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第7話 狙って伸ばす

 4月2日。


 蒼太は町田Eランクゴブリンダンジョン管理施設に来ていた。


 昨日入ったFランクダンジョンの施設より少し広い。受付の向こうには装備レンタルの窓口が並び、その先にはダンジョンへ続く揺らぎが見えている。朝から出入りしている探索者の姿も多かった。


「結構広いな」


 受付を済ませ、昨日と同じように片手剣と撮影用ドローンを借りる。ドローンを起動して配信を開始すると、蒼太はスマホをポケットへしまった。


 もう用事はない。


 そのまま施設の奥へ進み、揺らぎの中へ入る。


 一瞬だけ身体が浮くような感覚がして、次に足元へ硬い石床の感触が戻った。


 中は昨日と同じ石造りだった。ただ、通路は少し広く、天井も高い。壁には淡い光が一定間隔で灯り、まっすぐ伸びた先でいくつか道が分かれている。


 蒼太は片手剣の柄へ手をかけ、そのまま奥へ進んだ。


 何度か曲がり角を抜けたところで、前方に小柄な人影が現れた。


 緑がかった肌。尖った耳。身長は一メートル半ほどで、腕は人間より少し長い。細身だが、肩から腕にかけてはしっかり筋肉がついている。


「いた!」


 ゴブリンもすぐに蒼太へ気づいた。


 低く濁った声を上げ、石床を蹴って一気に距離を詰めてくる。武器は持っていない。近づく勢いのまま、右腕を大きく振り上げた。


 蒼太は剣を抜く。


 拳が落ちてくる前に一歩踏み込み、そのまま横薙ぎに振った。


 ザシュッ!


 銀色の刃がゴブリンの胴を深く斬り抜けた。


 一瞬遅れて身体が横へ崩れ、そのまま淡い光へ変わる。


「一発でいけるじゃん!」


 スライムよりずっと大きい。それでも、剣を振った手にはまだ余裕が残っていた。


 床には、ゴブリンが消えたあとに魔石が一つ転がっている。


 蒼太はすぐに拾い上げた。


「おお、でかい!」


 昨日ずっと拾っていたスライムの魔石より、明らかに大きい。手のひらへ乗せると、その差が余計によく分かった。


 少し眺めてからリュックへ入れる。


 そこで、昨日とはもう一つ違うものがあることを思い出した。


「そうだ、レベルは?」


 蒼太はステータスを開く。


 青白い光が集まり、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。


━━━━━━━━━━━━━━

上山蒼太

Lv.19


HP 164

MP  80

筋力 47

耐久 45

敏捷 50

魔力 41


【スキル】

・超成長 Lv.1

・剣術 Lv.13

・走法 Lv.8

・持久力 Lv.7

・回避 Lv.4

・体術 Lv.3

・気配察知 Lv.2

━━━━━━━━━━━━━━


「おお、19!」


 昨日はレベル18になってからも、かなりの数のスライムを倒した。それでも数字は動かなかった。


 それが、ゴブリンは一体で上がっている。


 蒼太はもう一度Lv.19の表示を見てから、下へ視線を移した。


 そこで目が止まる。


「じゃあ、こっちもやってみるか」


 昨夜、蒼太はスキルの伸ばし方について調べていた。


 剣を使い続ければ剣術。走れば走法。攻撃を避ければ回避。対応する行動を重ねることで、関連するスキルを取得したり、すでに持っているスキルのレベルが上がったりすることは、探索者の間では定説になっている。


 ただ、何回やれば上がる、という決まった回数があるわけではない。個人差も大きく、なぜ行動がスキルへつながるのかまでは分かっていなかった。


 昨日の蒼太は、そんなことを考えずに一日中動き回っていた。それでも剣術も走法も、ほかのスキルも勝手に伸びている。


 今日は最初から、それを狙ってみる。


 蒼太はステータスを消し、次のゴブリンを探して歩き出した。


 少し進んだ先で、今度は向こうから声が聞こえた。


 曲がり角の先からゴブリンが飛び出してくる。蒼太を見るなり、そのまま走ってきた。


「よし」


 蒼太も剣を抜く。


 一体目と同じ横薙ぎなら、たぶんまた一発で終わる。


 だから今度は、少しだけ変えてみた。


 ゴブリンの拳が飛んでくる。


 蒼太は半歩だけ身体を外し、拳を横へ流すようにかわした。そのまま懐へ入る。いつもなら横から胴を斬るところを、剣先を低く落とした。


 次の瞬間、銀色の刃が下から跳ね上がる。


 シュッ!


 肩口から斜めに傷が走り、ゴブリンの身体が大きくのけぞった。


「おっ」


 思ったより、ずっと素直に動いた。


 剣を振り上げた勢いがそのまま腕に残っている。蒼太は止めずに手首を返した。


 体勢を戻したゴブリンが、怒ったような声を上げてもう一度腕を振る。


 その腕の外へ一歩。


 振り上げた剣が、そのまま上から落ちる。


 ザンッ!


 今度は肩から反対側の脇腹まで、刃が一気に抜けた。


 ゴブリンの動きが止まる。


 一拍遅れて身体が崩れ、淡い光へ変わっていった。


「おおっ!」


 蒼太はそのまま剣を持った手を見た。


 横から一発で斬った時とは、全然違う動きだった。


 それでも途中で剣が遅れることも、振られるような感覚もない。身体をずらして、斬り上げて、そのまま返す。考えた通りに剣が動いていた。


「これ、結構楽しいな」


 昨日は強くなるほど、一体を倒すまでの時間がどんどん短くなった。


 今は逆に、一体の相手でも試せることが増えている。


 蒼太は落ちた魔石を拾ってリュックへ入れ、そのままステータスを確認した。


━━━━━━━━━━━━━━

【スキル】

・剣術 Lv.14

━━━━━━━━━━━━━━


「上がった!」


 蒼太は少しだけその表示を見たままになった。


 昨日は伸ばし方なんて考えずに剣を振っていた。それでも剣術は上がった。


 今日は最初から狙って動いて、それでもちゃんと数字が変わった。


「マジか……」


 ウィンドウを消した直後、少し先の通路からまたゴブリンの声が聞こえた。


 蒼太はそちらを見る。


 今度は剣へ手を伸ばさなかった。


 代わりに、片手を軽く握る。


「次は体術やってみるか」

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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