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 マリベルは王都から離れた地方にある子爵家の次女だった。

 子爵家は子沢山でマリベルは上に兄と姉、下に弟と妹のいる5人兄妹の真ん中だった。子爵家は貧乏ではないが裕福でもなく、また祖父母も両親も清貧を良しとしていたため、マリベルは洋服も小物もアクセサリーも姉と共有だったし、本や玩具などは他の兄妹とも共有で自分の物はほとんど無かった。


 それでも家族は皆、仲が良く、兄妹が多くてもマリベルは他の兄妹と変わりなく愛されて育った。


 子爵家は贅沢には興味は無かったが、教育面には熱心で、優秀な家庭教師を親戚の侯爵家から派遣してもらったり、伯爵家出身の祖母にマナーをしっかり躾けられ、マリベルも兄妹達もどこに出ても恥ずかしくないよう育てられた。

 

 また祖母は毎日、領内の神殿に通うほど信心深い人で、マリベルも祖母に付き添い、毎日を女神様に感謝しながら日々を過ごしていた。


 この国では15歳になるとほとんどの貴族が王都の貴族学院に入学する。兄も今年15歳で学院に入学する予定だった。そして姉は来年は自分が学院に入り、両親のような恋愛結婚をするのだと夢見ていた。

 マリベルも姉の次に学院に入学予定だったが、結婚については自分の分まで持参金の捻出は厳しく、貴族の家に嫁ぐのは難しいのではないかと漠然と思うようになっていた。


 子爵家の人々は皆、淡い金髪に父は水色の瞳、母はエメラルドグリーンの瞳をしていて、兄妹も金髪と、どちらかの瞳を受け継ぎ、中々の容姿ではあったが、それだけで良縁があるとは思えないと、マリベルは現実的に考えていた。

 きっと両親はマリベルを犠牲にしようなどとは考えてもいないだろうが、後に控える弟や妹のために自分は職を得るか、持参金の要らない裕福な商人などに嫁ぐのが理想なのだろうと子供ながらも将来について考えるようになっていた。


 この国には魔法があって人々は女神様から魔力を授かっている。

 魔法は生活や医療、時には戦闘にも用いられ、魔力は生まれ持った量以外にも努力や研鑽次第で生涯増える。

 ほとんどの人は生活魔法のみか、家業にちなんで魔法を身に付けるのだが貴族は生活魔法以外は、学院で自分の適性を知り、その方面に伸ばしていくことが多かった。

 魔力の量は就職には有利だが、結婚にはそれほど影響しないため、貴族の女性は生活魔法以外はそこまで熱心に伸ばすことがなかった。

 しかしマリベルは自分の将来のために、様々な学習以外に魔力を伸ばすことにも早い頃から意欲的だった。侯爵家御用達の家庭教師も、そんなマリベルの心情をうっすらと察し熱心に指導をしてくれていた。


 1年後、姉が学院に入学し、自分もそろそろ入学の準備を始めねばという時に、王都からの情報を得た家庭教師がマリベルにある提案をしてきた。

 近々、聖女様が任期を迎え引退される。そのため神殿では新しい聖女の選出があるのでマリベルは学院ではなく神殿に入ってはどうかというのだ。

 マリベルが聖女を目指すのではない。聖女は候補になっただけで、かなりの箔が付き結婚に有利なのである。歴代の王妃にも聖女や元候補は多い。聖女候補はすでに高位貴族から希望が殺到しているらしい。マリベルは聖女候補の侍女として神殿に入るのである。


 侍女は平民も希望できるので狭き門ではあるがマリベルは子爵令嬢でもあるし、親戚の侯爵家の推薦があればきっと選ばれるであろうとのことだ。

 ちなみに聖女候補は14〜16歳までの少女が対象で侍女も同様である。なので神殿に入れば学院には行くことはできないが、少なくない授業料のかかる学院ではなく、むしろ給料の出る神殿に入ることはマリベルにとって願ったり叶ったりだと思った。


 マリベルは家庭教師に礼を言い、早速、両親に相談して侯爵家の推薦を依頼したのだった。両親は学院に進学しないことを心配したが聖女の選定期間は2年間だ。その後はそのまま神殿に残り聖女の侍女になるか、神官になるか、神殿を出て学院に編入することも、結婚も自由であると聞いた。

 

 マリベルは初めて自分の未来が拓けた気がして、今日の祖母との礼拝時には、神殿にわずかな寄付をし女神様に感謝の祈りを捧げたのであった。

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― 新着の感想 ―
聖女を目指したフリをして神殿入りすることになり、その選択が正しかったのか、続きがとても気になるところです。 少しずつ読み進めたいと思います。
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