第11話:5歳の本能
「朝ご飯できるわよ~」
「「んん……今行く……」」
翌朝、良い匂いが漂ってきて目が覚めた。
キッチンでトントンと食べ物を刻む音が聞こえる。
コモン家では母が一番早起きだ。
美味しそうなご飯の匂いで、私と父は目覚める。
「「ぶわぁぁ~……」」
いつも手伝おうと思うのだけど、どうしても起きられないのが歯がゆかった。
幼女の身体では、手伝えるのはまだまだ先かもしれない。
父と一緒に顔を洗ったりして身支度を整え、食卓へ向かう。
テーブルに並べられた料理を見た瞬間、父と私の心はどんちゃん騒ぎになった。
「「……うわぁっ!」」
「ルーちゃんのおかげで良い食材がたくさん買えたからね。奮発しちゃったわ」
<霜降り豚のベーコンサンド>:Aランク。言わずと知れた霜降り豚のベーコンを挟んだサンドイッチ。カリカリに焼かれたお肉とふわふわのパンが絶妙なハーモニー。
<宝石ベリーのサラダ>:Sランク。赤や青、緑などジュエルのように輝く宝石ベリーが入っているサラダ。石みたいに見えるけどちゃんと食べられる。甘さと酸味を楽しもう。
<ジューシーオレンジ100%ジュース>:Aランク。一口食べると顔が輝くほどの栄養が詰まったジューシーオレンジを、豪快に100%使ったジュース。これを飲めばニキビともおさらばだ。
Aランクの料理がこんなに!
しかも、サラダに至ってはまさかのSランク。
母の料理スキルも相まってか、もはや食べ物が輝いている。
なんて神々しい……。
父も涎を垂らしながら呆然としていた。
「こ、この人生でSランクの食べ物が食べられるなんて……」
「さあ、好きなだけ食べてね」
「「い……いただきま~す!」」
母の言葉を合図に、料理へかぶりつく。
まずはサンドイッチから。
ふわっとしたパンを噛んだと思ったら、カリっとしたベーコンを噛み締める。
口内に迸る肉汁……パンの薄味をカバーする濃厚な塩加減。
フルーツサラダは甘味と酸味がパラダイスだし、ジュースを飲んだら一瞬でお肌がとゅるんとゅるんになった。
なるほど、これはたまらんね。
「お腹もいっぱいになったし、私はそろそろ店に行くよ。今日は昼休みに一回帰ってこようかな」
「もうそんな時間なの。行ってらっしゃい、スモーリー。気を付けてね」
「ちょっと待って、お父たま。私も一緒に行く」
家を出ようとする父を呼び止めた。
「また錬金術で何か造る」
「いや、今日は家にいなさい、ルー。昨日歩いて疲れたろう」
「ううん、全然疲れてないよ。だから……」
「ありがとう、ルー。でも、のんびりゆっくり休んでいなさい。風邪でもひいたら大変だろう」
父は私を撫でながら、優しく諭すように言う。
うん……今日は家にいるか。
体力は有り余っていたけど、父を心配させてはいけない。
「わかった、家で待ってる」
「もう納得したのか。やっぱり、ルーは賢いなぁ。もしかしたら、前世は天才少女だったのかもしれないぞ、はっはっはっ」
ギクリ……とした私に気づかず、父は豪快に笑っていた。
「ほら、早くしないと遅れちゃうわよ」
「は~い、行ってきま~す」
母に言われ、ようやく父は立ち上がる。
例のごとく、互いに投げキッスの応酬をして父は去っていった。
「じゃあ、お母たまは洗濯物を干してくるわね」
「あっ、私も……」
手伝うと言い終わる前に、母は外へ行ってしまった。
ポツンと取り残される私。
う~ん、これから何しよう。
ルー時代は数少ないおもちゃで遊んでいたっけ。
部屋の片隅を見る。
無造作に転がっているのは、四角や円柱の積み木、木彫りの人形などだ。
いずれも父が廃材で作ってくれた。
つい最近まで遊んでいたのに、不思議と懐かしさを感じる。
おもちゃをいじるのも楽しいけど……。
「いい機会だし、前世の記憶をもっと思い返そうかな」
思い出したと言っても、まだまだぼんやりしている。
じっくり記憶を思い起こせば、錬金術の精度も上がるだろう。
さっそく外に出ると、母が鼻歌交じりに洗濯物を干していた。
邪魔しないように、こっそりと家の裏手に向かう。
「この辺りなら邪魔にならないはず……ん?」
思案に耽ろうとしたら、きちんと壁際へ寄せるように置かれた物体が目に入った。
<壊れかけの三輪車>:Dランク。スモーリーが東方からやってきた行商人から入手したもの。車輪が3つついており安定感抜群。軸が曲がりかけているから、操縦には気を付けてね。
私の3歳の誕生日プレゼントに、父が懸命に努力してゲットしてくれた物だ。
それ以来、大切に大切に乗り継いできた。
この三輪車を選ぶセンスは素晴らしかったのに……あの頃の父はどこへ行ってしまったのか。
これもそのうち錬金術で修理しよう。
物思いもそこそこに、さて、と手ごろな石の上に座る。
「目を閉じて、ゆっくり深呼吸して……」
前世の記憶を思い出すのは容易い……そう思っていたのだけど……。
急に沸々と、とある欲望が湧き上がってきた。
――……遊びたくなってきたよ?
