって頼んだの。

お父さんが亡くなったあと、お母さんは……お墓のそばに埋めたんだって」


 カナの目から涙が落ちた。


カナ「お母さんはずっと病気で、ほとんど起き上がれなかった。それでも、お父さんとの約束を守っていたの。

今日、私が帳簿を探しているって気づいて……もう隠し続ける時じゃないって、教えてくれた」


カナは箱の蓋に手をかけた。泥が乾きかけて、指先にこびりついている。


 父が母に託した時の声を、カナは思い出していた。


ジム「真実を知りたくなった時。

どうしても安全では居られなくなってしまった時。

この情報がきっと役立つはずだから。……迷惑かけるなぁ……すまねぇ……」


 父は、自分の身に何が起こるのか分かっていたのかもしれない。それでも、家族を守るために、母へ託したのだ。


カナ「お母さんは、ずっと苦しんでいた。お父さんがいなくなってから、心も身体も弱ってしまって……それでも、この約束だけは忘れなかった」


カナは涙を拭い、ブェルネンを見据えた。


カナ「ブェルネンさん! これであなたは終わりよ!!」


ブェルネン「くそっ……くっそ! くそ! くそ! くそ!! お、俺はもう終わりだあああ!」


 その取り乱し方は、先ほどまでの余裕ある態度とはまるで別人だった。ブェルネンは箱を見て、憲兵を見て、何かから逃げるように首を振った。


ドック「……なんだよ、あの反応」


正義「帳簿に、よほど知られたくないことが書かれているんだろうな」


 俺はカナの手にある箱を見つめた。ようやく、ジムさんが残した証拠にたどり着いた。これで終わる――そう思いたかった。


 けれど、ブェルネンの恐怖は、ただ自分が捕まることだけを恐れているようには見えなかった。


 この時、俺たちはまだ知らなかった。


 ブェルネンの背後には、さらに大きな闇が広がっていたことを。

お読み頂きありがとうございます!!

ブェルネンと決着!!

正義の勇姿を見届けてくれてありがとうございます!!

次は日曜日の24時に投稿します!!

待っててください!!

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