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夕暮れ時の今、私は一仕事終えられた小侯爵のアイオット様とご長男様と共に木刀を振って心頭滅却中〜ってそれは私だけだ。
お二人は普段の鍛錬中だ。それにしても晩秋の冷たい風が身に心地良い。
「マリベル、聖女様の侍女になるんじゃなかったのかい?」
もう何度も鍛錬に参加しているマリベルに、アイオット様が当然の疑問をぶつけてくる。
「そうなのですが…邪念を払いたくて」と言うと「僕はマリィちゃんと鍛錬できて嬉しいよ」と言ってくれるご長男様の笑顔が眩しい!これも参加の理由だ。
お陰で邪念の浄化が早まってありがたい。
「マリィは聖女候補の侍女に決まったんだもんな。もしかして、そのせいで母と妻に何か吹き込まれたんだろう?あの二人は確か以前、聖騎士が主人公の物語や観劇にハマっていたからね」
困り顔でアイオット様が言う。
「聖騎士様よりも近衛騎士様の方がカッコいいんだぞーっ」
と仰るご長男様の、木刀を持つ手に力が入るのと同時に「家に妖精が来てるって?!」と飛び込んで来た男がいた。
「お前、何ヶ月振りに帰ってきたの?」というアイオット様を華麗にスルーして「おぉ!俺の妖精マリィ!」と、いきなりやって来たその男は、私の振る木刀を軽々片手で払って私を抱きしめてきた。
彼はアイオット様の弟で侯爵家、次男のライオット様だ。
そう言えばこのお方、近衛騎士で王太子殿下の護衛の隊長様だったかも。
気付いたらマリベルは、次男様に抱き込まれていただけでなく頭に頬擦りまでされている。
「ヤバーい、王女様より可愛くね?」
「いやいやヤバいのは、次男様の発言と言葉遣いですよ!」
という言葉をマリベルは飲み込んだが、アイオット様がマリベルの言葉をしっかり代弁して言ってくれ、安心する。
だが頬擦り攻撃は、まだ終わらない。
「マリベルは聖女候補の侍女に決まってね。春から大神殿に行くんだよ」
夕食後のお茶の席でアイオット様が次男のライオット様に説明した。ちなみに私はあれからも、なぜかずっと次男様の膝の上に抱えられ頭を撫でられている。せっかく鍛錬で払っていたドス黒い邪念が次男のせいで再び湧きまくっている。
どーしてくれるんだ!
「嫌だよぉマリィ」
「えっ嫌とかじゃないからね?」
とアイオット様が言って下さったけど、横から「僕もイヤー」「わしもイヤー」と5歳児と50歳児が立て続けに叫び出したので、私も「嫌だ」と叫びたくなった時、侯爵夫人が次男様に「あなた何で帰って来たの?」と嫌そうに聞いていた。
気持ち分かるけど…家族なんじゃないんですか?
次男のライオット様は、普段は王太子殿下のところに直ぐに駆けつけられるよう、王城の一室に住んでいるそうだ。
「父上が城に来た時、我が家に妖精がいるって自慢してきたんだよ。俺も癒しが欲しい。は〜癒される」
彼はまた私の頭への頬擦り攻撃を再開させた。
「えっ王太子殿下は放って来て大丈夫なの?」
もう、まともな男性はアイオット様、あなたしかいないのかも。
「春まで有給を入れる。もう何年も休んでないからな」
それは確かに可哀想だ。だけど何のため?
「へー楽しそう、三男も隣国から呼ぶ?」とお姉様。
侯爵家、三男のエリオット様は外交官として、今は外国にいらっしゃる。
「そうねぇ。でもいきなりは無理じゃないかしら?」
「やっぱそうだよなーワッハッハ」
と笑い合う侯爵家の人達。
「じゃあさ領地の爺様、婆様は呼べば来るんじゃない?」
いや待て!なんで私ごときに一族全員集まろうとするのだ?これ以上はカオスじゃない!確かに私の祖父母でもあるのだけど。
何もかもヤメて欲しい!と表情に出まくっているのに、次男の頭への頬擦り攻撃は継続中だし、マリベルは無の境地を必死で保つ。
そこは侍女としての忍耐が培えたのか?!
私よ!ポジティブシンキングで乗り越えろ!でも心の声も、口も侯爵家に来て間違いなく悪くなったと思う。
女神様、マリベルの試練はすでに始まっているのでしょうか?