何もしていないのに、いや、何もしていないからこそ体がうずいて仕方がない。
5歳児と言えば、絶賛遊び盛り真っ只中。
遊ぶな、ジッとしろ、と言われても無理に決まっている。
それでも、宮廷錬金術師としての経験を活かして思案に集中っ!
しようとするけど、やはり遊びたくなってしまう。
前世では何十時間も集中できたのに、どうして……。
その後も苦戦すること数分。
「……遊ぶか」
諦めた。
遊ぶのを我慢すればするほど遊びたくなってくる。
それなら、いっそのこと遊び尽くしてやれ。
三輪車の修理は遊びって感じがしないからなぁ……そうだ、ゴーレムでも造るか。
適当に周辺の素材を集める。
<ボンヘイ山の土>:Dランク。やや粘土質寄りだが、水はけも水もちも良好。作物を育てるのに、大規模な土壌改良が必要ない程度には良い土。ギュッと握ると固くなる。
<ボンヘイドングリの実>:Eランク。この辺りの山にたくさん生えているブナ科の木の実。虫も入れないほど硬い。また非常に渋いので、食べるには念入りなアク抜きが必要。
<ハトガラスの羽>:Dランク。ボンヘイ山にたくさん住んでいる鳥の羽。ふわふわしている上に入手が容易なので、羽毛枕の材料として需要がある。
<ノマル石>:Eランク。どこにでも転がっている一般的な小石。珍しくも何ともない。
まぁ、こんなところでいいでしょう。
ほんのちょっとした遊びだし。
とは言っても、どうせなら自我があるゴーレムがいいな。
良い話し相手にもなるだろうしね。
素材をよく観察。
それぞれの粒子の配置に適した錬成陣を描くのだ。
ガリガリガリっとチョークを走らせていると、地面にいい感じの錬成陣ができた。
よし、いいね。
では、さっそく。
「<アルケミー>!」
土やら木の実やらが分解されて織り交ざる。
いいぞいいぞ、もっとやれ。
錬成の様子を見ながら考える。
う~ん、どんなゴーレムがいいかな。
ドングリを使っているからドングリゴーレムとか。
ははっ、弱そう。
面白がって魔力を込めていたら、しゅんんん……と余韻を残しながら錬成は終わった。
そこにいるのは…………ふわふわした一匹のリス。
うん、なんで?
〔おっ、アンタがわてのマスターかいな。造ってくれてありがとうな~〕
「えっ」
〔こりゃまたカワイイお嬢さんやねぇ~〕
なんかめっちゃ喋るんですけど。
というか、なんでリス。
<錬金魔道具・ルーのごーれむ1号機 リスタイプ>:Bランク。リスの形をしたゴーレム。ボンヘイ山の素材から造られた。エネルギー源はルーの魔力とドングリ。石をも砕く強靭な歯が武器。
そうか、ドングリうんぬんとか考えていたからリスになっちゃったんだ。
そして、ゴーレムのくせにモフモフしているのはなぜ?
……わ、わかったぞ、ハトガラスの羽を使ったからだ。
〔なあなあなあ、アンタの名前を教えてくれへんか? なんて呼べばいいかわからんわ~〕
「ル、ルー……です」
〔へぇ~、ルーって言うんかぁ。名前もカワイイなぁ。ちゅうか、敬語なんて使わんでええで。アンタはわてのマスターやん〕
リスゴーレムはお腹を抱えてゲラゲラ笑っている。
前世でもこんなゴーレム見たことないんですが。
〔そらそうと、うちの名前も早う決めてくれへん?〕
「な、名前?」
〔名前は大事でっせ~〕
えええ~。
どうしよう。
名前……そうだ。
「じゃ、じゃあ、リリスで」
〔そのまんまやないか~い! まぁええわ。気に入ったで、リリス〕
リリスと名付けると、彼女(?)はゴーレムと思えないほど表情豊かに笑う。
も、もっと落ち着いた感じで良かったんだけど……思い描いていたのと全然違った。
おまけにやたらと変な方言で話すし。
やっぱりまだ本調子じゃないんだ。
〔おっ! ここがルーの家かいな? へぇ~! ええところに住んでるやんか!〕
リリスがちょろちょろしながら家に向かう。
ま、まずい。
母が見たら100億%卒倒するじゃん。
「リリス、ちょっと待って!」
〔なんや。ルーの家見たいねん〕
「い、今はお母たまが洗濯してるから……」
〔そんなら、なおさら挨拶せえへんと〕
「だから、待ってって……!」
リリスは小っちゃくてすばしっこい。
5歳の身体で捕まられるはずがなく、あっという間に母の前に出てしまった。
「まぁ、かわいいリスちゃんね~」
「お、お母たま、待って! それは……!」
〔わてはゴーレムのリリスっちゅうねん! さっき、ルーに造ってもろたん! ほな、よろしくな~!〕
「…………びゃあああああ、リスが喋った!?」
ずどーん! と卒倒した母を介抱するのはやっぱり大変だった。
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