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翼の折れたエンジェル ~祈りが届かなかった者たちの反撃~  作者: レモンティー


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第三話:魔界の始まり

地の底に、彼は新たな世界を築いた。

光は届かない。

だが、闇もまた完全ではない。

そこは、捨てられたものが沈む場所だった。

救われなかった者たち。

祈りが届かなかった者たち。

見捨てられ、忘れられ、名前すら失った魂。

それらは、引き寄せられるように集まっていく。

理由は単純だった。

“呼ばれている”からだ。

最初に現れたのは、人間の魂だった。

「……ここは、どこだ」

ぼろぼろに擦り切れた存在が、闇の中で呟く。

だが、それだけではなかった。

やがて――

「……また落とされたのか」

翼の残骸を引きずる存在が現れる。

天界から追放された者。

秩序に適合できなかった天使。

その目には、光への未練と、消えない疑問が残っていた。

さらに――

「ケケ……やっと“下”に来れたか」

歪んだ笑い声とともに現れる影。

人に恐れられ、“悪魔”と呼ばれていた存在。

だがその正体は、ただ歪められ、拒絶され続けた意志の塊だった。

そして――

「……俺たちは、最初から救われる側じゃなかった」

静かに現れる者たち。

生まれながらにして選ばれなかった者。

祈ることすら許されなかった者。

救いの“対象外”として処理され続けてきた存在。

種も、過去も、理由も違う。

だが共通しているものは一つだけだった。

――救われなかったこと。

「ここは……地獄か?」

誰かが問う。

その時――

「違う」

低く、静かな声が響いた。

闇の奥から、一つの影が現れる。

かつて光に属していた存在。

だが今は、そのどこにも属さない者。

サタン。

「ここは――落ちた者の場所だ」

ざわめきが広がる。

「落ちた……?」

「見捨てられたってことか……?」

「俺たちは……全部、同じなのか……?」

サタンは否定しない。

「お前たちは、選ばれなかった」

その言葉に、怒号が爆発する。

「ふざけるな!」

「俺は祈った!」

「何が違ったんだ!」

翼を失った者も、歪んだ者も、人も。

すべてが同じように叫ぶ。

だが――

「知る必要はない」

その一言で、全てが止まった。

「理由に意味はない」

静かに、だが断定的に告げる。

「選ばれるか、選ばれないか。それだけだ」

沈黙。

それは残酷な真実だった。

だが同時に――

初めて共有された“平等”でもあった。

「……じゃあ、どうすればいい」

誰かが問う。

サタンはゆっくりと周囲を見渡す。

人間。

元天使。

悪魔と呼ばれた存在。

すべてが混在している。

「ならば、ここで救う」

ざわめきが止まる。

「ここで……?」

「天界に戻る必要はない」

その声は揺るがない。

「認められる必要もない」

闇の中心で、彼は言った。

「救いは、上から与えられるものじゃない」

一拍。

「自分たちで作るものだ」

その瞬間――

空気が変わる。

絶望が、ただの終わりではなくなる。

「絶望は、力になる」

サタンの手に、黒い光が灯る。

「嘆きは、形になる」

その光が広がる。

折れた翼が、別の形で再構築される。

歪んだ存在が、力として安定する。

消えかけていた魂が、再び輪郭を得る。

「立て」

短い言葉。

だが、それで十分だった。


炎をまとい、ゆっくりと歩み出る影。

――イブリース。

その目は、かつて天を見ていた者のそれ。

だが今は、完全に別の理を見ている。

「ここが、新しい舞台か」

続いて、

風と疫を引き連れる異形が降り立つ。

――パズス。

「……下も悪くない」

さらに、

圧倒的な“王の気配”を持つ存在が現れる。

――バエル。

周囲の空気が、自然とひれ伏す。

「ほう……面白い」

欲望そのものを纏う存在。

――アスモダイ。

「ここは“許される”場所か?」

影のように現れる、静かな悪意。

――ベリアル。

「……選別なき世界、か」

血と供物の記憶を背負う存在。

――モロク。

「ならば価値は“力”のみだな」

星のように冷たい知性。

――アスタロート。

「理は崩れ、新たに組み直される」

そして――

無数の羽音とともに現れる群れ。

腐敗と増殖の象徴。

――ベルゼブブ。

「……いいことだ」

彼らは“落ちた”のではない。

“選び直して、ここへ来た”。

強大な存在たちが、

次々と、

サタンの前へと集まっていく。

円を描くように。

中心を定めるように。

一人が立つ。

また一人が立つ。

やがて――

すべてが立ち上がる。

「……ここが、俺たちの場所か」

沈黙。

その中で――

誰も跪かない。

誰も従うとは言わない。

だが、

誰一人として、

背を向けなかった。

アスタロートが静かに言う。

「中心は、すでに定まっている」

ベルゼブブが低く嗤う。

「群れは中心を持つものだ」

そして――

ベリアルが呟く。

「……否定する理由がない」

その瞬間。

見えない“合意”が成立した。

支配ではない。

契約でもない。

だが確かに、

この場にいるすべてが理解した。

――中心は、サタンであると。

サタンは、ただ一言だけ告げる。

「条件は一つ」

静寂。

「救われなかった者であること」

それだけでいい。

“見捨てられた”という事実だけが、ここでは意味を持つ。

「ならば、ここで救う」

その言葉は誓いではない。

慈悲でもない。

復讐でもない。

「これは――是正だ」

イブリースが笑う。

「いいだろう」

バエルが頷く。

「単純でいい」

アスモダイが楽しげに言う。

「ならば欲望も、罪も、否定されない」

すべてが、そこに“在ること”を許される。

サタンは続ける。

「救いは、上から与えられるものではない」

闇が震える。

「自分たちで作るものだ」

その言葉と同時に――

世界が形を持ち始める。

絶望が力へ変わる。

嘆きが構造になる。

すべての存在が、

“役割”ではなく、として確立していく。

魔界――

それは、

落ちた者の終着点ではない。

選ばれなかった者たちが、自らの手で“選び直す”世界。


魔界。

闇の中で、無数の光が灯る。

弱く、不完全な光。

だが――消えない光。

誰かが呟く。

「……王だ」

その言葉は、静かに広がる。

「俺たちをまとめる存在」

「ここを作った存在」

「この世界の核」

「なら――」

誰かが、はっきりと言った。

「魔王だ」

その呼び名は、自然に定着していく。

誰かが決めたわけではない。

だが、全員が理解していた。

この世界の中心にいる存在。

すべての絶望を受け止め、

それを力へと変えた者。

サタン。

その名はやがて――

畏れとともに、こう呼ばれるようになる。

――魔王。

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