第五話:誰のものでもない光
戦いは終わった。
天界は消えた。
魔界もまた、役目を終えたかのように静まり返る。
かつて絶え間なく響いていた嘆きも、
怒号も、
祈りすらも――
もう、どこにもない。
あるのはただ、静寂。
すべてが出し尽くされた後の、
空白だけだった。
瓦礫のように残るのは、
崩壊した“秩序”の名残。
だがそれは、もはや意味を持たない。
基準は消えた。
選別は消えた。
救いという概念すら、
どこにも存在しない。
ただ――存在だけが、残っている。
「……終わったのか」
誰かが呟く。
それが誰なのか、
もはや分からない。
境界は消えている。
魔であるのか、
元天使であるのか――
その違いすら、意味を持たない。
そのとき、誰かが静かに言った。
「サタンは……王にならなかった」
ざわめきは起きない。
だが、その言葉は確かに広がる。
サタンの目的は天界の支配ではなく、「救いの独占を終わらせること」だった。
だからこそ――
天界崩壊後、サタンは王座につかず姿を消し、空には“誰のものでもない光”だけが残った。
支配者はいない。
導く者もいない。
裁く者も、もう存在しない。
「これで……よかったのか」
問いは、宙に消える。
答える者はいない。
復讐は果たされた。
奪われたものは壊された。
だが――
満たされた者は、いなかった。
怒りは燃え尽き、
憎しみは行き場を失い、
残ったのは、
何も望まない存在たち。
それは“自由”だった。
だが同時に、
“意味の喪失”でもあった。
王座は空のまま。
誰も座らない。
座ろうとする理由が、
もう存在しないからだ。
ひとつの存在が、空を見上げる。
そこには――
かつてのような“管理された光”はない。
選ばれた者だけを照らす光でもない。
ただ広がっている。
境界もなく、
意図もなく、
意味すら持たない光。
――誰のものでもない光。
「……これが」
小さな声。
「世界か」
沈黙が答えだった。
だが、それでよかった。
答えがないことを、
初めて許されたからだ。
何をしてもいい。
何もしなくてもいい。
どこへ行ってもいい。
どこにも行かなくてもいい。
選ばれないまま、
存在していい。
それは救いか。
それとも、ただの光か。
もう、それを決める者はいない。
風が吹く。
光は揺れない。
ただそこにある。
永遠に近い静寂の中で――
新しい世界は、
音もなく始まっていた。




