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顔面蒼白で震えるマリベルに気付いたビアンカ様が、心配そうに「ちょっと!マリベル真っ青じゃない大丈夫?」と聞いてきたが、マリベルは震えが止まらず、咄嗟に皆の前で「それ私の兄と姉です。特に姉の方、両親に憧れて恋愛脳で少し頭が弱いんです!お騒がせして申し訳ありません」と一気に捲し立てて、敷物の上で正座して土下座をかました。
聖女候補の皆様も男爵令嬢のお2人も「まあ!」と仰って驚いていたけど、口々にマリベルさん、顔を上げてと仰って下さり、公爵令嬢は嫉妬されていたけど、まだ誰にも迷惑かかってないしねと言って下さった。「まだ、ですよね?」とマリベルの心は大荒れだった。
時を同じくして侯爵邸ではマリベルが去った後、火が消えたような寂しさを皆が感じていたが、先日、小侯爵夫人の念願の2子目の妊娠が発覚し、少し賑わいを取り戻していた。
安心する侯爵とお茶を飲みながら侯爵夫人が「あの子は本当にあなたの末の弟のベルモントとそっくりでしたねぇ」とポツリとこぼした。
「あなたに嫁いだ時、あの子はまだ8歳で、それは可愛くて可愛くて、学院に行く年齢になっても、悪い虫が付くから行かなくてもいいと、あなたは大反対でしたものね。すでに自分には息子が2人もいたのに」と言って笑う。
侯爵はバツの悪そうな顔で「別に息子達が可愛いくなかった訳ではない」と言いつつも「でも弟は学院で自分で伴侶を見つけて来た」「あなたがベルモントに恋人を紹介するって言われた時、相手の女性を排除する気、満々でしたよね」
「あぁ、でも、できなかった」「彼女も儚げで、まるで妖精みたいな子でしたもんね。あの時のあなたの顔といったら」と夫人は微笑む。
「ベルに『彼女は俺が守らないと』と言われた時の私の気持ちが分かるかい?」
「天使が妖精を守るんだと思いましたよ。あなた、あれから子爵家の援助を陰ながら頑張っていましたものね。でもまさか5人も子供ができるとは思いませんでしたけど」と侯爵夫人は夫以外が見ていないことをいいことに我慢できずに声を出して笑い出す。
「しかも、現王と王弟、うちの子達も教えた元家庭教師まで派遣するなんてね」
「あれはあいつが、もう引退して田舎でまったり子供達の相手をしたいと言うから!それに子爵家の夫人は当時、“鉄壁の淑女”と言われた元伯爵令嬢だっただろ?きっと孫達にも礼儀や作法を厳しく叩き込むと思ったんだよ」
「その鉄壁の淑女も美しく儚げな子爵令息にコロっといきましたけどね。フフフ。話は変わってマリベルの妹のリリベルちゃんはどうしますか?」
「まだ10歳だろう。親元から離したら可哀想だ。しかも夫人にソックリだ。次男は水色の瞳だ。次男だな。」「12歳でしたわね。学院の準備に入る前に孫の侍従の話を持っていきましょうか?」「そうだな。学院に行くより良い教師を付けてやろう。孫が跡を継ぐ頃には立派な片腕になるだろう。直ぐ連絡だ!」
マリベルで味をしめた侯爵家の第二の癒しはこうして次男のベルナルドに決まった。