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近衛騎士と聖騎士は、どちらも毎年1人か2人の合格者数で超激戦の最難関の就職先だった。ただ近衛騎士は王族や大臣、国賓の警護をするため貴族から優先に選ばれるか、平民でも高位貴族の推薦が必要だった。
それに比べ聖騎士は平民からでも、優秀で女神様への信仰心さえあれば門は広く開かれており近衛騎士よりも更に激戦であるという話だった。
近衛も聖騎士も両方を併願する者はほとんどいない。なぜなら2つは入団対策が違い、聖騎士は信仰心の証として神殿に通う姿を見せねばならないし、近衛騎士や王国騎士は夏休みに1ヶ月間、見習いとして入団しないといけないからだ。
『ライオットお兄様、私は聖女候補の侍女として神殿に入り順調に過ごしております〜』との便りをもらった侯爵家次男ライオットはマリベルロス真っ最中だった。
決して15歳になったばかりの従姉妹に恋愛感情を持っているわけではないが、とにかく可愛かったのだ。金の髪も水色の瞳もキラキラしていて本当に妖精のような少女だった。
母が「父の溺愛していた末の弟にソックリだ」とは言っていたが、もうマリベルを可愛がることは遺伝なんだとライオットは思ったのだ。
聖騎士には母方の従兄弟のアドリアンがなっている。従兄弟とは昔、騎士学校で首席を争った中だが、ライオットは首席の座を一度も彼に譲ったことがなかった。
最高学年に進み、そろそろ進路をというタイミングで、アドリアンがライオットに言い出しにくそうに進路を聞いてきた。
ライオットは兄と同級生の王弟殿下に昔から可愛がられており、騎士学校に入ると決まった時も「近衛を目指して、ぜひ王族を手助けして欲しい」との激励を受け、希望は近衛騎士一択だった。それを伝えると、アドリアンは安心したように「俺は聖騎士になりたいんだ」と言った。なるほど自分が聖騎士を目指すと言えば伯爵家で次席のアドリアンは学園の推薦で聖騎士を目指すことができないと
心配だったのだろう。
ライオットはアドリアンを安心させるために「俺もアドリアンが聖騎士になれるように応援するよ」と伝えると、アドリアンは泣いて喜んでくれた。
そんなこともあったよなぁとライオットは回想に浸る。
自分があの時、聖騎士を選んでいたらマリベルの近くにいれたのだろうか。ライオットが人知れず考えに耽っていると、主人である王太子殿下が何だか悩ましげにやって来て「はー婚約者がいるのにララベルが可愛いんだよー」とライオットに言った。
「ララベル?」とライオットは聞き覚えのある名前に「兄はベルトルトと言うのでは?」と聞いた。「そうそう美しい兄妹でねぇ。今、2人セットで側に置いてるんだ」と王太子殿下は嬉しそうに、そう言った。
「殿下、苦言を申し上げるようで申し訳ないのですがー」と言うと王太子殿下は慌てて、ライオットの言葉に被せてきた。「分かってる分かってるよライオット。
ララベルはただの子爵令嬢だし王妃になれる器でもないよ。ただ本当に可愛いくて癒しなんだよ。それをお前と2人きりの時に言うくらい許してくれないかなぁ」
ライオットと王太子は殿下が小さい頃から側で守ってきた兄弟のように気安い仲だった。「いや、殿下違うのです。ララベルとベルトルトは私の従兄弟でして…」と言いながら、まさか殿下まで自分と同じ想いを抱えているとは、と気まずく思うのだった。