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第5話 止まらない新人

 それでも蒼太はコメントを見ていなかった。


「ここまで増えても気づかないのかよ」


 海斗は笑いながら、そのまま配信を見続けた。


『もうかなり上まで来てる』

『朝上位にいたやつ抜かれてるじゃん』

『順位の上がり方おかしいだろ』

『本人ずっとスライム追ってるの笑う』


 海斗がランキングを開くたび、上山蒼太の名前は上へ移った。そして次に更新した時、指が止まった。


━━━━━━━━━━━━━━

【2026年度探索者レベルランキング】


1位 上山蒼太 Lv.12

配信タイトル:4月1日

同時視聴者数:11,381

━━━━━━━━━━━━━━


「……1位?」


 一度目を離しかけて、海斗はもう一度画面を見た。朝、見つけた時は120位だった。配信を見ていたのも二人だけだった。


 コメント欄が一気に流れていく。


『1位きたあああ!』

『マジで抜いたw』

『新人1位!!』

『朝120位だったやつだぞ』

『本人これ気づいてる?』


 配信画面では、蒼太がまた次のスライムを探して走っていた。


「マジかよ……」


 新人ランキングの一番上まで来ても、画面の数字はそこで止まらなかった。ランキングに表示されるレベルは少しずつ上がり、同時視聴者数も一万を越えたところからさらに増えていく。


 配信の中の蒼太も、朝とまったく同じではなかった。通路を走る足取りはさらに速くなり、スライムを見つけてから剣を振るまでの間も短くなっている。斬ったあとに魔石を拾い、次の相手へ向かうまでの動きにも、ほとんど引っかかりがなくなっていた。


『まだ上がってる』

『1位取ってもレベル伸びてんのかよ』

『こいつ今日どこまで行くんだ?』

『動きまた速くなってない?』


 海斗も、いつの間にか順位そのものより、次にどこまで伸びるのかを見るようになっていた。配信とランキングを行き来しているうちにも、同時視聴者数は増え続ける。


 その間にも投げ銭は流れていたが、しばらくして、ひときわ大きな金額が表示された。


━━━━━━━━━━━━━━

【投げ銭 100,000円】

新人1位おめでとう

━━━━━━━━━━━━━━


「十万!?」


『10万やば』

『一発で10万は羨ましい』

『本人また見てないぞw』

『これ気づいたらどんな顔すんだろ』


 蒼太は相変わらずスライムを探している。コメントにも投げ銭にも反応する様子はなく、その後も投げ銭の表示は途切れず流れていった。


 SNSの方も、もう海斗が最初に投稿した時とは違っていた。蒼太の名前を出す投稿、ランキングの画面を載せる投稿、スライムをほとんど足を止めずに斬っていく場面を切り取った短い動画。海斗の投稿を見た人間が広めている、という段階ではなく、別々の場所で見つけた人間がそれぞれ勝手に話題にしている。


『例の新人ここ?』

『今来た、何があった?』

『朝から見てるけどずっとスライム狩ってるだけ』

『それで1位なのが一番おかしい』


 同時視聴者数は二万人を越え、さらに増えていった。配信へ何か返す様子だけは朝から変わらないまま、蒼太は探索を続けている。


 夕方になって、海斗が何度目か分からないランキング確認をすると、上山蒼太の横に表示された数字がまた変わっていた。


「レベル18かよ」


『18!?』

『今日始めたばっかだぞ』

『まだFランクにいるのかよ』

『どこまで上がるんだこれ』


 そこで蒼太が足を止め、スマホを取り出した。


『やっと配信見る?』

『コメント気づいたか?』


 しかし、コメントに反応する様子はない。少し操作したあとスマホをしまい、今までスライムを探して走り回っていた時とは違う方向へ歩き出した。


『どこ行くんだ?』

『そっちボス部屋じゃね?』

『最後にボス行くのか』

『ここまで来たら見たい』


「マジ?」


 海斗は思わず身を起こした。石造りの通路を進んだ先には、それまでの場所にはなかった大きな両開きの石扉が見えてくる。


 蒼太が扉へ手をかけ、そのまま押し開ける。中は広い石造りの空間で、中央には一体だけ、これまでの個体より明らかに大きなスライムがいた。高さは一メートルほどある。


『でか』

『これがボス?』

『さすがに一撃は無理だろ』

『どれくらい通るんだろ』


 蒼太が中へ入ると、大きなスライムが跳ねてきた。そのまま踏み込み、剣を振る。刃が半透明の巨体を深く斬り裂き、スライムは床へ崩れた。身体が淡く光り、細かな光の粒へ変わって消えていく。


「……は?」


 コメント欄が一気に埋まった。


『一撃www』

『は???』

『ボスだぞ!?』

『マジで一発じゃん』

『今日始めた新人だよな?』

『これ切り抜き回るぞ』


 海斗がSNSを開くと、もう同じ場面を切り取った投稿がいくつも流れていた。


『新人ランキング1位、Fランクダンジョンのボスを一撃』

『今日探索者になった新人らしい』

『何のスキル持ってんだこれ』

『配信見ろ、今やばい』


「早すぎだろ……」


 配信へ戻ると、同時視聴者数の増え方まで変わっていた。三万人を越えたと思った直後にはもうその数字ではなく、更新するたびに何千人単位で増えていく。


 蒼太はいつものものより大きな魔石を拾い、部屋の奥にあった木箱へ向かっていた。蓋を開けて中の瓶を取り出している間も、コメントと投げ銭は止まらない。


 やがて部屋の端に青白い光が広がり、床の上に円が浮かび上がった。蒼太がその中へ入ると、配信画面からボス部屋の景色が消える。


 朝には二人しか見ていなかった配信が、十万人を越えていた。


 探索が終わったあと、海斗は今日のランキングを開いた。


━━━━━━━━━━━━━━

【本日の探索者同時視聴者数ランキング】


1位 上山蒼太

最高同時視聴者数 100,152人


【本日の探索者投げ銭ランキング】


1位 上山蒼太

投げ銭総額 1,517,938円

━━━━━━━━━━━━━━


「やば!」


 朝、ランキングの120位で見つけた新人の名前が、今は二つのランキングの一番上に並んでいた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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