第2話 超成長
スライムは蒼太から少し離れたところで、ぷるぷると身体を揺らしていた。
Fランクモンスターのスライム。新人探索者が最初に戦う相手としてよく知られていて、蒼太も今日ここへ来る前に倒し方の動画をいくつか見てきた。
蒼太は背負っていたリュックを壁際へ下ろし、剣を抜いた。両手で柄を握って近づくと、スライムが身体を縮め、そのまま床を蹴るように跳ねてくる。
「うおっ」
横へ避けてから剣を振り下ろす。刃はスライムの身体へ当たったが、柔らかい表面がぐにゃりとへこみ、そのまま横へ滑った。
「えっ」
もう一度。今度は横から振る。それでも刃が身体を押し潰すばかりで、思ったように入らない。体勢を戻す間にスライムが跳ねてきて、どん、と太ももへぶつかった。
一歩だけ下がる。痛くはない。
「むず……」
そこから何度か剣を振ったが、似たような結果が続いた。狙ったところへ当てるだけでも難しく、当たっても刃が滑る。スライムの体当たりも何度か受けたが、少し押される程度だった。
事前に見た動画では、剣を持った探索者が何度か攻撃するだけで簡単そうに倒していた。
「全然違うな……」
それでも攻撃がまったく効いていないわけではない。最初よりスライムの動きは鈍くなっている。
また剣を振った時、少し角度がずれた。刃ではなく平らな部分がまともに当たり、べちゃっ、とスライムの身体が大きく潰れる。
「あれ?」
戻りかけたスライムへ、今度は最初から刃を寝かせて振る。ばちん、と音がして、丸い身体が床の上を転がった。
「こっちの方がいいのか!」
そこからは斬るのをやめた。跳ねてくるのを避けながら、剣の腹で叩く。何度か繰り返すと、スライムは床へ潰れたまま動かなくなった。
半透明の身体が淡く光り、その端から細かな光の粒へ変わっていく。数秒後、そこには小さな魔石だけが残っていた。
「お、魔石」
淡い青色をした、小さな半透明の石だった。丸いわけでも四角いわけでもなく、少し角ばった小石のような形をしている。光にかざすと、奥の方がわずかに透けた。
「おお……綺麗だな」
蒼太は魔石をリュックへ入れた。
この大きさのスライムの魔石なら、買い取り価格は10円前後だったはずだ。
「10円か……」
そのまま壁に背を預けるようにして、床へ座り込んだ。
「いや、疲れた……」
腕が重い。息も少し上がっている。
「スライム一体でこんなきついのか」
蒼太が今まで見てきた探索者たちは、魔法を撃ったり、巨大なモンスターを剣の一撃で倒したりしていた。ああいう姿に憧れてきたぶん、実際に自分でやってみるとだいぶ違う。
「なんか、思ってたのと違うな……」
少し休んでから立ち上がり、そこでふと思い出す。
「そうだ、ステータス」
青白い光が集まり、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。
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上山蒼太
Lv.4
HP 112
MP 30
筋力 16
耐久 15
敏捷 17
魔力 14
【スキル】
・超成長 Lv.1
・剣術 Lv.3
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「え、レベル4!?」
思わず一歩前へ出る。さっき見た時は、間違いなくLv.1だった。
その下の数字も全部増えている。HPもMPも、筋力も耐久も敏捷も魔力も上がっていた。
「なんだこれ……」
視線を下へ動かして、そこでまた止まった。
「剣術? ……って、レベル3!?」
さっきまでなかったスキルが増えている。それだけでも驚くのに、覚えたばかりの剣術がいきなりレベル3になっていた。
スライムを一体倒しただけだ。
蒼太はもう一度、レベル4の表示を見る。それから剣術 Lv.3、最後に超成長 Lv.1へ視線を移した。
「これ、めちゃくちゃ当たりなんじゃ……!」
さっきまでの疲れが少しどうでもよくなった。
蒼太はウィンドウから意識を外すと、すぐにリュックを背負った。そのまま通路の先へ走り出す。
少し先で、半透明の身体が跳ねた。
「あ、いた!」
二体目のスライムが身体を縮め、こちらへ跳んでくる。
蒼太は横へ避けると、そのまま剣を振った。
ばちん、と剣の腹がまともに入る。
スライムの身体が大きく潰れ、そのまま光の粒へ変わった。
「えっ……一発!?」
思わず剣を見る。さっきまであれだけ苦労していた相手が、一撃で消えた。
「マジか!」
落ちた魔石を拾ってリュックへ入れると、蒼太はすぐにステータスを確認した。
表示の一番上を見る。
Lv.5。
「上がってる!」
一体目だけじゃない。二体目を倒しても、本当にまたレベルが上がった。
「すげえ……!」
蒼太はすぐにステータスを消した。
そのあともスライムを探し、三体目、四体目と続けて倒していった。もう最初のように剣が滑って困ることはなく、見つければ迷わず剣の腹を叩き込む。
五体目のスライムも、剣の腹を受けるとそのまま光の粒になって消えた。
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