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やっと待ち望んだ春になった。この冬はある意味、私にとって試練の冬だった。まだ神殿にも入っていないのに。それでも私はしっかりお世話になった侯爵家の人々に挨拶をして、5歳、20代、50代の男共に泣きつかれもしたが、速やかに神殿に向かう馬車に乗り込んだ。
私にもう1人、妹がいることは侯爵夫人にも吹き込んでおいたから大丈夫だろう。
妹は10歳で金髪だが瞳はエメラルドグリーンだ。まあ私の水色の瞳とは多少の誤差のうちだろう。妹が上手く彼らに取り入れば、婿も持参金も侯爵家が提供してくれるはず。妹には心の中で「頑張れ!」という励ましの丸投げを送っておく。
そもそも私は神殿に入り、しばらく外界から離れるのだから何もできないのだ。女神様、妹をよろしくお願いします。
王都の大神殿は中心地から少し離れた小高い丘の上にある。主に聖女様や大神官様方がお住まいになる神殿の総本山である。
神殿の正面には大きな広場があり、最初の建物には大ホールがあって、そこまでは貴族も一般市民も入ることができる。神殿の大ホールでは神官様と共に祈り、有難い説法を聞いたり、治癒を施してもらったりする場があり、広く民衆に開放されている。
地域の神殿でもできるのだが、やはり聖女様や大神官様がおられるというだけで、わざわざ地方から王都まで祈りに来る人も多い。聖女様のお仕事は神官様とは違って人の前に出てくることは少なく、神殿の奥で結界を張ったり、瘴気の浄化や作物の豊穣、天候の安定、人々の健康を祈り、聖女の魔法で平和を維持しているのだという。
なぜ聖女様が、これほどの魔法がこなせるのかというと、これは人々の信仰心が膨大な聖女様への魔力に繋がっていると言われている。
神官様も、もちろん回復などの魔法は使えるが、人々からの信仰心を集めるのが仕事の大部分なのである。
この国の神様は女神様だ。女神様が心の清い少女に神の力を与え、民の信仰心を魔法に変える手助けをしている。女神様が少女1人に与える神の力が約10年持続するので任期が10年となっている。聖女としての実働は8年だ。残りの2年は聖女の候補期間である。しかし何があるか分からない。
実際10年未満の任期の聖女も10年以上務めた聖女もいるのだそうだ。この内容は貴族は常識として小さい頃から学ばされるし、平民もほとんどが知っていることである。それゆえ国民は皆、女神様に大なり小なり信仰心を持っている。
まるで裏方のような聖女様だが、月に一度は神殿の広場のバルコニーに尊いお姿をお見せになる。そして年に一度の秋の収穫祭は王都を挙げてのお祭りで、聖女様が主役だ。誰もが聖女様に会える機会をとても大事にしていて、たくさんの人が一目聖女様の姿を見ようと集まって来る。それは当然だ。
女神様に選ばれる方なのだもの。私だって子爵家から出て王都に来る機会があれば、ぜひお目にかかりたいと思っていた。
そんな人の侍女になれるのだ。大神殿の前に着く頃には、もう感動で胸が一杯だった。やっとマリベルは女神様のお膝元に参りましたよ。