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第18話 フィールドボス

 4月5日。


 蒼太は空間拡張テントのベッドで目を覚ました。


 ダンジョンの中だということを一瞬忘れそうになるくらい、よく眠れた。顔を洗って朝食を済ませると、外へ出る。


 入口の近くでは、昨日置いていったドローンが待っていた。蒼太は空間拡張テントを片づけ、モンスター避け装置も止めてアイテムバッグへ戻す。


「じゃあ、行くか」


 剣を取り出し、また通路の奥へ向かった。


 昨日一日で、通常のオークとの戦いにはかなり慣れていた。


 振り下ろされる拳を横へかわし、そのまま胴へ剣を入れる。二体目は盾で腕を外へ流して斬り、少し離れた三体目には火球を当てた。風も、細く集めるまでの時間が昨日より短くなっている。


 朝から何十体と倒して進んでも、最初の頃のように一体ごとに足を止めることはなくなっていた。


 かなり奥まで進んだ頃、蒼太は曲がり角の手前で足を止めた。


 重い音がする。いつものオークより、一つ一つの足音が明らかに大きい。


 壁際から先を覗く。


「……でか」


 通路の先にいたのはオークだった。


 ただし、これまで何十体も見てきたものとは明らかに違う。もともと大柄なオークよりさらに大きく、肩も腕も一回り以上太い。身体を覆う筋肉も、同じ種類とは思えないほど盛り上がっていた。


 蒼太は少しだけ身を引いた。


「これ、フィールドボスじゃないか?」


 ダンジョンでは、ごくまれに通常のモンスターとは比べものにならないほど強い個体が現れることがある。探索者からフィールドボスと呼ばれる存在で、ダンジョンの奥にいる正式なボスとは別物だった。


 個体によっては、そのダンジョンのボス以上に危険なこともある。見つけた探索者は無理に戦わず、距離を取って報告するのが普通だ。


 ドローンのコメント表示が一気に流れた。


『それフィールドボスじゃね?』

『近づくな』

『報告して戻れ!』

『さすがにやめとけ』

『逃げた方がいい』


 蒼太もそれは知っていた。


 けれど、目の前の巨体から視線が離れない。


 ステータスを開く。昨日の昼に見た時から、数字はさらに伸びていた。


「……どれくらいやれるんだろ」


 すぐ倒せるとは思わない。それでも、今の自分がどこまで通じるのかは試してみたかった。


 蒼太はステータスを閉じ、剣を抜いた。


『行くの!?』

『やめとけって!』

『マジで逃げろ』


 フィールドボスのオークがこちらを向いた。


 低い唸り声を上げ、地面を蹴る。


「速っ!」


 通常のオークより速い。それでも、見えないほどではなかった。


 蒼太は横へ跳び、振り下ろされた拳をかわす。石床へ拳が叩きつけられ、重い音が通路へ響いた。


 その横を抜けながら、脇腹へ剣を振る。


 ザシュッ!


 刃は入った。けれど浅い。


「硬っ」


 オークが振り向くより先に背後へ回り、もう一度斬る。今度は肩へ当たったが、やはりいつものオークほど深く入らない。


 太い腕が横から飛んでくる。


 蒼太は身体を沈めて避け、そのまま距離を取った。


 少なくとも速さでは、蒼太の方が動けていた。問題は、攻撃が思ったほど通らないことだった。


 蒼太は剣を持ったままアイテムバッグへ手を伸ばし、杖を取り出す。


「ファイヤーボール!」


 赤い火球が飛び、オークの胸へ直撃した。


 ボンッ! 炎が広がる。


「当たった!」


 だが、火の中から巨体がそのまま出てきた。


「うそだろ」


 蒼太は横へ走りながら、今度は風を細く集める。腕を振り上げたオークへ向けて放つと、鋭い音と一緒に肩へ一本の傷が走った。


 それでも浅い。オークが一気に距離を詰めた。


 蒼太は剣をしまい、盾を前へ出す。これまでのオークと同じように、正面から受けず外へ流すつもりだった。


 拳が盾へぶつかる。


 ドンッ!!


「ぐっ!」


 流しきれなかった。盾ごと腕が押し込まれ、身体が床から浮く。蒼太は数メートル後ろへ飛ばされ、石床へ背中から落ちた。


「っ……いてぇ」


 左腕が痺れている。すぐに起き上がると、もうオークがこちらへ走ってきていた。


 蒼太は横へ飛ぶ。さっきまでいた場所へ拳が落ち、床へ重い音が響いた。


 剣なら当てられる。火も風も当たる。でも、倒すところまで届かない。もう一発まともにもらえば、今度はさっきでは済まないかもしれない。


「……今は無理だな」


 蒼太はオークへ背を向けて走った。


 後ろから足音が追ってくる。何度か曲がり角を抜け、さらに速度を上げると、少しずつ音が遠ざかっていった。それでもしばらく止まらず走り続け、完全に足音が聞こえなくなったところでようやく足を止めた。


 壁へ片手をつき、息を整える。盾を持っていた左腕には、まだ鈍い痺れが残っていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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