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16-2:会議

 朝食が終われば、さっそく私達はゼファーの実家──つまりは村長のシーラスの家へ向かった。

 ちなみにレインとクウは道中で出会った村の子供達と遊んでもらっている。もちろんブルースカイ領兵団から二人、護衛をつけてね。


 シーラスの家では魔物調査についての会議が行われる。参加者は私とクラウドとブルースカイ領領兵団を複数人、ゼファー、シーラスを始めとするアズールウッド自衛団だ。

 まずは周辺地図を広げた大きなテーブルを皆で囲んで、自衛団が集めた情報を確認しあっていくのだ。

 

「さっそくですが、魔物調査についての現状です。我がアズールウッドを囲むグリム大森林で最近これらの魔物達の動きが活発になっております。夜は森から魔物の遠吠えが鳴りやまない日が七日に一度ほどあり、糞や足跡などの痕跡が増えているのです。それに爪痕も……。幸い村の近辺には痕跡は見つかっておりませんし、家畜などにも影響はありませんが明らかに大量発生の前兆かと」

「ふむ……」


 村長の報告に私は眉をひそめる。

 おじい様が言っていた通り、魔物の糞や足跡、爪痕などの魔物の痕跡が明らかに増えるのは大量発生の前兆だ。この周辺に主に生息しているのはアズールウルフとゴブリン、コボルト、グリムベアの四種類。アズールウルフは発情期になると遠吠えをする習性があるけれど、発情期の時期でもないのにどうして今動きが活発になってきているのだろうか。


 それに自衛団達が集めた痕跡を確認しても、特定の魔物だけではなく四種類ともそれぞれの動きが活発化しているみたい。

 すべての魔物が同時に異変を起こすなんてなかなかあることじゃないけれど、森で何か予期せぬ異変が起きているのかしら?


「それで明日の調査なのですが、まだ調べていない村の南側を調べようかと思いますがいかがでしょうか?」

「賛成よ。アズールウッドの南側は湖が点在しているから魔物が繁殖しやすいしね。なにか証拠があるかもしれない。私も実際にこの目で確認したいわ」

「それでは一つご提案が。明日の魔物調査でクレア様に同行するのは森の地理に詳しい村の自衛団を、と考えております。その方が移動効率が段違いですし、いくつか目星をつけているのでスムーズにご案内できます」

「それはありがたいけれど、村の護衛はどうするの?」

「クラウドの領兵団にお任せしたいと考えております。ブルースカイ領最大戦力であるクラウドが村を守ってくれていると思えば安心して調査に赴くことができますから」


 ゼファーの提案を聞いて、私はクラウドに目を向ける。


「クラウドはどう思う?」

「俺は――クレアと同行する。村の護衛には俺の団の兵士をすべて置いていく。俺だけでもいいからクレアに同行させてくれ」


 クラウドの意見に意義を唱えたのはゼファーだ。


「クラウド。君の団の兵士がとても優秀なのは知っているさ。なにせブルースカイ領全体を守る歴戦の兵士達だからね。だが君がいてくれた方がより安心できるんだ。それに正直魔物調査ではできるだけ目立たないように動きたい。君はとても身長が高いし、目立つだろう?」

「ダメだ。俺も同行する」

「クラウド?」


 クラウドはゼファーを睨みつける。ゼファーは困ったように眉を下げた。

 私は少し考えて、ゼファーの提案に賛成する。


「クラウド、私としてもあなたには村にいてほしいわ。レインとクウのこともあるでしょう?」

「……!」


 私は言葉を濁しつつ、レインとクウを守ってほしいと頼んだ。

 複数魔力を持つレインと神獣であるクウ。子供であるけれど大きな魔力を秘めた二人をこの村に置いていきたくはないというのが本音だ。しかし、かといって魔物調査に連れていくわけにもいかない。それならばクラウドに守ってもらった方が私だって安心する。


「ブルースカイ領に帰ってから私だって鍛錬をし直しているのよ。学生時代ほどではないけれど、少しずつ動けるようになってきているはず。同行してくれるゼファーも優秀な魔法の使い手よ。だから私の心配はしないで。大丈夫よ」

「そうか……」


 クラウドはなにか言いたそうだったが諦めたように口を閉じた。「分かった」と小さく言い残し、そのままずっと会議中は黙っていた。

 私はそんな彼を見て、何故かゾワリと胸騒ぎがした。私の判断は間違っている? そんな不安がよぎったのだ。



 

***


 


 結局。明日の魔物調査は、村の自衛団と共に行くことになった。クラウド達ブルースカイ領領兵団は村の護衛をしてもらう。

 会議が終わる頃にはすっかり日は沈んでいた。レインとクウと合流してゼファーの家に帰ると、夕食の食卓には明日の調査のためにと村の女性達が作ってくれたたくさんの料理が運ばれてくる。

 

「クレア様、たんと食べてください! 明日は過酷な調査になるかもしれませんから」

「気を遣ってくれてありがとう、ゼファー」

「とっても美味しいです、お母さん」


 もぐもぐ料理を口に頬張るレイン。出会った当初のやせ細った彼を思い出せば、その様子はどこか感慨深いものになる。


 ……そうよね、こんなに私達を気遣ってくれて、快く料理もたくさん作ってくれるこのアズールウッドの人たちは悪い人達じゃないのよね。

 でもやっぱり彼らのクラウドへの態度はどうしても許せない。


 いくらクラウドの黒い髪に真紅の瞳が珍しいからって、クラウドが尋常ではない身体能力を持っているからって、どうしてその優しさを彼に向けてくれなかったの? 神獣を祀るこの村の人々が異質なクラウドを忌避するのは理解できるけれど、それは幼い子供に虐待していい理由にはならないはずだ。

 いつかアズールウッドの人々にもクラウドの優しさが伝わればいいのに。

 

「そういえばレイン、村の子供達と仲良くなれた?」

「はい。皆よくしてくれます。たくさんの子と友達になれました」

「そう……」


 会議が終わってからレインと子供達が遊んでいる様子を少しだけ見ていたけど、村の女の子がみんなレインを見て顔を赤らめていたことを思い出す。

 レインはとっても顔が整っているし、性格も素直で優しいから女の子にモテモテなのも当然ね。

 今でも十分魅力的だというのにこのままレインが大きくなって魔法学園に入学するものならもっとすごいことになりそう。


 ……レインはいつか心に決めた女性を見つけて、自立するのかしら。そう思うとまだまだ先のことだと分かっていても寂しさを覚える。


「お母さん?」


 フォークを持つ手を止めてぼんやりする私をキョトンと見上げるレイン。「なんでもないわ」と答え、彼の口元についていた食べかすを拭いてあげた。

 その後、お腹が膨れるまで私達は食事を続けた。


 でも最後まで夕食にクラウドは現れなかった。会議中の口をつぐむ彼の姿を思い出す。

 レインが眠ったら、残った食事を持って彼を探しに行ってみよう。

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