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水色のベルと緑色のベル  作者: 朱井笑美


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 それは20年近く前の話。

「ベル」と呼ばれて振り返ると、「はい」と鈴の鳴るような可愛らしい声が横から聞こえて、1人の少女も振り返っていた。


 ベルと呼んだのは僕の友人だった。だから彼女が返事をしたことに、彼も驚いていたけど、彼女も戸惑った顔をしていたから、

「君もベルなのかい?」と聞いたら「クララベルと申します」とニコッと笑った。

 その時、淡い金髪が陽の光に反射して、大きなエメラルドグリーンの瞳と彼女がキラキラと輝いたように見えた。

それが僕とクララベルとの出会いだった。 


 僕たちは2人とも学院の2学年だったが、クラスは違っていたし面識もなかったけど、互いに「2学年に天使がいる」「2学年に妖精がいる」と噂には聞いたことがあるという程度だった。


 僕の友人は、しばらく彼女にボーッと見惚れていて、僕が「僕はベルモントだ。宜しく」と握手を求めると、彼女は頬を染めて「宜しくお願いします」とそっと手を握ってきた。

 とてもとても小さくて白い手で「あぁ妖精の手なんだな」となぜか自然に思ってしまった。

 友人は我に返り「ベルだけずるいぞ!」と言っていたが、彼女は授業開始前の鐘の音を聞いて慌てて一礼して去って行ってしまった。


 今までも同じ学院に通っていたはずなのに、どうして全く会わなかったのか?

 一度会ってしまうと、彼女の姿を大勢の中でも見つけるようになった。それから彼女との交流が少しずつ始まった。

 最初は挨拶だけだったけど、段々、会話が増えて気付けば、たまに一緒にランチを取る仲になっていた。


 侯爵家の取り巻きの家の子女達、特に令嬢達が「たかが子爵令嬢が筆頭侯爵家に」とうるさかったが、彼女のことは煩わしい兄から逃れるために使えるかもしれないなと考えるようになっていた。

 僕は皆が思っているような外見通りの人間ではないと思う。

この外見に寄ってくる人間を何食わぬ顔で手足のように使っている。


 クララベルとの出会いは本当に偶然だった。

僕に対して下心があった訳でもないし、あの容姿なのに男性との噂を一度も聞いたことがなかった。

 所作も礼儀も子爵家のわりにきちんとしている。

恐らく実家でしっかり教育をされて育ったのだろうと分かる少女だった。


 僕には兄が4人いて末っ子ということで、可愛がられ甘やかされて育ったと思う。

 特に一番上の兄は過保護で口うるさく束縛が激しかった。

すでに結婚もして自身の息子もいるというのに、僕への執着が止まらない。義姉も一緒になって僕を可愛がる人だった。


 学院に入っても兄の仕込んだ取り巻き達に囲まれて、僕の行動を逐一報告される生活は鬱憤の溜まるものだった。


 僕の容姿は、絶世の美女と誉れ高かった祖母である王女殿下とそっくりなのだそうだ。すでに亡くなっておられるが、王女殿下も淡い金髪に水色の瞳をしておられたそうだ。


 そんな環境で僕が多少まともに育ったのは長男以外の兄達のお陰だろう。

 2番目の兄は長男の溺愛ぶりに呆れ、いつもコッソリと兄から隠してくれた人だ。

 3番目の兄は適度に手を抜く要領を教えてくれた人だ。真ん中だから適当でも目立たないのさと笑っていたが、実は一番抜かりのない人だった。

 4番目の兄は最初は僕に酷く嫉妬していた。末っ子というだけで全てを持っていくなんて許せないと思春期の八つ当たりの対象にされた。

 今となっては4番目の兄が一番僕に対して対等に接してくれていたのだと思う。

 良くも悪くも兄からは喧嘩を教わったし、人の悪意と貶め方も学んだ。


 そんな兄達は今ではさっさと、この厄介な侯爵家を出て自由に暮らしている。

特に4番目は家に見切りをつけるのが早かった。

この国の学院には行かず隣国に留学して、そのまま向こうの国で伯爵令嬢に見染められ結婚し移住した。

僕に今まで、たくさん八つ当たりして悪かった。

早く兄貴から逃れられるよう祈ってるよと言って。


 3番目の兄は騎士学校に入った。

近衛騎士になり王城内の警護にあたっていた時に、1人の令嬢と出会い恋仲になった。

 彼女は公爵家の三女だったため何の障害もなく婚約できるはずだったが、急に子供ができない王太子殿下の側妃として父親に差し出されてしまった。


 兄は元恋人が王太子の側妃として側にいるのを見ていられないと近衛を辞め、傭兵になると言って国外に出てしまった。


 次は僕の番だ。

兄はどんな女性を連れて行っても許してはくれないだろうが、ベルならばと思った。

彼女ほど庇護欲を掻き立てる人はいないし、侯爵家5男の僕には地方の子爵家はちょうど良い。

面倒な社交もせず、妻を守るためと言って領地にこもり、直ぐに子供を作ってしまえばいい。

 僕はベルとの距離をどんどん詰めた。

もう2人でいることが当たり前になり誰も文句を言うどころか、この2人でなければダメだと言わせる程の公認のカップルになっていた。

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